第3話 港湾システムAI

「じいちゃんの事、覚えてるか?」

「覚えてない」

「だろうな。俺とお前は遭難した貨物船から見つかったらしい。俺は直ぐに再起動され、じいちゃんと一緒にお前の蘇生に取り組んだんだ」

「そうらしいね」

「……」

「どうしたの? 顔、真っ赤だよ」

「ちょっと思い出した」

「何を思い出したの?」

「……言えない」

「え? 言えないの?」

「……」

「あたしの裸でも思い出したの? えへへ。自慢のGカップだからね」

「G……」

「そうだよ。Gカップ。ブラのサイズはG65。これはね、アンダーが65でカップサイズがGって事。カップサイズはAAから始まってIまでだよ。それ以上は特注。Gはトップとアンダーの差が24~26センチ。さて、あたしのトップサイズはいくつでしょうか?」

「そんな質問するんじゃない。こ、高度な計算だから咄嗟にできない」

「ええ? 単なる足し算だけど?」

「胸のサイズとか計算させるな」

「ねえねえ。計算してよ。ねえ」

「馬鹿、くっつくな。当たってる」

「当たってるって何が?」

「自分でやっててとぼけるなよ」

「何を?」

「だからその、くっつけるな押し付けるな」

「命令形はやだな。お願いして」

「お願いなんて……」

「ほらほら、自分のして欲しい事をお願いするの。できるでしょ」

「その、柔らかいものをグリグリ押し付けないでください」

「柔らかいものって、何? はっきり言わないとわかんないよ」

「その……90センチのおっぱいを押し付けないでください」

「ちゃんと計算してるじゃん。でも嬉しいんでしょ。おっぱいがくっついて」

「ウ……ウレシイ……デス」

「大きな声で言わないと聞こえないよ」

「う……嬉しい……です」

「うん。喜んでもらってあたしも嬉しいよ。じゃあ、もっとくっつくね」

「それは困る。お前に欲情してしまいそうで非常に困る」

「え? 欲情すればいいじゃん。機械化人にも性欲あるってさっき言ってたじゃん」

「性欲はあるが、それはできない」

「あたしがイイって言ってるんだからイイんじゃないの?」

「じいちゃんの遺言は守る」

「律儀だねえ」

「当たり前だ。じいちゃんは命の恩人なんだから」

「そうだったね。あたしは覚えてないけど」

「じいちゃんは俺の恩人であり、お前の恩人でもある」

「そうそう。あたしは覚えてないんだけど。どんな人だったの?」

「鹿児島県にある桜島港管理システムのAIだ」

「そうだった。人間じゃなかったんだね」

「あの人はどこぞの仙人みたいなハゲ老人のアバターを使っていたから、俺は遠慮なくじいちゃんと呼んでいた。じいちゃんはまだ稼働している人型ドローンを使って俺たちを救助してくれたんだ」

「うんうん」

「お前の蘇生と知能の回復もやってくれたんだぞ」

「そっか。あたし、死にかけてたんだ」

「対獣人生物兵器であるmRNA製剤に汚染されててな。蘇生は早かったんだが、知能の回復に手間取った」

「そうだったんだ。だからあたし、物覚えが悪いんだ」

「気にしなくていいよ。必要な事はちゃんと覚えてるから。暗記が苦手なだけ」

「うん。試験を受けることも無いしね」

「そのじいちゃんの遺言だ」

「遺言って、AIが死んじゃったの?」

「そう。正確には、桜島の大噴火によって港湾システムが壊滅したんだ。噴火は予想されてたから、俺たちはサイドカードニエプルで北上した。俺たちが出発した翌日に、桜島港は溶岩で埋まったんだ」

「そうだったね。寂しいね」

「ああ」


 エリザは劉生の肩に頬をこすり付ける。閉じられた彼女の瞼からは、大粒の涙が幾つも零れ落ちていた。

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