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「そう、顔見知りよ」


 緋葉あかばの言葉に、向日葵ひまわりは眉を寄せる。


「友達以下と言うこと?」


「そうなるわね」


「…………」


 向日葵ひまわりは、暫くしてからときを見る。

ときが素早く頷くと、向日葵ひまわりから緊張感が一気に抜けていつもの笑顔になった。


「なぁんだそっか♪私ったら早とちりしちゃって。危うくときを疑うところだったよ」


 確実に疑っていたが、皆は言葉を飲み込む。ここは触れずに水に流す方が、お互いのためになるだろう。

 向日葵ひまわりは、さっきとはうってかわり緋葉あかばに弁当箱を差し出した。


「これ良かったらどうぞ♪」


「え、えぇ……ありがとう」


 緋葉あかばは、ぎこちなく笑うと手巻き寿司を取った。

海鮮物がふんだんに詰め込まれており、何故か桜でんぶが多めに使われている。

一口食べると、酢飯の旨味と海鮮の旨味がマッチして更なる食欲をそそる。


「あ!自己紹介まだだったね。私、とき桃丘ももおか 向日葵ひまわりです」


 許嫁を強調させて、向日葵ひまわりは可愛らしく自己紹介をする。

 緋葉あかばは、ときをチラリと見ると直ぐに向日葵に視線を戻した。


緋葉あかば しずくよ」


 軽く自己紹介をすると、向日葵ひまわりは嬉しそうに手を握った。


「うん、しぃちゃんよろしくね」


「……しぃちゃん?」


「俺以外には、あだ名で呼ぶんだ。因みに冬樹ふゆきふゆちゃん」


 とき冬樹ふゆきを指差す。

 向日葵ひまわりの中では、男女変わらずちゃん付けで呼ぶらしい。

 緋葉あかばは、納得したのか向日葵ひまわりに視線を戻した。


桃丘ももおかさんは料理得意なの?」


「女の子同士なんだしあだ名で呼んでよ。ヘリアンサスとか」


「長すぎだろ……」


 ときは、呆れ気味に言う。

 向日葵ひまわりは「可愛いじゃん!」とご意見をたてているが無視する。

 緋葉あかばは、少し考えると思い付いたように指をたてた。


「向日葵の学名が『Helianthus《ヘリアンサス》』だから語源の『herios《ヘリオス》』と『anthos《アントス》』から重なる『ヘリアンス』を取って短く『リアン』はどうかしら?」


「それはいいね!リアンって呼んでね!」


「えぇ、リアン」


 二人は笑顔で手を握りあった。

 先程まで、険悪な空気を出していたとは思えない意気投合ぶりである。


「もはや向日葵ひまわりの『り』しか入ってないよね?」


 冬樹ふゆきは、ときにしか聞こえないように小声で話しかける。

 ときは呆れ気味に頭を抱えた。


「完全に外人の名前だな……」


 二人は、向日葵ひまわり緋葉あかばに聞こえないよう小声で意気投合するのだった。

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