9

 そんな白猫を見て、ときは先程の行動を思い出した。向日葵ひまわりの家の時計を見てみると丁度20時。待ち合わせの時間にぴったりだ。


「まさか……」


 相変わらずじゃれつく向日葵ひまわりと白猫に視線を戻す。

 もしかしたら白猫は、向日葵ひまわりの家までの最短距離を教えていたのではないか?

 そう考えてみるが、白猫が向日葵ひまわりの家までの道のりを知っているはずがない。なにせ今日、初めて会ったばかりだからだ。もし、知っていたとすると、ただの猫などではなく、何か不思議な力をもつファンタジーな白猫になってしまう。


「それにしても、ときが庭から来るなんて久しぶりだなぁ~」


 向日葵ひまわりは、懐かしい過去を思い出すように小さく笑った。

 小さい時はよく、庭から遊びに来ていた事があった。そんなときの行動に合わせて、待ち合わせの時は向日葵ひまわりが庭のテーブルにジュースとお菓子を用意してくれていたものだ。

 小さい頃を思い出しながら、ときは服についた土をはたいていると、足元に見慣れた兎が落ちているのが見えた。


「これ……」


 ときの視線の先に気づいた向日葵ひまわりは、を優しく拾い上げた。


「えへへ、大事にしてるんだよ~」


 それはずっと昔、ある誓いのさいにあげた兎の置物だ。置物にしては柔らかくできており、向日葵はそこが気に入っている。


「一緒にお風呂に入ってここに干してたんだけど…………汚れてなさそうだね。良かった~」


 向日葵ひまわりは、白猫と同様に優しく兎の頭を撫でた。

 そんな姿はときに、この上ない罪悪感を与えた。


――変わんないな……向日葵ひまわりは……


「…………とき……?」


 視線に気づいた向日葵ひまわりは、ときを見つめ返した。

 表情は俯いているため眼鏡と前髪で良く見えなかったが、一緒にいた向日葵ひまわりには、ときの孤独に立ち尽くす姿だけで分かってしまった。

 そんな二人を白猫は静かに見守り続けていた。何もかもを見透かしているように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る