8

「…………ったぁ……」


 ときは、頭を抱えながらノロノロと起き上がり、ずれた眼鏡を元に戻した。全身がズキズキと痛むが、落ちた場所が芝生だっので擦り傷程度ですんだようだ。


とき?!」


 頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。

 ときが見上げると、そこにはビックリしたように覗き込んでいる向日葵ひまわりがいた。柔らかな薄エメラルドのスカートに、レースを思わせる襟のついた白の服を来て、左手を胸に添えていた。


「ひ……向日葵ひまわり?何でお前が……」


「それはこっちの台詞だよ」


 向日葵ひまわりの言葉に、ときは痛む体を何とか起き上がらせると辺りを見回した。

 手入れの行き届いた綺麗な花が咲き誇る鉢植えが置かれた芝生、真ん中には見覚えのあるアンティーク調の机と椅子、落ち着いたピンクのパラソルが置かれている。


「…………」


 どう見ても向日葵ひまわりの家の庭だ。

 ときは庭に侵入し倒れて、向日葵ひまわりはその音を聞き付けやって来た……そういう事なのだろう。端から見れば完全に不法侵入……住居侵入罪だ。


「あの~とき?大丈夫?頭打ったの?」


 ボーとしているときに、不安を感じたのか向日葵ひまわりは心配そうな顔でときを覗き込んだ。


「あ……あぁ……大丈……じゃない!向日葵ひまわり!白猫見なかったか?!」


「し、白猫?」


 向日葵ひまわりは、ときの気迫に驚きながら辺りを見回した。


「みゃーん」


 ときの後ろから鳴き声が聞こえ、二人は後ろを見るが何も居ない。


「ぷ!くすくすくすくす」


「?」


 突然の笑いにときが振り返ると、向日葵ひまわりは何が可笑しいのか笑いを必死に圧し殺していた。


「…………何だよ」


 ときは、居心地が悪そうに向日葵ひまわりをジトッと見ると、向日葵ひまわりはごめんごめんと笑いを押さえてときを指差した。

 ときは、訳が分からず疑問符を浮かべる。


「白猫ちゃん、ときの後にいるよ」


「後ろ?……いてっ!」


 後ろを振り返った直後、背中を何かに引っ掻かれた。

 引き剥がしてみると、先程の白猫が逃れようとジタバタと暴れていた。どうやらときの背中にずっと引っ付いていたようだ。


「たく、お前は何がしたいんだ」


 ときが白猫を解放すると、向日葵ひまわりが素早く抱き抱えた。


「可愛い~!にゃんにゃんにゃんにゃん♪ふわふわ~」


 向日葵ひまわりは、白猫にすりすりと頬擦りして頭を撫で回し始めた。

 白猫は嫌がることはなく、逆に嬉しそうに目を細めて喉を鳴らしている。

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