第13話
トッドの氏族となった彼らは、連峰から外れた草原地帯を住処としている。
峰の中でも山の民が神がいると信じられている高地や麓などが、最も力のある部族達が集まるところらしい。
つまりトッドの氏族は、今のところ序列としてはかなり低い方に位置しているわけだ。
トッドが傘下に加えた二十人弱の者達は皆、ワケありのものばかりらしい。
追い出されたつまはじき者や、氏族が合わずに抜け出してきた者が集まってできたのが、ギルが仕切っていた氏族となったわけだ。
今トッド達がいる王国側の者達は、皆大小の差異はあれど脛に傷を持つ者が多いらしい。
とすればいきなり強力な部族と戦うよりは、まずはここら一帯の者達を吸収して、トッドの氏族を大きくしていく必要があるだろう。
付近の氏族達をいくつか教えてもらい、ハマームに礼を言ってから退出させる。
彼が女達を引き連れてくるよりも前から黙って後ろに立っていたライエンバッハが、姿勢を楽にして小さく笑った。
「よろしかったのですか? 十二歳になったのですし、殿下もそろそろ色を知るべき年では?」
「からかわないでよ、今はそんなことしてる余裕なんかないんだから」
「いや、王族となれば色事は早ければ早いほどいいでしょう。年を取るまで経験がないと、いざというとき困りますよ」
「どうせ僕と結婚してくれるような人なんかいないんだから、困らないさ。ライの方こそ、どうなの? 手、付けちゃう?」
「結構です、私は家内一筋ですので。ですがランドル達の褒美としてはいいと思います。私はもう半分枯れてますが、彼らは戦って血が滾ってるでしょうから」
こういった下世話な話は、今までしてこなかった。
そしてトッドはライエンバッハが愛妻家であることを、これだけ長い時間一緒にいて、初めて知った。
(というかライ、結婚してたんだ)
ゲーム内ではできなかったけど、今世では最後まで奥さんと添い遂げさせてみせよう。
トッドはライエンバッハの新たな側面を知り、なんだか不思議な気持ちになった。
男同士だからか、下の話をしたおかげで以前より仲良くなれた気がするのだった。
次の日の朝、何か動物の毛皮のようなものでできた簡素な布団で寝ていたトッドは寝ぼけ眼を開いた。
彼を起こしたのは、天幕の外から聞こえてくる大きな声だ。
すわ敵襲かと思い、トッドは一瞬のうちにシラヌイへ乗り込もうと駆け出した。
それを止めたのは、何故か昨日と同じ体勢で立ったままのライエンバッハだった。
「敵ではないようですな、おそらくは氏族の者かと。この天幕の中なら、殿下を傷つけるより私がその者の首を落とす方が早い。安心して、どっしりと構えていて下さい」
「うん……ありがと」
トッドは魔法を使って水を桶へ出し、顔を洗う。
そして意識を覚醒させてから、毛皮の上にあぐらを掻いて座り直した。
後ろに控えるライを頼もしく思いながら、どうして昨日と同じ体勢で、鎧を脱いですらいないんだろうと不思議に思った。
だが尋ねようとするよりも前に、外の声が聞こえるくらいに大きくなってきた。
「だーかーら、ちょっと待ってってば! 殿下が起きてからでも十分じゃないか」
「そうですよ、いい加減にしないと……」
「時間が残されてないんだ! 俺に才能があるのなら、今すぐあれを貸してくれ!」
声の主は三人、そのうちの二人はハルトとレンゲだ。
彼らが話をして留めているのが、恐らくはこの騒ぎの原因になった山の民だろう。
「いいよ、中に入れて」
「あ、殿下おはようございます。ホントに入っちゃっても良いんですか? 女の子がいるんだったらまた後にしますけど」
「冗談、普通に入りなって」
「それじゃあ失礼して」
ハルトとレンゲ、そして彼らに引き連れられた一人の少年が天幕の内側へと入ってくる。
モンゴロイド系の顔立ちをした、厚めの瞼を持つ少年だ。
年はトッドと同じくらいだろうか。
彼が言えたことではないのだが、戦場に出るには若すぎる少年だ。
ただ目自体は大きくギラギラと光っていて、閉じているにもかかわらず口の先からは犬歯が飛び出している。
気が逸っているのか、目は血走っていた。
どうしてこんな奴を落ち着かせる前に連れてきた、という無言の視線にハルトはそっとそっぽを向いて答えとした。
「彼――ガールーは殿下が求める魔力持ちですよ。もしかしたら僕らが作ったおもちゃも、使いこなせるかも」
「あなたが……いやあなた様が、あの死神を乗りこなす族長様ですか! お願いします、俺にあなたの氏族が使っているような、武器を貸して下さい!」
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