5

 ときは、動揺を悟られないように口調を強めて言葉絞り出す。

 少女は、見透かすように見据えると手をおろした。


「見えるキミに……1つだけ聞きたいことがある……」


「……聞きたい事?」


 少女は頷くとゆっくりと近づき、自身の右目を指した。


「ワインレッドの瞳の少女を探してる……」


 少女の言葉に、ときの心臓が激しく反応した。

 少女は、そんなときの反応を見逃さなかった。


「何処に居る?」


「知らないっ……」


 ときは、髪に触れると視線をそらしながら言葉を投げ捨てた。

 動揺が止まらない。ワインレッドの瞳の知り合いは一人しか存在しない。


――まさか緋葉……?!


 信じられなかった。信じたくなかった。


――落ち着け俺……緋葉とは限らないんだ……


 深呼吸をすると、動揺していた気持ちは次第に冷静へと変わっていく。少女に向き直ると、その瞳には何か力強いものに変わっていた。


「確かに一人知ってる」


 嘘は通用しない。しかし、この少女と関わらせてはいけない。本能がそう訴えている。


「だがこんなことに関わる人じゃない。人違いだ」


「……でも……一応会わせ、」


「だから、代わりに俺が探す」


 ときは、少女の言葉を遮り条件を述べた。

 少女は黙って見つめていたが、何かを汲み取ったのか少し後に下がると頷いた。


「分かった……そこまで言うなら会わない。代わりにキミが探す……」


「あぁ」


 ときの返事に、少女は黒猫の頭を撫でると踵を返した。

 スカートが少女の動きに合わせてふわりと舞い上がる。


「何か分かったらビフレストに言って……」


「ビフレスト?」


 ときが首をかしげると、茂みから一匹の白猫が現れた。またも子猫だ。


「キミに預ける……」


「預けるって……子猫だぞ?大丈夫なのか?」


 ときの質問に、少女が微かに笑ったように見えた。


「ビフレストは一番強いから……心配要らない……」


「…………」


 少女には悪いが、ときにはその辺の子供にでも負けそうな気がした。どこからどうみても、母親なしでは何も出来ない子猫にしか見えないからだ。


「それじゃ……」


 少女は何処かへ行こうとしたが、ときは腕を掴かんだ。


「ひとつ聞きたいんだが……何故その銃を俺に向けなかったんだ?」


 少女の瞳が細くなる。


「……なんのこと?」


「その太股の銃だよ」


 ときが示す視線の先には、どす黒い銃身がスカートの間から覗いている。

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