5

 昼休みが終わり、5講目は何もなく過ぎてゆき6講目の体育に向け生徒達は更衣室に向かってゆく。

 そんな中、ときは気だるそうに机に突っ伏していた。


「おーい、いい加減行こうよー」


 冬樹ふゆきは、自身とときの体操着を取ると突っ伏したままのときを軽く揺さぶる。

 しかし、ときは反応せず机に突っ伏したままだ。暫く揺さぶっていると、やっとときが反応した。


「サボる」


 だが、ときは右手を上げひらひらと振る。


「また?ほら、いい加減諦めて行くよ……って、うわ?!」


 まったく動かないときの腕を冬樹ふゆきは呆れたように引っ張ったが、ときの腕は動かず冬樹ふゆきは後に仰け反る。

 そんな時、教室のドアが開いて向日葵ひまわりが落ち込んだ様子で入ってきた。


「ほよよ……忘れてたぁ……」


「あれ?向日葵ひまわりどうしたの?」


 冬樹ふゆきは、向日葵ひまわりが教室にとぼとぼと入ってきたのに気づき声をかける。

 向日葵ひまわりは、顔を上げると目に涙を浮かべた。


「ふ……ふゆちゃん……」


「え?!何々?!」


 冬樹ふゆきは、泣き出す向日葵ひまわりに駆け寄ると、体操着ではなく制服姿なままな事に気づいた。

 先に出た向日葵ひまわりならとっくに着替えているはずだが、まだ着替えてすらいない。手には花柄の体操着入れが握られているが、どこかへにゃへにゃしており中身を感じさせていなかった。


「もしかして体操着忘れたの?」


「うぅぅ~!!!!」


 冬樹ふゆきの言葉に、向日葵ひまわりは更に泣き出してしまった。

 どうやら、体操着入れは持ってきたものの中に入れるのを忘れてしまっていたようだ。

 冬樹ふゆきがどうしようか懸命に考えていると、向日葵ひまわりの頭に手が添えられる。


「俺の貸してやるから泣くな」


 ときが頭を撫でると、向日葵ひまわりは顔を上げた。


「で、でも……そんなことしたら時が怒られちゃうよ……」


「別に気にしないし」


「……でも……」


 困惑する向日葵ひまわりに、頭から手を離すとポケットからハンカチを取り出して向日葵ひまわりの口に当てる。


「うぷっ!」


「いーんだよ。ほら、涙で顔濡れてるぞ」


 ときの言葉に、向日葵ひまわりは慌ててハンカチを受け取り涙を拭う。どうやら少し落ち着いたようで涙は止まっていた。


「なわけで冬樹ふゆき、俺はサボる」


 ときは、小声で冬樹ふゆきに話しかける。


「何か、上手く向日葵ひまわり使ったみたいに見えるけど仕方ないか」


 冬樹ふゆきも苦笑いを浮かべながら小声で納得した。

 だが……ー。


「じゃあとき、行こっか」


 向日葵ひまわりが笑顔で手を握ってきた。

 ときは、何の事か分からず疑問符を浮かべる。


「行くって何処に?」


「そりゃあ体育だよ」


「いや……俺、用事あるから……んじゃ」


 するりと二人の間を抜けて教室を出ようとするが、向日葵ひまわりの手に腕を掴まれる。それと同時に背筋を悪感が走り抜ける。


「……とき……私を置いていったりしないよね?」


 向日葵ひまわりの低い声が、己の身の危険を更に感じさせ硬直してしまう。

 そんなときを気にする様子もなく、向日葵ひまわり冬樹ふゆきにいつもの笑顔を向ける。


ふゆちゃん、早く着替えてきなよ」


「あ、うん……」


 冬樹ふゆきは、苦笑を浮かべながらときの体操着を向日葵ひまわりに渡し、そろりそろりと教室を出ていく。

 裏切り者め。

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