10

「わ……悪い……」


 座り込んだまま素直に謝ると、緋葉あかばはバツが悪そうに目を泳がせた。


「……えっと……い、いいわよ別に……言い過ぎたわ……」


 緋葉あかばは、スカートをはたくとときに手を差し出した。

 ときは、その手を取ると静かに立ち上がる。

 二人とも怪我はないようだが、どう切り出せばいいか迷ってしまい押し黙ってしまう。沈黙を破ったのは緋葉あかばの方だった。


「ところで、何で探してたの?」


 緋葉あかばの率直な質問に、一瞬どう答えようか迷ったが、ここは素直に言っておこうと事情を話した。


「成る程ね。貴方も、お人好しなのか馬鹿なのか」


 話を聞き終わった緋葉あかばは、呆れ気味に感想をのべた。

 ときは反論ができず視線をそらす。そんなときの態度にため息をついたが、すぐに微笑を浮かべる。


「まぁ……今朝の後の今じゃ、そう思われても不思議じゃないけど真っ先は失礼ね」


「う……」


「第一、私が死んだところであなたには関係ないのに、どうして探しに来たのよ?」


 だが、次の質問にはときは答えず俯いてしまう。

 緋葉あかばは、不思議そうに見つめていたが、直ぐに諦めると薄桃色で白色のレースの付いたハンカチを取り出した。


「ほら、手出して」


 緋葉あかばの指差す先には、ときの手の甲があり、そこからは血が滲み出ていた。恐らく、先程助けたときに擦りむいたのだろう。先程まで痛みはなかったが、気づいた途端にズキズキと痛みが走り出す。


「こんなの何でもないから」


 ときは無愛想に手を後ろに退いた。

 だが、緋葉あかばは眉を寄せると退けた手を掴んだ。


「あなた本当に可愛くないわね!このまま上げときなさい!」


 緋葉あかばの剣幕に、ときは大人しく手をそのままにして従った。

 その間に、緋葉あかばは薄桃色のハンカチを三角に折り曲げ、端を更に折ると傷が隠れるようにそっと巻き付けた。

 ときは巻かれた手を見つめる。


「こんなものしか無いけれど、無いよりはましでしょう、後で保健室に行きなさい」


「……ありがと」


「…………」


 ときは小さくお礼を言ったが、緋葉あかばは、あり得ないものを見たように驚いた表情で見ていた。


「何だよ?」


 ときは、不機嫌そうに言うと緋葉あかばは困ったような表情になった。どうしようかと考える素振りをしたが、直ぐに真顔になり少し上目使いでときを見据える。


「いや……あなたに素直にお礼言われると気持ち悪いわね」


「そっちこそ可愛くないな」


 ときの言葉に、緋葉あかばは突っかかりそうになったが頬に可愛らしい絆創膏が貼ってあるのに気づいた。

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