テレビ消してさあ、おふろいっしょに入ろう

 ――森を抜けた一行は、少しいった街にある、古びた温泉宿に羽を休めた。

 道中のサイレンは村長の背に、おぶさっている。

 空腹から解放されたとはいえ、流石さすがに一人で歩かせるのは酷だろう、との気づかいであった。


「すまぬの、村長……ワシ『竜殺しの剣』、二本も背負っておるからのう……」


「イイんですよぉ、お武家さま! サイレンちゃんは、軽い、かるい! サイレンちゃんって、年いくつ?」


『わたし、じゅっさい……』


「ほお……年齢の割には、シッカリしておるのう」


「きっと、先生とやらの、教育が良かったのですね?」


『……センセイから、いっぱい教えてもらった……』


「そうか……よき師に、恵まれたのう……」


「……先生、死んじゃって……悲しかったね? サイレンちゃん……」


『……うん……おじいちゃんだったし……しょうがないの……』


「……そうか……おっ! 街が見えてきたゾい! 今夜はあそこで、宿をとるぞ!」


「はいっ!」


『……お宿……初めて……! ウレシイ』


「さ、さようか!? うれしいかっ!?」


「えへへ……おいしいもの、たくさん出てくるとイイねェ! サイレンちゃん!」


『うん!』




「――ふう~っ、イイ湯加減じゃあ……」


「そうですねぇ……広くて気持ちイイ露天風呂ですねぇ……」


 ――仲良く肩を並べて、宿の露天風呂に浸かる二人だが、この宿に風呂が有ると聞いた時に、ひとモンチャクが少しあった。



「――お武家さま? が、サイレンちゃんとお風呂に入りましょう! イトコんトコの、ガキ共を洗ってやってるんで、慣れてますから」


「イヤイヤ村長? おぬしでは少々、心許こころもとない……悪漢あっかんが押し寄せて来るやも知れぬ……ここはやはり武士である、の出番……」


「イヤイヤイヤお武家さま? 悪漢ってイツの時代の戦国の世ですか!? ヤッパリここは、ガキ共の扱いで手慣れている実績を評価してですね、のアタクシが……」


「イヤイヤイヤイヤ村長? 年齢的に拙者より、おぬしの方がサイレンに、若干じゃっかんではあるが、近い! 世間さまの『目』というものをかんがみるにダナ……」


「イヤイヤイヤイヤイヤ……」


「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ……」


「……あの……アタシがお入れしましょうか……?」


「! 女将おかみは少々、黙っていてもらおうかっ!」


「そうです! これはアタシたちの問題ですっ!!」


「……はぁ……」


『……わたし、ひとりで入って来れるよ……?』


 そう言うとサイレンは、サッサと一人で露天風呂へ行ってしまった……。



「――これだけ広い露天風呂ですから……みんなで入れば、良かったですね……」


「そうだのう……でもサイレンも、幼いとはいえ女性じゃから……他人のワシらと風呂に入るのは、イヤかも知れぬのう……」


「……そうですねぇ……難しい年頃でしょうしねェ……」


「ま、とりあえず……一献いっこんどうじゃ? 村長」


「ああっ! これは気が付きませんで! スミマセン、お先にいただきます……お、と、と……」


「気にするではない、村長よ! ワシとおぬしは、すでに友! ではないかっ!」


「あ……ふ、あ、有難う御座います! お武家さま……グスン……では、遅ればせながら御返杯ごへんぱいを……さ、どうぞ……」


「うむ……かたじけない……おとととと……」


「……サイレンちゃん、すっかり元気になって、良かったですね? お武家さま」


「ああ! ご飯もいっぱい食べてたのう!! 子供は、ああでなくっちゃいかん! 遠慮など、もってのほか! 気持ちが良かったわいっ!」


「そうですね! 好き嫌いも無いようだし! ホント、イイ子です!」


「うむ、親御さん方も離ればなれで、さぞかしツラい事じゃろうて……」


「……それにしても、お武家さま? サイレンちゃん……可愛らしかったですよねぇ……」


「おう! 村長、それよ、それっ……! 森の中では何日も迷っていたらしく、薄汚れていたが……風呂上りは見違えたワイっ!!」


「髪の毛なんて輝いてましたもんねェ!? あんな色つや、都でもチョット、見掛けませんよ! それにキメの細かな肌の……まあ、白いことッ! 本当に、森の中で暮らしていたんですかねぇ?」


「子供の肌って、あんなにポニョポニョ、してたんだのう? 知らんかった! ふむ……血筋が良いのかも知れぬゾ……ご両親も、さぞかし美しい方なのだろう……会うのが楽しみになってきたわえ!」


「そうですね! はやく会わせてあげましょうねっ!」


「そうじゃな……それが一番じゃ……」


「ホントに……女将さんの着付けた浴衣も、よく似合ってて……あれは将来、男を泣かせますよぉ!」


「……あ、ああ……あのサイレンも……いつかは嫁に、行ってしまうのか・の・う……グスン」


「えええっ!? お武家さまっ!! そんなトコまで飛躍しちゃいますかっ!? って……あ、アタシも何だか……寂しくなってきちゃいましたよおぅ……ひっく」


「うっ、う、うう……」


「ひっく……サイレンちゃん……」


「く……く、暗くなるのは遺憾いかん! 村長! なにか、笑わせておくれ!」


「は、はい! そうですね! では……『露天風呂』と掛けまして!」


「うむ! かけまして!?」


「『カクヨム開いてビックリした!』と、解きます!」


「うむ! 元気が貰えそうじゃわいっ! そのココロはっ!?」


「……満天(点)の星……」


「天晴じゃ……!」




 ――その頃、部屋のサイレンは……疲れが溜っていたのだろう……柔らかな旅館の布団の中で、お腹も満たされ……幸せそうに、寝息を立てていた。

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