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 ときは、服を洗うついでに家にお邪魔した。


「はいときちゃん、おかわりどうぞ~」


「ありがとうございます……」


 ときは、向日葵ひまわりの母・はなさんからの招待で、そのまま桃丘ももおか家でご馳走になっていた。

 さすが料理上手の向日葵ひまわりの母で、メニューは明らかに七人分以上でレストランのような豪華さだ。カレーは失敗したと言っていたが、自分で作るよりは遥かに美味しく体も暖かくなっていく。


「完成~。はい~ビフレストちゃんは塩味焼魚ですよ~」


 白く平たい皿に焼魚を乗せ、白猫・ビフレストにはなさんは嬉しそうに差し出した。

 ビフレストも、嬉しそうに喉を鳴らしながら一生懸命に食べていく。はなさんからの勧めでビフレストも世話になる事になった。


「ビフレストまでご馳走になって……ありがとうございます、はなさん」


 ときは、申し訳なさそうに礼を述べた。


「気にしないで~お客様は多い方が嬉しいもの~。それより~……」


 はなさんは凄い気迫で迫ってくると、ときの唇に人差し指を当てて笑いかけた。


はなさんじゃなくてはなちゃんて……前に言ったわよ……ね?」


 顔は笑っているが目が明らかに、いや確実に笑っていない。向日葵ひまわりとは違った般若の笑顔に体が本能的に硬直する。


「いや……すごくお世話になったので、フレンドリーぽく呼ぶのは少し恐縮と言いましょうか……抵抗が……」


 ときは、視線を合わせないように明後日の方を見たが、はなさんからの鋭い視線は身体中で痛いほど感じていた。


「お母さん!ときは私の嫁だから手出しちゃ駄目!」


「嫁って…………」


 向日葵ひまわりが間に割って入ってくれたお陰で直接的な身の危険は回避できたが、発言に突っ込んでしまう。


「婿でも嫁でもどっちでもいいの!とにかく駄目なものは駄目!」


「なら仕方ないわね~」


 はなさんは、諦めて席に戻ると二人をどこか意味深げに見つめた。その視線からは安堵や悲しみ、複雑が見え隠れする。


「あの……何か?」


「ううん~……ただ…………二人とも成長したなぁって……」


 はなさんの言葉に、向日葵ひまわりは気恥ずかしそうに笑っていたが、ときは何かを思い詰めたように静かに視線を落とした。


「さてデザートにしましょうか~」


 はなさんは気づいているのかいないのか、時計を見たあと立ち上がると台所に向かって行ってしまった。

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