第7話 勇者召喚7「レオと呼んでくれ」
シャーロット様がアマリアを慰めて居られる。へたり込んで泣き続けるアマリアを正面から抱き寄せて背中を摩って宥めて居られる。その様子は
アマリアは
そんなアマリアとシャーロット様を勇者と合一を果たしたと言うレオンハルト様がなんとも言えない表情で見守っておられる。
私は彼女が落ち着くまで話の続きを待たれる御積もりと見て、気になっていた色々を御訊ねしてみる事にした。
「勇者様、すこし伺っても宜しいですか」
「勇者様は止してくれギリアム。呼び方は……レオと呼んでくれ」
「レオ様…ですか?レオン様でなく」
「ああ、これからもレオンの事は話題にあがる事もあるだろうし何時までも呼び方が定まらないとややこしい」
確かにご自分でも「レオンハルト」とか「前の私」とか色々な呼び方をされており、話を伺っている私としても少々ややこしかった。
「承知しました。レオ様。ところで少しお話を伺っても宜しいでしょうか」
「ああ、そうだった。何を訊きたいんだ?」
お許しが出たので今まで気になっていた事を訊ねさせていただく。
「では御訊ねいたします。レオン様は長く臥せって居られたのは御存知かと思うのですが、今のレオ様は顔色も良く咳も全くされておりません。もしや病が癒えられたのですか?ご無理は無さっておられませんか?」
「無理はしてないよ。女神様の御力で病は癒えた。これは勇者に与えられる加護の一つに常に健康な状態を保ってくれるものがあるからだよ」
「なんと……」
いきなり絶句してしまうようなお答えが帰ってきた。まるで当然のように仰っておられるが、それはつまりあらゆる病を撥ね退けるという事だ。今の世の中を乱しているものの一つに疫病があるが、何千何万という命を奪ってきたそれにもレオ様は罹らないのでは無いだろうか。何せ女神様の御加護なのだから…………。
「そんな怖い顔をしないでくれギリアム」
知らず俯いて考えて込んでいた顔を上げると、レオ様が苦い笑いを浮かべて見ておられた。
「お前の考えている事はだいたい解るよ……。そんな事が出来るなら女神様は何故苦しむ民を放っておかれるのか、何故レオン様には手を差し伸べて下さらなかったのか、そんな事を考えているのだろう?」
「はい……」
完全に内心を言い当てられた。正にその通りの事を考えて女神様に恨み事の一つも口にしてしまいそうだった。不敬だ。
「この加護の事を話すと大体の人は同じような事を考える……そう苦虫を噛み潰したような顔をしなくても良い。私だって同じような事を考えた事がある」
「……レオ様がですか?加護を御受けになる勇者様御本人であらせられるのに?」
そう訊き返して言わなければ良かったと後悔した。見ればレオ様は苦渋に満ちた顔をしておられた。
「まあ……いろいろある。私には毒も効かないしな」
「毒もですか」
毒絡みで何か昔にあったのだろうか。
「それは……あちらで、という事でしょうか?」
「いや、こちらで、だな」
何か昔を思っておられるのか、心ここに在らずという風で応えられている。しかしこちらでとはどういう事だろうか。レオ様は今日こちらに来られたばかりのはずなのに。
「まあ、女神様も無制限にお力を振るえる訳では無いという事だよ…………この話はここまでにしようか。何か他にはあるかな?」
新たな疑問を口にしようかと思ったところで、先に話題を変えられてしまった。まあ、先程のお顔を見れば無遠慮に聞いて良いお話でも無さそうなのでこれ以上は訊くまい。何か変わりに良い話題は無いだろうか。
「それでは……レオ様は妻と娘が居られると仰られておりましたが、「あちら」とやらでは御幾つくらいであられたのですか」
「もうすぐ三十だったよ。妻は同じ年で娘は五つ」
三十ですと。我々より随分と年嵩ではないか。それに娘御はまだ五つ。可愛い盛りだ。それは家に帰りたいなどと申されるはずだ。私にも小さく幼い妹がいるが、目に入れても痛く無い程に可愛い。娘ともなれば猶更であろう。先程シャーロット様とアマリアをなんとも言えないようなお顔で見て居られたのは、ひょっとすると泣いている娘を見ているようなお
それからもアマリアが落ち着くまでいろいろとお訊ねしたが、重要な事は「他の皆にも聞いておいてもらいたいから、後にしよう」と仰られるので、益体も無い話に終始した。
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