第3話 転校生


 次の朝。


 いつも諒と待ち合わせしている駅前の木の下でゲームをしながら待っていた。


「はぁ……はぁ……おまたせ」


 諒は息を切らしながら、いつもの時間より少し遅れてやってきた。


「お前……何時に起きたんだ」

「……七時半だ」

「……ばかだ」

「うるせぇ」


 諒はいつも七時四十分くらいの電車に乗っている。この様子だとギリギリ間に合ったらしい。


「それでよく間に合わせたな……」

「……おうよ」


 諒はまだ息を切らしている。こいつは帰宅部なので、普段運動もしていない。なのでもちろん体力もない。


「ごめ、コンビニ寄らせてくれ……」


 おそらく家に弁当を忘れたので買い弁をするつもりだろう。しかし、授業までは結構ギリギリの時間だと思うのだが……


「プリンで手を打とう」

「うげ」という声が諒から漏れた。

「嘘だよ、急くぞ」

「なんだよ」


 諒にペシッと叩かれた。

 そうして俺と諒は走り出した。


 割と朝のHRの時間までには余裕で間に合ったので諒と話していた。


「てかお前、彼女持ちなのに俺とずっといて大丈夫なのかよ」


 諒の彼女も同じ高校に入っているのだが、あまりイチャイチャを見る事はなく、たまにこっちに来て諒と三人で話すくらいだったのでもっと彼女との時間を大事にしなくていいのかななどと思っていたのだが……


「そうか?昨日電話してたけどな」

「…………」


 これ以上は聞かない事にした。


「てかいつもよりなんか騒がしくないか?」


 いつもよりクラス全体がザワついていた。


「あぁ、なんか転校生が来るらしいぜ」と諒はなぜだか知っていた。


「はぇー。今どき高校で転校生なんて珍しいな」

「確かに」


 基本高校を変えるとなると手続きやら編入試験やらで色々あったり、そもそも高校なんてよっぽどの理由がない限り転校するなんて事はないので、俺と諒も珍しいと思っていた。


「それな、俺だったら編入試験とかめんどくさくなるわ」

「お前はそんな頭悪くないだろ」

「頭と良さと勉強の面倒くささは別なんだよ」

「ぐぬぬ」


 実際、諒はテストで学年の一桁台に入るくらいには頭が良い。

 それに対して俺はクラス順位でさえも半分より下にギリ行くか行かないかくらいだった。

 俺とは違って日頃から勉強している事もあるだろう。

 諒にごもっともな事を言われた後、チャイムが鳴ったので諒は自分の席に戻っていった。


「はい、皆静かにー」


 そう言いながら、教室に入ってきたのは、このクラスの担任──そして吹奏楽部顧問の倉本(くらもと)先生だった。

 俺らがまだ高校一年生という事もあり、年数の少ない倉本先生はこの学年になったのだろう。


「皆、聞いてると思うけどこのクラスに転校生が来ました」


 クラスが先程と同じようにザワつき始めた。


「じゃ、どうぞ」


 そう先生に手招きされて、女の人が入ってきた。

 その顔を見た俺は固まってしまった。


 昨日道を教えたあの美少女だったのだ。

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