13

「大丈夫よ~、ほら~針が動いているでしょう~?」


 はなさんは、細い指で時計の秒針を指し示した。カチカチと一定に動いているのがわかる。

だが、ときの顔はまだ不安な色のままだ。


「でも、後で動かないって事もあると思うし……」


 ときは、時計を見下ろして針を見ているが未だに同じリズムで動いている。

 そんなときを見ていたはなさんは、思い出し笑いをすると針を指で動かした。

 12時に時計の針が来た途端、オルゴールの音色が鳴り響き出した。


「は、はなさん?」


 ときが疑問符を浮かべている間も、時計は音色を響かせ下の小さな扉が開き、中から夜星を連想させる時計が現れる。


「え?この時計……」


 ときは、目を見開いた。

 夜空に輝く流れ星のような色合いの数字、その真ん中には幼いとき向日葵ひまわり、そして、男性が仲良く寝転んでいる写真が星形に嵌め込まれていた。


「ふふ、私の大切な宝物の写真よ」


 はなさんは、優しく笑みを浮かべ懐かしげに写真を撫でた。


「……っ」


 何かを耐えるようにときは俯いた。

 はなさんは、その背中を優しく撫でるとそっと立ち上がる。


「さて、もうこんな時間だからときちゃん~、お泊まりしていったらどうかな~?」


 時計は22時半過ぎを指しており、いつの間にかビフレストはソファーで寝息をたてて寝ている。そんなビフレストに、はなさんはそっと毛布を掛けた。


「…………いえ……帰ります」


 ときは、顔を上げると申し訳なさそうに断った。


「えー?!泊まっていってよー!!」


「いや……それは無理だ」


 向日葵ひまわりときの言葉には耳を貸さず、腕に恐ろしい力でしがみつくと子供のように駄々をこねる。

 しかし、仮にも年頃の異性が泊まるのは色々まずいので、とき向日葵ひまわりをなだめるとやんわりと腕をほどいて鞄を手に取った。

 向日葵ひまわりは、しおれた花のように落ち込んでいるが気にしていたらいつまでたっても家に帰れない。

 ときは、向日葵ひまわりの頭を撫でると寝ているビフレストを起こさないように抱き上げ玄関へと向かった。


「それじゃあ、はなさん、向日葵ひまわり、おやすみなさい」


ときちゃん気を付けて帰るのよ~おやすみなさい~」


 はなさんは、洗濯した服をときへと差し出す。


「……おやすみ……とき……」


 優しく笑うはなさんと、何処かしおらしげな向日葵ひまわりの言葉を受け取ると外に出てドアを閉めた。

 直ぐにドアに背を向け歩き出すと、満天の夜空を見上げた。


「はぁ……星が綺麗だ……」


 星々は光輝き、月は星々に対抗するように強い光を降り注いでいる。何処までも広がる星空は、ときを優しく夜へと誘っていく。

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