第52話 魔力の補充を頼む。多めにな
最近、我は気分が良い。たぶん、模擬戦の戦績が良いからだろう。今日も勝ったしな。イノリスに勝利してから、我は負け知らずだ。以前は、我を侮るような空気があったが、それも払拭されたと言っていい。嫌いだった模擬戦が、いつしか楽しみになっていた。
「ふっふっふ。我に敵は無い」
今ならいつかのワイバーンやネズミにも勝てそうだ。そのぐらい調子が良い。それもこれも操影の魔法を覚えてからだな。操影の魔法の自由度はかなり高い。攻撃に防御にそれ以外、どんな状況にも対応できる。良い魔法を習得できた。
「なんだかご機嫌ね」
盥を持って扉から現れたアリアにも我の機嫌の良さが分かるようだ。
「まぁな。最近良いことが続くのでな」
食堂の食事にチーズが出るようになったし、イノリスに勝利したことで、イノリスに大人として認められ、クロ坊呼びから解放されたり、他にも色々と良いことがあった。
「そう?良かったわね」
盥を置いたアリアが服を脱ぎ始める。これから身を清めるのだろう。
「それが終わったら、魔力の補充を頼む。多めにな」
絶好調な我の唯一の弱点を挙げるなら、それは自力では魔力の補給ができない事だろう。魔法を使えば使う分だけ魔力を消費し、眠ってもなにをしても回復することは無い。我が魔力を回復できる唯一の手段が、使い魔とその主の契約を結んでいるアリアに魔力を補充してもらう事だ。故に、以前ならいざ知らず、魔法という力の強大さに魅せられた我はアリアから離れることができなくなってしまった。ふむ、これも弱点と言えるな。我は魔法を使う為に、唯一の魔力回復手段であるアリアを守らなくてはいけなくなったのも弱点だ。意外と弱点多いな我。
「また?最近多いわね。一体何に魔法を使ってるのよ?」
「まだ内緒だ」
「怪しいわね。悪いことに使っちゃダメよ?」
アリアが訝しんでいるが、悪いことには使っていない…と思う。
「心配無い」
「どうだか」
いまいち信用が無いな。
「ふぅ…」
アリアの水浴びも漸く一段落したらしい。髪の毛を拭いていたタオルを肩に掛け、裸のアリアがこちらに近づいてきた。魔力の補充だろうか?アリアはそのまま我を抱え上げ、盥へと戻って行く。
「待てアリア、貴様何をする気だ?」
「何って、洗うのよ」
「何を?」
「クロを」
クソッ、やはりそうか。我はアリアの腕から脱出しようと足掻く。
「こらっ、暴れないの!」
アリアの拘束が緩んだ隙にアリアの腹を蹴り、腕の中から飛び出す。
「痛った!クロ!あなたやったわね!」
腹を蹴られたアリアが怒っているが、知ったことではない。我はアリアから逃げる。
「こら!待ちなさい!」
狭い部屋の中で追いかけっこが始まった。追いかけて来るアリアから逃げる。アリアから逃げるのは難しいことではない。アリアは我に比べれば鈍足で動きが鈍いからな。だが、アリアは執念深く追って来て、逃げるのも疲れてきた。
「貴様もしつこいな!」
「はぁはぁ、あなたが、逃げる、からでしょ!はぁ、汗かいてきたわ。せっかく拭いたのに…」
部屋の角に追い詰められる。ここから逃れることも可能だが、少し休憩したい。
「はぁ、観念しなさい」
我は自分の影を実体化し、操る。我を包むように部屋の角を影の盾をで覆った。これで我に手を出すことはできまい。
「あなたねー。そこまでする?どれだけお風呂が嫌いなのよ」
「水に濡れるのが嫌なのだ」
アリアが大足広げて影の盾の前に陣取る。両腕も広げて、絶対に逃がさないという強い意志を感じる。
「ちゃんとお湯にしてもらったから冷たくないわよ。早くしないと冷たくなっちゃうかも。そうなったら嫌でしょ?早く出てきなさい」
直接手は出せないと見たのか、アリアが交渉の真似事を始める。
「もう…。魔力補充してあげないわよ?それからご飯も抜き、ブラッシングもしてあげないんだから」
「それは狡いだろ…」
交渉というよりも、それはもう脅しだ。そこまでするか?どれだけ我を洗いたいのだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます