第1話 終わり
*
天井へと打ち上げられた青と黄色のボール。
それは綺麗な軌道を描きながら飛んでいく。
綺麗だ。
一瞬の出来事なのにそう思う余裕があるほど、ボールが飛んでいく様子はスローモーションに見えた。
まだ、間に合う。
まだ、落ちてない。
まだ、まだだ、まだ負けてない。
だけど孤を描いて落ちていくボール以上に俺の体はスローモーションで、足が鉛のように重くて、なかなか前に進んでくれない。
あと一歩。
あと一歩でいいから俺を前に押し出してくれ。
そうすればまだ、まだ俺たちはここに居られる。
だが、どんなに願ったところで勝利の女神様は残酷だ。
誰にだって微笑んでくれるわけではない。
間に合わなかった。
目の前でボールが落ちる。
弾む。
一回、二回、三回。
役割を終え、弾む力を失ったボールは静かに転がっていく。
俺から離れるように。
止まった。
そして最後の笛が鳴る。
負けた。
俺たちの最後の大会。
初めて本気で取り組んだ。
真剣に勝ちを取りに行った。
身の丈に合わない全国大会出場という大きすぎる野望を掲げて。
強豪校と比べれば決して多くはない部員数。
それでもチーム一丸となってみんなで同じ目標に向かっていた。
だけど届かなかった。
当たり前だ。
俺たちは普通の高校に通うどこにでもいる、普通の高校生。
たまたま高校でバレーボール部に入ったからバレーをしているだけ。
部活以外にも楽しいことがたくさんある。
楽しい高校生活のほんのひとコマ。
今までの大会でも誇れるような成績を上げたことはない。
よくて県大会。
全国なんて夢のまた夢。
きっと上に行く人たちは俺たちの倍以上努力をしている。
才能もある。
きちんとした指導者もいる。
設備もいいだろう。
そして何より、覚悟が違う。
そういった人たちでも全員が頂に手が届くわけではない。
その頂に立つことができる者などさらに一握りの選ばれた者だけだ。
その選ばれた人たちにのみ当てられる眩しいスポットライトの光。
県予選で散った俺たちにはそこからあぶれたわずかな光すら当たらない。
敗者が何かを語る機会など訪れないのだから。
だけど。
だけど俺たちも同じように三年間ボールを追い続けた。
上を見上げ、夢を見続けた。
スポットライトの当たるような人達の物語からしてみれば俺たちの物語なんて面白くもなんともない。
それこそ、きっと1ページに収まる。
強者からすれば勝って当たり前の対戦相手、見向きもされない。
だけど。
だけど、俺たちには俺たちの物語がある。
それは成功が約束された綺麗な物語なんかじゃない。
きっとそれはどこにでもあるようなありふれた物語。
それでもいい。
俺たちだってちゃんとやったんだ。
俺たちだってちゃんと過ごした。
バレーボールを。
青春を。
だから俺たちは日々を拾い、そして繋ぐ。
選ばれなかったもの達の物語を。
未来のエースに託すために。
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