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「そういう事だったのね……」


 事情を知った緋葉あかばは、呆れながらため息をついた。

 向日葵ひまわりは、しおらしく座っており、怒られている子犬のようだ。


「だって逃げちゃうんだもん……」


「そんな手荒にしなくても気絶させれば良かったじゃない」


「お前らなぁ……」


 ときは、冬樹ふゆきに今も錠を外してもらっていた。だいぶ小さくなっており、後少しで外れそうだ。

 4人は教師に見つかって面倒事になる前に、体育館から出て緋葉あかばのいた屋上に一時退散していた。階段とときを繋いでいた鎖は、幸いにも直ぐに外れる簡易な物だったので手を焼かずに済んだ。勿論、授業はサボりだが。


ガチャガチャ……ガッシャン!


 一際大きな音がなると、遂に錠が手首から外れた。


「ふぅ……やっと外れたよ……」


 冬樹ふゆきは、下に転がる無数の錠を呆れ気味に見つめながら呟く。

 ときは、それらを集めると向日葵ひまわりの鞄から袋を取り出し、詰めると鞄に戻した。


「とにかく向日葵ひまわり、今後はもう少しお手柔らかにしてくれ」


「気絶?」


「話し合いで」


 向日葵ひまわりのボケを軽くスルーする。


「うぅ…はい。しぃちゃんもごめんね」


 向日葵ひまわりは、緋葉あかばに頭を下げた。かなり反省しているようで、萎れた向日葵のように項垂れている。

 そんな頭に、緋葉あかばの手が優しく撫でる。


「びっくりしたけど、気にしなくていいわ」


 緋葉あかばの言葉に、向日葵の顔が緩む。二人の様子を見ていたときは、これから仲良くなっていくだろうなとふと思ったが、直ぐに緋葉あかばの自殺が脳裏を過り何処かいたたまれない気持ちになった。


「どうかしたの?」


 そんなときの心情に気づいたのか、緋葉あかばは真剣な面持ちで聞いてきた。


「いや……」


 視線を外し、髪を触りながら素っ気なく返す。

 上を見上げると、昨日の空と景色が重なる。何処までも透き通るような青い空は、誰にでも平等に魅せてくれるが、誰にも触れさせない。


――死にたい者と消える者……か





残り約152時間

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