第5話 学校

転校生。

どうせ楓太のいつもの冗談だろうと思っていた康介は転校生の話に耳を傾けることなく教室のドアを開けた。


2ー1教室。

公立の普通校、体育館も広くなければ当然校舎も広くはない。

コの字型を描くようにして建てられた校舎の1つに1年から3年までの校舎が集まっている。

4階建てで1年から順に上の階に入っている。

なので2年の康介たちは3階、そして1組なので一番端だ。

9クラス並ぶ廊下は無駄に長い。

今生徒の数が減って5クラスしかなく、残りの4教室は基本的に自習室として開放されている。


1年の頃は部室の鍵当番が回ってくるたびに階段ダッシュをしていた。

先輩たちは2階だからいいかもしれないが職員室まで鍵を返してから4階まで上がるのは時間的にかなりぎりぎりになる。

先輩たちは自分たちも経験したであろうはずなのにシャワーを浴びて着替えが終わってもなかなか部室から出ていかない。


いつもさっさと部室出ろよ、って思っていたのは俺だけじゃないはずだ。


そんな1年目の時のことを懐かしく思い出しながら教室に足を踏み入れた。

すでに9割がたのクラスメイトは登校済みだ。

それはいつもの事。

だが、何やらいつもとは雰囲気が違う。

なにか落ち着かないような、浮足立っているような、そんな空気だった。

どうやら颯太の転校生が来ると言う話はいつもの楓太ジョークではないらしい。

普段ならすでに席についているであろうクラスメイト達がそれぞれ集まって噂の転校生について話をしていた。


康介と楓太はそんなクラスメイト達とあいさつを交わしながらそれぞれの席へと向かって行った。

康介の席は窓側の一番後ろ、楓太は一番前の廊下から2番目。


ついこの前の席替えで勝ち取った最高の席だ。

ここは先生の視界に入りにくく居眠りをしていてもバレない机の下でゲームをしていてもまだ見つかったことがない。

それに窓から外をながめられるという特典もなかなかのものだ。


くじ運が壊滅的な楓太は案の定一番前の席だった。

ちなみに席替えはクラス交流を建前に月1で行われるが楓太が3列目よりも後ろにいるのを見たことがない。

康介からは颯太の後ろ姿がよく見える。

くじ運の無さを諦めたのか、前の席で開き直ったのか楓太は先生の真ん前で堂々と居眠りをする。

そして怒られるというお決まりの展開。

バカなのか勇者なのか、康介はきっと前者だと思っている。

そんな楓太を眺めているのも悪くない。

もう席替えなんてしなくていいのに、康介はこの席になってからずっとそう思っていた。


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