第12話
各氏族のテリトリーや、目的の人物であるトティラのこと等々、知っておきたい情報は山ほどある。
そしてトッドには、新たに仲間になった山の民という情報源がある。
であれば、それを有効活用しない手はない。
考えた末トッドはこれ以上進むことはせずに、情報収集を行うことを決めた。
新たにトッドの氏族となった山の民達の住むテントまで案内された時には、既に日が傾き始めていた。
ハルトとレンゲに山の民達の各種適性を調べるよう伝え、トッドはライエンバッハを伴い、用意された天幕の中へと入っていく。
無論トッドの言葉にレンゲは悲鳴を、ハルトは歓喜の声をあげたのは言うまでもない。
強化兵装はある程度数を揃えて持ってきている。
使用できる資質がある山の民に、貸し渡すことを視野に入れているためだ。
ハルトとレンゲの二人なら、そのあたりを上手く見極めることもできるだろう。
(それにハルトが使ったあの弓のこともある)
暇なときにハルトと試作したとある武装なのだが、そもそも弓の腕がないと使えない代物で、正直今のトッド達はあれを持て余している。
(適性がある人間になら、渡してみるのも面白いかもしれない)
テントの中へ入るとトッドはシラヌイを脱ぎ、いざとなれば乗り込めるよう脇に置く。
ちなみに護衛のライエンバッハは、魔道甲冑を着用し続けている。
彼が側にいるおかげで、トッドに不安はなく、リラックスすることができた。
とりあえず戦闘が終わり、結果は上々。
特に心理的にキツい状態になったりもせず、興奮で昂ぶるようなこともなく、いつもの調子が維持できている。
だから本来なら嬉しいはずなのだが……今のトッドは、非常にげんなりとしていた。
その原因は彼の天幕に突然入ってきた、トッドの氏族となった山の民達にある。
「族長様、これは選りすぐりの馬の乳を使った酒でして……」
「ごめん、僕未成年だからお酒はちょっと……」
「族長様に女が侍らないなどありえません! ギルの妾でよければ今夜にでも……」
「そういうのはもっとナシ!」
トッドがこの周辺の地形を把握しようと山の民を呼び出したら、何故か彼らは酒と女を用意してニコニコしながら天幕へ入ってきたのだ。
恐らく山の民流の歓待なのだろうが、まだ十二歳でしかないトッドには少々刺激が強すぎる。
女達を追い出して、ハマームという年かさの男だけを中へ入れ直した。
彼は最初シラヌイの中にいた人間が少年であることを知り驚いた様子だったが、トッドを侮るような様子はなかった。
年や見てくれを気にしないでくれるのは、正直ありがたい。
強さ至上主義な山の民の世界では、舐められないことが肝心なのだ。
「先ほどの女達は族長様のお気に召しませんでしたか? もう少し若い女子の方が……」
「女の子はいらないから、本当に。あ、でも……もしよければ、僕の仲間達のところに向かわせてあげて」
「なるほど、たしかに族長様には劣りますがなかなかの益荒男ですからな。了解致しました」
「ありがとう。あと僕は族長様じゃなくてトッドだから、せめて呼ぶならトッド様にして」
自分はまだ性欲もあまりなく、戦の後の性的な昂ぶりとは無縁だ。
だが大人のライ達がどうかはわからないし、下手に興奮していたらレンゲにちょっかいをかけたりすることがあるかもしれない。
それは避けたかったし、彼ら山の民達の歓待を全て断るというのも向こうからしたら気分が悪いだろう。
圧倒的な力を持つトッド達に対して、何かをしなければという使命感もあるはずだ。
親衛隊の皆には、今回の任務ではちゃんとした褒美を与えられるかはわからない。
だから少しくらい、役得があってもいいだろう。
ハマームに言ったのは、そういった色々な思惑からの総合的な判断だった。
「僕には食事だけでいい、あとは話をさせてくれれば。ここら一帯の地図が欲しいんだ」
「はて……地図とは?」
驚くべきことに、彼らは地図を作ってはいなかった。
ただ岩や木々を目印にして、なんとなくの方向だけで周辺地域を理解しているらしい。
あまりに原始的な、下手をすれば賢い動物以下の縄張り意識に、トッドは目の前が真っ暗になる。
「でも周りにどんな氏族がいるのかとかならわかるでしょ?」
「ええ、それはまぁ。近場ならほとんど全部、遠いところでも有名な氏族は大抵把握しております」
「どこから落とせばいいかとかもわかる?」
「トッド様の圧倒的な力の前では、誰もがひれ伏し頭を垂れるでしょう」
「……」
どうやら山の民に、作戦とか効率なんてものは存在していないらしい。
文化の違いというか、考え方が根本から異なっているというか……頭を抱えたくなるのを必死でこらえながら、トッドは根気強くハマームの話を聞くことにした。
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