第4話 じいちゃんの遺言

「じいちゃんの遺言は二つある。一つは、お前を大事にしろと。貞操を守ってやれと」

「うん」

「もう一つは、俺たちが元の人間に戻れる可能性があるから、そこへ行けと」

「それは初耳かも」

「そうだったかな? 岐阜県にある人類再生センターだ。獣人も機械化人も、そこへ行くと元の人間に戻れるらしい」

「らしい……なの?」

「公式データでそうなっている事は確認済みだ。ただし、そこへ行って人間に戻った人がいるのかどうか確認できなかった」

「わからないんだ」

「そう、わからない。成功例や失敗例なんかのデータがあればいいんだけど何もない」

「行ってみないとからないんだね」

「そういう事だ」

「人間かあ。あたしも元人間だったのかな」

「そりゃそうだ」

「全然覚えてないよ」

「そうみたいだな。お前が救助された時、知能の回復に手間取ったんだ」

「さっき聞いた」

「知能は概ね回復できたんだが、記憶の再生は難しかったみたいだな」

「ほとんどできなかったんだね」

「ごめん」

「アンタが謝る事じゃないよ」

「そうかな」

「そうだよ。人間だった頃の記憶か……ヤバイ。まるで覚えてない」

「お前が覚えていたのは、名前と胸のサイズと彼氏いない歴だった」

「あちゃー。そんな恥ずかしい事を喋ってたんだ。彼氏いない歴は年齢と同じ、18年でございます」

「お前さあ。意外と魅力的なのにな。彼氏、いなかったんだな」

「そうみたいだね。多分、正真正銘のお堅い処女です。Gカップです。程よく熟してます。食べごろです。きっと甘くて美味しいよ。味見してみる?」

「だから! じいちゃんと約束したの。俺はお前の事を守らなきゃいかんのだ」

「ところでさ。アンタさあ。お前、お前って、可憐な女の子に向かって言う言葉じゃないと思うよ。もうちょっとさ。可愛い呼び方してくれてもいいと思うんだけど」

「言われてみれば、そうかも」

「そうだよ。女の子には優しくね。話しかけるときは、可愛い呼び方でね」

「ふむ。じゃあ、白猫女王」

「ぶー。可愛くない」

「終末世界の猫だから、ヘルキャット」

「それじゃあ性悪女だよ」

「なら、セクシー不二子ちゃん」

「むむむ。確かに不二子ちゃんは綺麗だしセクシーだけど、あたしは処女だよ。似合わなくない?」

「じゃあ、メルモちゃん」

「あちゃー。また古いの出して来たね。赤いキャンディ青いキャンディのメルモちゃんだよね。彼女、可愛いんだけど小学生だよ」

「青いキャンディを一つ食べた時の、19歳のメルモちゃんは超セクシー美少女だからそのイメージで。第一話から入浴シーンもあったし」

「ならいい……わけないでしょ。オリジナルなのを考えてよ。アニメキャラじゃなくて」

「じゃあ、エリザだからエリちゃん」

「あっ!」

「どうした?」

「あああっ!」

「どうしたんだ?」

「これ、刺さった?」

「刺さった? 何が刺さったんだ? 大丈夫か? 痛くないか?」

「エリちゃんが……可愛い……の」

「そういう事か。何か怪我でもしたかと思った」

「大丈夫。ズギューンってストライクゾーンをぶち抜かれた感じ」

「それならよかった。今からお前じゃなくてエリちゃんにする」

「うん。よろしく」

「ところで、俺の方はどうするんだ」

「アンタはアンタ。他の選択肢はないよ」

「それは酷くないか」

「ない」


 この二人、いつまで喋ってるんかな。駐車場が何者かに囲まていますよ。







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