3

 ときは、冬樹ふゆきをジト目で見ると向日葵ひまわりに向き直り、前髪に触れると申し訳なさそうに手を合わせた。


「悪い、名前は聞いてないんだ」


「ふぇ?」


 向日葵ひまわりは、意味が分からないという顔をして首を傾げる。


「あのときは焦ってたし……すぐ別れたからさ」


 ときは、嘘をついた。向日葵ひまわりの性格を考えると、正直に話してしまった場合何かヤバイ事になりそうな気がしたからだ。

 向日葵ひまわりは、そんなときの言葉に満面な笑顔を向けると、何故かポケットからナイフを取り出した。

 とき冬樹ふゆきは、言葉を失ったように硬直する。

 向日葵ひまわりは、ナイフを太陽の光にかざしながら笑うと、顔をときに近づけた。


「ねぇ……何で嘘つくの……とき


「?!」


 向日葵ひまわりの言葉に、ときは息を呑む。

 教室の明るいざわめきだけが耳に入ってくる。まるで、自分の周りだけ時が止まってしまったかのような感覚に襲われ背中に冷汗が溢れてきた。


「クスッ、ときは嘘つくとき必ず髪触るもんね」


 向日葵ひまわりはナイフをポケットにしまうと、笑いながらときの机に肘をたて微笑んだ。


「でもすぐ別れたのは本当なんだね。じゃあ、またその自殺志願者さんに会えたら向日葵ひまわりにも紹介してね?絶対だよ?約束だよ?ときと私の約束だからね?」


 向日葵ひまわりは、ときに指を立てながらせがんだ。ときが焦りながら頷き指切りをすると、納得したのか向日葵ひまわりは前に向き直る。

 ときは、安堵したがそれは束の間だった。


「ねー、あれ誰だろう?」


 向日葵ひまわりがクルッと振り返ると、窓の方を指を指す。冬樹ふゆきは、ときの方に来ると指差す方を見つめ、ときも見つめた。

 ときの教室は、丁度グラウンドが見えるのだが、グラウンドの真ん中辺りに学生服ではなく、猫か兎とおもしき着ぐるみが立っていた。


「……誰だ?」


「さぁ?ときの知り合いじゃないの?」


 冬樹ふゆきは、首をかしげながらときに視線を落とす。

 ときは、上目使いで冬樹ふゆきを睨む。


「何で、俺の知り合いになるんだよ」


「そうだよ!ときは動物好きだけど、いくらなんでも、あんな変な人と知り合いなわけないでしょ!」


「……はぁ……」


 頭を抱えたくなった。

 そんな時、着ぐるみが此方に手を振り頭をペコンと下げる。ときは、興味無さげにホワイトボードに向いた。だが、周りの連中が騒ぎはじめた。


「え?あれ誰?」


「何で手、振ってんだろうね?」


「あ!先生が向かった」


 ギーン!ギーン!ギーン!ギーン!

 チャイムの音が教室の中に響くと、担任の先生が入ってくる。皆は、慌ててパラパラと自分の座席に戻って行く。

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