第7話 カルスト台地は通過するだけ

「うわあ! 関門海峡凄い! 海が綺麗! ねえねえ。端っこを走ってよ」

「わかったからはしゃぐな。エリちゃんが暴れるとサイドカーが直進しない」

「ごめん。でも、物凄く気持ちいいよ」

「だな。高速道路がそのまま残ってて良かったよ。やっぱ早いわ」

「そうだね。岐阜まで高速走れたらいいね」

「そりゃそうなんだが、寄るところがある」

「何処に?」

「山口大学だ。そこにじいちゃんの設計に関わった偉い人がいるんだ」

「そうなの?」

「じいちゃん情報だと偉い人らしい」

「うん」

「例の、岐阜県にある人類再生センターについての詳しい情報を持っているらしい」

「らしいなんだね」

「その人の存在自体が違法行為だから仕方がないさ」

「そうなんだ。偉い人なのに違法なんだ」

「詳しくは知らんけど、どうやら人間の意識をコピーできる技術らしいぞ」

「あれ? じゃあ、悪用したら同じ人間を量産できるの?」

「そういう事なんだろうな。だから違法。しかし、その技術を使ったら獣人も機械化人も元の人間に戻れるって話」

「何の事やらさっぱりわかんないけど、こんな地獄みたいな世界を元に戻せる可能性があるんだね」

「そう。その、偉い人が山口大学にいるんだ。ついでに言うと、じいちゃんの設計をしたのもその人らしい」

「あらら。きっとその偉い人は大昔のアニメが大好きなんだよ」

「そうかもな。AIは設計者の性格がなんとなく反映されてるって話だから」

「なんなくじゃなくて、露骨だと思うよ」

「だよな」

「あんなアニメの趣味って、どう考えても普通じゃないもんね」

「っと、高速降りるぞ。ここから秋吉台を通って山大に向かう」

「うん」

「おおっと。ウリ坊め、ちょろちょろすんなよ。おお、母親はデカいな」

「ほらあそこ、鹿がいるよ」

「ほんとだ……あ、あっちには猿がいる」

「あのエテ公、あたしに色目使ってる」

「猿のくせに生意気だな。エリちゃんに手を出したらレーザービームで丸焼きにしてくれる」

「丸焼きにするのは勝手だけど、あたしの晩ごはんにするのは嫌だよ。あんなの食べたくない」

「わかってるって。キモイもんね……あれれ?」

「どうしたの?」

「この辺、秋吉台のハズなんだけど。カルスト台地の石灰岩がほとんど見えない」

「そうなの? 草が茫々だし、あちこち木も生えてるね」

「ああそうか。ここ何年か山焼きをしてないんだ。だから草も木も生えてる。このままだと普通の森になっちゃうな」

「なるほど。大自然の雄大な息吹を感じさせるカルスト台地は、人間が手を加えて維持されてた人工的な自然だったって事かな」

「そうだね。人の手が入らなければ、単なる森になってしまうんだ」

「うーん。それってさ。人の手が加わった方が、自然は生き生きと輝くって事になるの?」

「そういう部分もあるって事かな。自然崇拝してる人って、人間はすべて悪だという前提で、人間を極力排除しなくてはいけないって考え方してるみたいだけど、実は人間も自然の一部だって事なんじゃないかな」

「それ、なんとなくわかるよ。獣人と自然は相性が良いんだって」

「そろそろ山大に着くよ」

「いやいや。この辺、猿ばっかじゃん」

「そうだな。大学が猿の拠点になってる」

「駐車場に停めないの? そのまま中に入っちゃうの?」

「うん。守衛さんいないし。学生さんも職員さんも誰もいないし」

「なるほど。大学って、結構広いんだね」

「山大は広い方だって話だよ。学内でレースができる舗装路があると聞いた」

「確かに。建物の間隔が広いし、これ、レース出来そうだね」

「行先は経済学部」

「え? 医学部とか理学部とか工学部とかじゃなくて経済学部なの?」

「情報ではそうなってる。経済学部の電算室へ行けと」

「……一抹の不安が……」

「じいちゃんを設計した人だから、何があっても不思議じゃない。気にした方が負けだ」

「うん」


 サイドカーを降りた二人は経済学部の中へと入っていく。数年前に放棄されたであろう鉄筋コンクリートの校舎だが、手入れが行き届いており、今も誰かが使用しているかのようであった。




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