第6話 幼馴染
*
「康介おはよ。今日も朝練?」
康介が席替えをしたくない一番の理由、それは先生の死角だからでも1番後ろ
だからでも窓際だからでもない。
1番の理由は隣の席が彼女だからだ。
学校が同じなのはもちろんだが愛莉の両親が共働きだったこともあって家に帰ってからもずっと一緒だった。
文字通り、幼馴染、妹みたいな存在だった。
中学で一緒にバレーボールを始めた愛莉は高校でも女子バレーボール部に入部した。
今でも部活の終わる時間が同じになったときは一緒に帰るし、愛莉はよくうちでご飯を食べていく。
男女の友情があるとするならばきっと2人のことを言うのかもしれない。
当人たちの認識や想いは別として。
愛莉は背が高く手足も長い。
そして彼女のチャームポイントとも言うべき黒い髪の毛はまっすぐで艶があり、そんな黒髪を1つに結ってある姿は凛としていてかっこいい。
そうした大人びた雰囲気を持ちつつも時折見せる表情にはあどけなさが残っており、彼女自身の性格もどちらか言えば幼い。
そんな外見と内面のギャップは幼馴染という立場や、身内びいきを抜きにしても可愛いと思ってしまう。
現に高校に入ってからの愛莉は男子からの評判がよく、かなりにモテる。
告白されても部活を理由に告白に応じたことはないが本当のところは他に好きな人がいるという噂だ。
愛莉が告白をされたという話を聞くたびに康介の胸に鈍い痛みが走る。
康介は愛莉のことが好きだ。
もちろん友人としてではなく異性として。
そのことをはっきりと自覚したのはいつの頃だっただろうか。
中2の時、初めて愛莉から好きな人ができたという話を聞いた時か、高1の時に康介が告白されて他の女子と付き合った時か。(この時は3カ月ほどで別れた。)
はっきりとはわからないが今、康介は愛莉を妹として見れないことだけは確かだ。
だから康介は愛莉に好きな人がいるという噂に関しても気になって仕方がない。
しかし愛莉に直接聞く勇気などあるはずもなく、モヤモヤとした日々が続いていいる。
人間関係は化学反応のようなものだ。
一度互いに作用したらもう元には戻れない。
化学と違うとすればどう作用するのか、結果が出るまで全く予測ができないことだ。
では、もし作用した結果今の関係が壊れたら?
康介は恐い。
愛莉に笑いかけてもらえなくなるかもしれない未来がくることが。
だから康介は何もしない。
そうして今ある幸せで自分を誤魔化す。
いつか愛莉にも恋人ができるかもしれない
ずっとこのままでいられるはずがないとわかっていながら。
わかっている。
想いを伝えなけばなにも変わらないことは。
だけど変わってしまうことが怖い。
だから逃げた。
兄妹のような関係に。
愛莉にとって一番身近な存在という立場に。
逃げだと、甘えだとわかっていながら。
もう少し。
もう少しだけ隣にいさせてくれ。
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