第5話 魂を持たぬ者たち

「ところでさあ。あたしは何で古いアニメの知識があるのかなあ。不思議」

「犯人はじいちゃんだな。あの人が仕込んだ」

「???」

「何も覚えてないのは辛いだろ。だから、アニメを沢山見て楽しんだ疑似記憶をインストールしたんだ」

「そうなんだ。もしかしてアンタも?」

「その通り。エリちゃんと話が合わないと困るだろ?」

「そうだよね。でもさ。子供の頃に一生懸命みたアニメが『ふしぎなメルモ』だって、冷静に考えたらありえないんだよね。放映されてたの150年も前だし」

「でもさ、楽しい思い出だろ?」

「うん。楽しい思い出になってるよ」

「だよな」

「それはそうと、何か匂うよ」

「あっ! パッシブセンサーに反応が! 気付くの遅れた……金属反応と磁気反応多数」

「囲まれてる?」

「そうみたいだ。中華帝国製の機械化歩兵が十二。はぐれ部隊だ」

「大陸から日本に逃げて来たの?」

「多分な。指揮系統が壊滅したんで、どこで戦っていいのか分かってないんだ」

「ふむ。空軍と機甲部隊の支援がない歩兵。しかも弾薬は尽きて格闘のみと……私の出番だね」

「待て。俺が戦う。お前は隠れてろ」

「ダメだね。あいつらどうせ、例のバクテリアに汚染されてるんだろ? アンタに感染してもらっちゃ困るんだよね」

「そりゃそうだが」

「まかせろ。あたしはね。対機械化兵特化型の獣人戦士ビーストウォーリアなんだ」

「え? お色気担当じゃなかったのか?」

「今思い出した。私はビーストウォーリア。機械化兵は全てぶっ壊す。重獣化ビーストブート!」

「う、嘘だろ? 体が、筋肉が膨れ上がって……衣類が千切れたけど……何ちゅう剛毛だあ……おっぱいが見えねえ!」

「おっぱいなら後でたっぷり見せてやるよ。うぉおおおおおお!」

「馬鹿! 一人で突っ込むな! あああ? 何ちゅうスピードだよ? 早すぎる。視力がついて行かねえ!」

「うごおおおりゃああああ!」

「すげえ! 凄すぎる! あの爪、チタン合金の装甲ぶち抜いてるよ。あの貫通力は40ミリクラスの速射砲並み? 後ろ! 危ねえ!」

「はん? あたしを舐めんじゃないよ!」

「背中に目が付いてるのか? 神業か? 回避能力がパネェ!」

「あたしの体毛は感覚器官を兼ねてる。全周囲360度見えてるんだよ!」

「うわああ! 腕を引きちぎった! 何ちゅう馬鹿力だ」

「ごるあああ!」

「全滅させた。中華帝国製の残虐な機械化兵十二体を……一分で……エリちゃん……凄いね」

「ザットこんなもんよ」

「それ、ZAT(Zariba of All Terrestrial)隊員の台詞だよな」

「うん。ウルトラマンタロウですね」

「誰の入れ知恵だかなあ。そりゃそうと、機械化兵の残骸を一カ所に集めてくれるかな。焼却するから」

「わかった。アンタは手を出すなよ。感染が怖いからな」

「わかってる」

「ところであたし……こいつら殺しちゃったのかな?」

「気にしなくていいよ。こいつらは軽金属腐食バクテリアに汚染されて基幹AIが死んでるんだ。人間で言えば脳死状態って事さ。もう魂も抜けてる」

「そうか。ゾンビみたいなんだね」

「だから気にすることはない」

「うん」

「じゃあ燃やすぞ」

「ガソリン使うの?」

「使わない。このテルミット焼夷弾にお任せだ」


 エリザが作った機械化兵の小山に、劉生が大きめの缶を投げ入れた。それは直ぐに眩しい光を放ちながら発火した。テルミット反応による激しい火炎は、機械化兵の残骸を僅か十数分で焼き尽くした。

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