第39話 開発者が……キタァ!!
コロンとのコラボは多大な労力を要した。
まさかあいつがストレスを抱えるとあんなに闇が深くなるとは……。
適度に息抜きさせてやる必要がありそうだな。
別に俺相手じゃなくともストレス発散できれば良いのだが、あいつの場合リアルでも誰にも言えずに抱え込みそう。性格的に。
なんて言うかなぁ。
溢れ出る中間管理職的な雰囲気。
社会のしがらみとかと自分の欲求が板挟みになって悲鳴あげてそう。
てぃんてぃん道に走れば一発で解決するものを……。
「美人に下ネタを言わせる性癖を植え付けたのはコロンだからな。責任取らせないと」
例のごとく預かり知れぬところで謎の被害を食らうコロンである。なお、俺にその自覚有り。
☆☆☆
「へっくしゅっ! ……なんか悪寒がするッス」
☆☆☆
毎日配信をそれなりに長い期間続けているが、ここまでネタ切れを起こしていないのがぶっちゃけ奇跡。全部雑談コラボじゃつまんないし、同じゲームをやっても飽きるからな。
Partに分けて進めていく形もありだな。
何かの縛りをつけながら。
いや、俺ってば刺激的な出来事が多すぎて普通にゲームする、って概念が頭から抜け落ちてるんだよな。
ギャグに走らなきゃやっていけない作家みたいな苦悩抱えてて草。
……おっと、メタ。
「あー、才能欲しい。いっそのこと配信内の言葉全て英語に翻訳する的な……あ、ダメだ共通テスト100点の俺には無理だ」
リーディング50点、リスニング50点の何ともスッキリする点数だったのを憶えてるよ。
その代わりに国語は現文分野と古文は満点だったしな。……ん? 漢文? 知らない単語ですねぇ。
「拙い英語で良ければ日本語禁止の罰ゲーム有りっていう、よくある企画モノでも良いかもな。逆に英語禁止もいける。……おー、言葉に出したら結構浮かぶ」
紙に羅列するより、俺は実際に言葉に出して思考した方がアイデアが浮かぶ。よく、数式をペラペラ言いながら解く人いるじゃん。あれと一緒。
「歌枠……? てぃんてぃんれぽりゅーしょんしか歌わないが?」
下僕のみんなはそろそろ飽きてそうだけど、俺は一向に飽きない。むしろ、聴けば聴くほど、歌えば歌うほどテンションとその他諸々がスタンズアップしてギンギラギンになる。
そもそも歌上手くないし。
イケボ声で歌歌えないんよ。あれ地声だし、どうしても音質変わっちまう。どのみちイケボで歌った歌が上手いかと言われれば人によるし、俺は無理。
「眠た。ダメだな。朝早くからぐだぐだ考えてもあんまり良い案が出るとは思わんし……二度寝かますか!」
生活リズムがニートのそれ。
い、一応働いてるぞ!
スパチャはまだ開放してないけど広告収益は来月に入るしっ!
……てか、スパチャ開放する意味ある?
だって、絶対来ないじゃん。
さて、と二度寝するため布団に潜る。
通販サイトで買った高級羽毛布団である。枕も最高品質だ。我ながら良いご身分だわ。ゴミ分。
そして目を瞑る。
そしてインターホンが鳴る。
わかってたよ、ちくしょう!!
何でもない一日とかあり得ないもんな!
「誰だ。ここで自分に問題です。神連、仲嶺、コロン、夜旗、変質者、てぃんてぃん。誰が来たでしょう。そう、てぃんてぃん!」
アホみたいにくだらない茶番を一人事で行う羞恥プレイを繰り広げた後、インターホンでその姿を確認する──と同時に間違えて発言ボタンを押してしまった。
『あ、すみません、隣の者です! ベランダに干していた赤色のパンツが風にあおられて飛んでしまって、そちらのベランダに落ちてしまったようで……お手数かけますが取っていただけることは可能でしょうか……?』
「うっせやろ、おい」
やべ、喋っちゃった。
発言ボタンとは正式名称を知らないから適当に名付けた、押したら自分の声が相手に聴こえるボタンである。だっせぇな。ネーミングセンスが皆無。
『え、今何か言いました?』
一瞬男バレを懸念した俺だったが、奇跡的に俺の声は聴こえていないようで助かった。
しかしここで重要なのが、パンツが風であおられて俺のベランダに……というエピソードが真実なのか、嘘なのかだ。そもそも本当にお隣さんなのか怪しい。
……とは言ったが、これはあくまで危機感を養う訓練であって、俺自身はマジか、としか思ってない。
多分これが危機感の欠如なんだろうな。薄々わかってきた。
一先ず女のフリをしよう。
「ハ、ハーイ、イマトリマスネ」
裏声で返答した。下手すぎだろ俺。
『あ、ありがとうございます!』
……よし、バレてないな。
ホッと一安心して、俺はベランダに向かう。
ガラガラと網戸を開けると、確かにそこには赤色のドエロいパンティーが落ちていた。
「おぉ……随分攻めた下着だな。もしや、この世界ではこんなパンツが主流なのか? ……ちょっと興奮するじゃん」
下着単体で興奮することはない。
幾ら性癖の化物とはいえ、残念ながら対物性愛は持ち合わせていない。
下着に興奮する人は大概は着てる姿、あるいはそれに近いことを想像で補完した上で興奮する。対物性愛じゃね? と思った人は大体違う。
おっぱい貴賤なしと同等に扱うべくは性癖だ。
俺は例えどんな性癖でも受け入れる。
相当モラルに反するやべぇもんだったら若干引くくらい。否定はしない。実行すんのは止めたほうが良いけどな。さすがに。同志が作った同人誌で妄想補完しなされ。
あとはその性癖に付き合ってくれるパートナーを探すと良い。
「と、考え込みすぎた。……どうやって渡せば良いんだ」
インターホンの前まで戻ってきて、俺は悩む。
そして画面越しに来訪者の顔面偏差値を確認して嘆く。
肩よりちょっと短いくらいの茶髪にくりっとした目。柔らかい雰囲気と人懐っこそうな愛嬌ある笑みだ。
身長も少し低くて小動物っぽい。
そして美人。
なぜだ。なぜ、この世界は美人が多いんだ。
もしや男もイケメンしかいない系? やだ、俺の立つ瀬がコミュ力だけになっちゃう!
「ん゛ん゛っ゛。アリマシタ。イマヒトマエニデレナクテェー──」
『え、あれ、黒樹ハル様……!?』
なぜバレた(白目)
え、今の会話にバレる要素あった? オール裏声だし、そこから俺に結びつける要素ゼロだよね!? 超能力でも持ってます!?
『あの……咳払いがハル様だったので、完全に』
そこで判断すんの!?
『まあ、ガチ勢なので……ふへへ』
「ちょっと、待て。なんで心の声と会話が通じてんだよ、おかしいだろ」
『ハル様ならこう考えるだろうな、みたいのを予測してました。多分、なぜバレた、からのそこで判断するの? ですよね』
「『そこまで行ったら怖ぇよ』……ひぇっ」
寸分違わず揃った声に俺は思わず引き攣った悲鳴をあげる。
なんだこいつは。
ガチ勢ニキ……じゃなくてネキか。そんな絶滅危惧種的存在が生き残っていたとは。
思考をトレースしているということは初期勢。その上で俺の配信を見てガチ勢でいられるとは何たる驚き!
『ちなみに私は開発者です』
「よし、入っていいぞー」
『わーい、お邪魔しまーす』
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