2

「おかしいな……やっぱ悪戯か?」


 ときは辺りを見回してみるが、薄暗い食堂には人の気配はなく静寂が支配している。念のため電気を付けてみるも、やはり誰の姿もない。このまま待っていても時間だけが過ぎてしまいそうだ。


「向日葵迎えに行かないとだし帰るか」


 足を出口に向けた。

 だがその足は不意に止まる。


「…………」


 心臓が高鳴る。暑くもないのに手には汗がにじみ出て気持ち悪い。体は自分のものではないように、全く動かす事ができない。


ドクンドクンドクンドクン

ドクンドクンドクンドクン

ドクンドクンドクンドクン

ドクンドクンドクンドクン


――居る……後ろに誰か居る……


 気のせいだと思いたかったが、確実に後ろに誰かの渦々しい気配がときにはハッキリと分かるのだ。

 振り向かないと。

 でも居なかったら?

 いや、居た方がヤバい。

 時の頭は忙しなく回転する。


――振り向くんだ!振り向け!


 自身の体に必死に言い聞かせ、ゆっくりとゆっくりと振り向いてゆく。

 あと少し。

 あと。


「ぎゃぁーーーーーぁあぁあぁぁ!!!!」


「?!?!?!」


 突然の悲鳴に、体は反射的に前に向き直る。その直後、背後の気配が急に消えた。

 次は素早く振り返ってみるが何もいない。冷や汗が背中を伝い、心臓がバクバクと脈打つ。


「何なんだ……」


 疑問に感じつつも、先ほどの悲鳴を思い出した。


「猫の…………にしては明らかに大きすぎ…だったよな……」


 そもそも明らかに人の悲鳴に聴こえた。たとえ猫だったとしても、ただ事ではないだろう。


「…………」


 何故か、足が悲鳴の聴こえた方にゆっくり歩いて行く。ときは荒くなる呼吸を精一杯押さえ込む。

 食堂を出ると鉄製の非常扉が僅かだが開いており、そこから月の光が漏れて廊下に光の線が写し出されていた。


「…………ごくっ」


 息を飲むと気配を最大限に殺して近づいていき、そっと覗いた。

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