11

「その傷……」


 緋葉あかばの視線に気づいたのか、手を頬に当てると絆創膏に触れる。


「それ……今朝のよね?」


 どこか影のある緋葉あかばの言葉に、どう答えたら良いものか考えていると下からよく知っている声が聞こえてきた。


「いたいた、ときー!!」


 声のした方を見下ろしてみると、冬樹ふゆきが息を切らしながらこちらに手を振っていた。

 そこで、自分が二人を置いて走ってきていた事に気づく。


「あなたの友達?」


 緋葉あかばは、横から下を見ると聞いてきた。

 ときは、少し照れくさそうに小さく微笑む。


「まぁ……親友」


 冬樹ふゆきは、寮に走っていくと暫くして屋上にやって来た。もう走れないと言わんばかりに息を切らしており、ふらふらとときに歩み寄る。


とき……はぁ、はぁ、……なにしてるんだよ……散々走ったんだけど…………ってその子は?」


 緋葉あかばの存在に気づくと、冬樹ふゆきときに質問を投げ掛けた。

 どう話そうか迷ったが、ここは正直に話しておくべきなのだろう。


「あー……今朝話した奴。」


「今朝って……あの自殺志願者?」


 冬樹ふゆきの言葉に、緋葉あかばから不審な視線がときに向けられる。

 ときは、緋葉あかばの視線から逃げるように顔を背けた。


「自殺志願者ってあなたね……」


 冬樹ふゆきは、二人の気まずい雰囲気に気づいたのか、緋葉あかばに笑顔を向けると手を差し出した。


「どうも、ときの友!ひいらぎ 冬樹ふゆきです。よろしく」


「……何だか馴れ馴れしいわね。本当にあなたの友達なの?」


 冬樹ふゆきの行動に、緋葉あかばは眉を寄せる。


「まぁ……」


先程から「まぁ……」としか答えないときに、呆れた緋葉あかばは冬樹をジロジロと見た。暫く見つめた後に目を座らせると、警戒心を解かないまま冬樹ふゆきの顔を見つめた。


緋葉あかば しずくよ」


 緋葉あかばは、差し出された手を握らずに自己紹介を済ませた。

 そんな態度に、冬樹ふゆきはショックだったのか影を背負いながら隅に座り込んでしまった。


「変な人ね」


「それは同感」


 そんな会話をしていると、ニ講目の終わりのチャイムが辺り一体に響き渡る。それと同時に生徒の笑い声や話し声が聞こえてきた。


「授業、終わったのか」


 鳴り響く鐘の方を見つめると、とある事を思い出した。


「やばっ、向日葵ひまわり忘れてた!」


 その言葉に、冬樹ふゆきは立ち上がる。


向日葵ひまわりなら職員室に行ったよ」


「なら、早く行きなさい」


 緋葉あかばが二人を急かすと、冬樹ふゆきは慌てた様子もなく扉に向かい、ときもそれに続いた。だが、出る直後振り返り緋葉あかばに向き直った。


緋葉あかばは行かないのか?」


「私は授業に興味ないからいいのよ」


ときー早くー」


「分かってるって。それじゃあ」


 冬樹ふゆきに急かされ、去り際に緋葉あかばに別れを告げると向日葵ひまわりの元へ向かった。





残り約157時間

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