第38話 BAN明け配信(コラボ) #おかえりコロン

『──の疑いで──が逮捕されました』


「行動早いなおい」


 思わず飲んでいたコーヒーを吹きかけた。

 あれから3日ほどしか経っていないが、もう夜旗は準備を整えたらしい。あんなふざけた議題で激怒してたくせに有能なのかよ、あいつ。


「まあ、平和になったなら良いか。俺もBAN解除されたし。……あれ、結局俺をBANしようとしてたやつは誰なんだろ」


 疑問は幾つか残る。

 まず、俺にUSBを届けに来たやつ。

 口調から一瞬コロンかと思ったが、見た限り身長とか声の質が違った。あいつは女性にしては高身長だ。高くはできても低く誤魔化す方法は無いだろうよ。

 声もボイチェンを使ったような荒い機械音は感じられなかった。


 敵か味方か分からないが、今回ばかりは助かった。


 俺が真犯人の元に特攻しても、揉み消されるか拉致されるかのどっちかだった。

 だから恐らくあの女性は夜旗に誘導したのだろう。対立しているトップの方へ。


 ということは俺の性格とか行動を熟知されているわけで。ついでに住所もバレているが、他の人に伝わってることは無かろう。


「ごちゃごちゃ考えてたって、探偵みたいな推理力を持ち合わせてるわけでもないしな。いつも通りの配信に戻るしかねぇ。下僕が待ってる。多分」


 あいつらのことだからいつものツンデレをかますんだろう。


 ふっ、そんなお前らに今日は特別なサプライズだ。

 

 ゲストを呼ぼう。





☆☆☆



「やあ、久しぶりだな下僕たち。無いと思ってた調味料を買ったら家にあった時の謎の絶望感。黒樹ハルだ。そして」


 様々なコメントが表示される中、俺と対になるように画面内で現れたのは狐耳金髪巨乳美少女。


 そう──


「どうもコロンッス。一応二回目ッスかねぇ」


 気怠げに挨拶するはコロン。

 しばらく連絡するなと言ってきたくせにBAN明け前日に色々仕事が落ち着いたからコラボしないか、との連絡があった。

 即答でオッケーしたけどな。あの時も楽しかったし。


ーー

『うわああああ!!コロンきたあああ!!!』

『待ってたぞコロン!!!!!』

『コロンおかえりいいいいぃぃ!!!!』

『ツッコミ役きちゃあああ!!』

『コロンんんんんん!!!』

ーー


「え、なんでBAN復帰配信なのに私が歓迎されてるんスか……」


「本当だよ、主は俺やぞ。歓迎せんか貴様ら」


 コメントはコロン歓迎一色だった。

 マジで一人も俺を慮るコメントはない。ゼロと一には大きな差がある。それを俺は知った。クソが。


ーー

『あ、いたんだwww』

『いや、優先度……』

『お前どうせ復活するんだから良いじゃん』

『それよりもコロンだわ!』

『黒樹は黒樹だし』

ーー


 だから俺を固有名詞化すんなって言ってるだろ。

 せめて、てぃんてぃんと呼べよ。


「いたんだ、は酷くね? どうせ復活って、まるで人をゴキブリみたいに言うなよ」


「ぶはっ、言い得て妙ッス」


「お前の中にあったはずの遠慮はどこ行った?」


ーー

『確かにゴキブリ』

『しぶとさと厄介さはゴキブリ超えてるだろwww』

『コロン、前の配信の時とちゃうやんw』

『笑ってるしw』

ーー


 いや、あれ前半は口裏を合わせた茶番だったから本性があるのは良いとしても。ひでぇよ貴様ら。


「まあ私は復活して嬉しかったッスよ? BANされたまま帰って来なかったVtuberも何人かいるッスからね。特に個人勢だと」


「あー、それは俺も何回か聞いたことある話だな。勿体ないって思っちゃうけど、BANされた理由にもよるか」


「そうッスね。不祥事でBANされた時が分かりやすいッス」


ーー

『企業勢だと、そのままクビにするが卒業にする、ってこともある』

『そこら辺はVtuberだからしゃーないと思うか、それとも責任果たせよ、と思うか。死体撃ちみたいな真似はしない方が良いけどな』

『ま、黒樹がそんなことするわけないけどなw』

『どっちかと言うと、Vtuber辞めてもリアルに転生しそう』

『俺は黒樹が参議院選挙に立候補しても驚かんよ』

『ある意味ビビるわwww』

ーー


「えー、議員とか面倒だわ。変な政党争いに巻き込まれるのも勘弁」


「黒樹さんはそういうしがらみからは遠いイメージがあるッスよね。ぐーたらしながら周りに影響与えてそうッス」


「そのままのイメージ伝えてくれたんだと思うけど、どこか棘がある気がするんだけど気の所為?」


「……気の所為ッス」


「その間はなんだ」


ーー

『解釈一致なんだよなぁw』

『ぐーたらしながら周りに影響与えてそうってまんま黒樹やんけwww』

『本人無自覚なんだよな』

『分かる』

『コロン、思いっきり黒樹のこと馬鹿にしてるしw』

『良いぞ良いぞ、それが正しい黒樹の扱い方だ』

ーー


「俺の扱いを勝手に決めんなよ。俺に取扱説明書なんてないんだよ。俺の上位存在はてぃんてぃんだけだ!!」


 これはもう常識だろ。

 世間一般的な共通認識。テストにも出やしない。


「え、黒樹さん。身体に付属してるモノより下なんスか? それって、もう例のブツが本体なんじゃ」


「違うな。てぃんてぃんは崇めるべき存在であって、俺が意識を介在できる程ではないのだ」


「何言ってるか分からないんで、とりあえずやべぇこと言ってるっていうことにしとくッス」


ーー

『話についていけんw』

『【速報】黒樹てぃんてぃん説』

『人間じゃなかった……!?』

『それは元からそう』

『ゴキブリ扱いされてるやつやぞ。舐めんなよ』

『扱いに関しては虫以下だろ、マジでw』

ーー


 くそ、久しぶりの配信なのにこいつら毒舌フルスロットルすぎる! お前ら俺のこと好きすぎだろ! 分かってんだよ、純度100%のツンデレってことはな。

 じゃなきゃBANされた時に炎上しかけることはない。


 少しはそれを面に出せよ。

 攻撃力高いんだよお前ら。


「まあ、良い。ちなみに今日の配信だが雑談一本だ。ゲームすることも考えたけど、久しぶりの配信かつ久しぶりのコロンとのコラボだし積もる話もあるかな、って思ったけど全然無かった」


「無いッスよね。そもそも久しぶりとか言ってるッスけどそんなに時間経ってないッスよ?」


 マジで?

 BANされたのが一週間前で……あー、二週間前くらいか?


「マジだな。なんか配信やってると日付とか時間の感覚がおかしくなるんだよなぁ」


「引きこもってるからッスよ。とは言っても外に出たらヤバいことになるんで出ない方が良いと思うッス」


「うん、身に沁みて知ってる。でも、全人類を下僕にできれば何とかなるんじゃねぇかと思ってる」


「あぁ、存在が萎えるッスからね」


「お前マジでふざけんなよ。俺の傷口抉るなよ、狙ってんのか?」


 つい最近言われた言葉なんだが!?

 これ、共通認識なん? 俺の存在が萎えるってさ。さすがの俺も男してのプライドがガリガリ削れる。


ーー

『存在が萎えるは草』

『これまた言い得て妙なんだよなw』

『男して見れないもんな。黒樹としてか見れないwww』

『男と黒樹、別枠になってんのウケるw』

ーー


「というか、コロン。あの時はあれだけ振り回されてたのに随分とまあ、くたびれたというか俗世に疲れたみたいな対応だな」


 心なしか、というか普通に声に覇気がないことが分かる。忙しくてコロンも配信を止めていたみたいだし、俺としてはあの頃の明るいコロンが懐かしい。

 一体どうしちまったんだよぉ!


ーー

『確かに』

『たまになるけどな』

『ワイらは気怠げモードと呼んでいる』 

『そのままやんけ』

ーー


 コロンリスナーらしき人が説明をしてくれた。

 どうやらこのモードは初めてではないようだ。


「まー、配信以外にも色々やってるんスけど、そっちの方でストレスが溜まるんスよ。大概は何でもかんでも仕事を押し付けてくる姉にキレてるッス」


 仕事のストレスか。

 配信だけでも食っていけそうではあるが、コロンは働いてるらしい。姉に押し付けられるということは家族経営の会社なのか? 

 

 画面越しでもコロンの声は実に不機嫌で、相当頭にきていると分かる。


「姉がいたのか。コロンはどっちかというと妹の面倒を見てそうなイメージだった。なに、お姉ちゃーん、とか言ってんの?」


「はっ、あんな姉はクソババアで十分ッスよ」


「お、おう。……闇を垣間見た」


 思ったより冷たい声音にさしもの俺もビビる。



ーー

『クソババアてw』

『ガチギレやん』

『あの黒樹をたじらせるとはやるやんw』 

『本当にヘイト溜まってんだな』

『ヒェッ』

ーー


「自分のチャンネルでは隠してるんスけど、まあ黒樹さんなら良いかなー、と。結構アーカイブ見て助けにはなってるッスから」


「お、おう、そうか。……てぃんてぃんって言ってもええんやで?」


「それは嫌ッス」


ーー

『こらこら隙あらば勧誘しようとすな』

『一刀両断草』

『まあ、疲れた時に見るともっと疲れるけど、落ち込んでる時に見るのは丁度いい』

『体力使うからな、見るだけで』

ーー



 結局この日の配信はコロンを慰める会への変貌したのだった。


 

 あれ、俺の復帰配信だったよな?

 趣旨変わってね?






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レビュー、感想、いつもありがとうございます。

感想返信は稀になってしまっていますが、全て目を通しています。


ギフトをくれた方もいるので、いずれ限定公開の短編という形で返礼を考えています!

 

 

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