3

 向日葵ひまわりの視線に、緋葉あかばが見つめ返すと、二人の間に奈落の底のようなどす黒い重い沈黙がおりる。

 冬樹ふゆきは、まだ影を背負いながら隅に座り込んでしまっているため、ときはどうしたものかと考えていると向日葵ひまわりが沈黙を破った。


とき、この子誰?」


 向日葵ひまわりの顔は満面の笑顔だが、目が明らかに笑っておらず、左手はナイフが入っているポケットに入れらている。

 ときは、冬樹ふゆきを引っ張ると説明した。


冬樹ふゆきの友達だ」


「え?あぁ、うん、そう」


 冬樹ふゆきは、内容が分からないため成り行きで返事をする。先程、名前を教えあった中なのであながち間違いではないと判断した。それに、ここは自分との関係を誤魔化さないと色々とまずい事が起きる予感がする。


「そっかぁ」


 向日葵ひまわりが顔を緩めた矢先、緋葉あかばが火に油を注いだ。


「お前と友達になった覚えはないけど」


「わ!馬鹿っ!」


 ときの制止は完全に手遅れで、向日葵ひまわりから何かが切れる音がした。

 やばい、完全に怒っている。


「…………とき……どういうこと?この子とどんな関係なの?ねぇ?女友達?彼女?1秒以内で答えて……」


 1秒では説明できないとツッコミたかったが、向日葵ひまわりの左手はポケットから出ており、ナイフがギラギラと日の光を反射させて凄まじい恐ろしさを放っている。これ以上、向日葵ひまわりを刺激するとナイフと合体させられてしまう。


向日葵ひまわり、待て!話せば分かる!」


「え?何?何で向日葵ひまわり怒ってんの?!てかこの状況は何?!」


 ときは、冬樹ふゆきを盾に交渉するが、向日葵ひまわりは笑顔を絶やさないまま無言でゆっくり二人に近づいて行く。一歩一歩近づく度に本能的に恐怖を感じる。


「ちょっとあなた!」


 だが、向日葵ひまわりの足は緋葉あかばの声によって静止した。


「…………何ですか?」


 ゆっくりと振り返る向日葵ひまわりに、緋葉あかばは動じず二人の前に立ちはだかる。二人の間に恐ろしい空気が立ち込める。


緋葉あかばさがれ!」


 ときが立ち上がろうとすると、緋葉あかばの手が制止の意思を見せた。

 ときは、立ち上がるのを止めて二人を見つめる。


「彼とは只の顔見知りよ」


「顔見知り?」


 向日葵ひまわりから笑顔がスッと消え、瞳がギラギラと金色に鈍く光る。

その視線はまるで、獲物を見定めているかのような威圧感を感じ、一切の安堵を認めないかのような雰囲気だ。

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