第40話 全幅の信頼
「お、推しが私のパンツ片手に立っている……!!」
「言葉にするとカオスな状況すぎるだろ」
ピシャッとよくある雷が落ちた、という表現が正しい驚き方をした開発者は、意気揚々と家の敷居を跨いだものの視線を右往左往と彷徨わせて顔を赤くしてモジモジしている。
お? これはあれか?
ガチ恋勢なのでは!?
「いえいえいえ、私なんて烏滸がましい。指先しゃぶらせてくれれば満足です」
「満足の度合い大きくない? いつの間に触るからしゃぶるにグレードアップさせてんだよ。唇で触るって表現は無しだからな?」
というか、またサラッと俺の心読んだ? どうなってんの、その思考回路。
「良いじゃないですか先っちょくらい」
「言い方」
かなりエグい性格と度胸してるな。
すぐに襲いかかってこない分、神連よりも全然マシだと思うけど。てか、ヤバい女の判断基準が神連になっている件についてだが、あいつはこの世界でも比較的普通に位置しているらしい。
マジで世紀末だわ。よく社会回ってますねぇ。
美人にこれだけ迫られている(?)現在でも、ファンであり俺の恩人である開発者に手を出すわけにはいかない。というか、肉食系な時点でアウトなんですわ!
愛の無い性行為にてぃんてぃんは無いんよ。
ぶっとい芯持ってから出直してこい。
「ふぅ。まあ、私は比較的分別があるので手を出したりはしませんよ? 心の中でやべぇ、犯してぇ。でも、犯罪……ハル様だし許してもらえそう……? って葛藤がせめぎ合ってますけどね」
「分別あるのに欲求が優勢なのかよ。めっちゃ危ない状況じゃん」
「そうですよ。くっ、私の意識がある前に逃げるんだ……! って感じです」
頭を押さえて苦悶を浮かべる演技をする開発者。
相変わらず謎に多方面の才能を持ち合わせてやがる。
「取り憑かれてんの草。もう、この世界の女性、全員呪いかかってんじゃねぇの?」
サブカル気質でノリが良いな、開発者。さすがだ。
冒険者の村、カクトウげぃ夢、てぃんてぃんれぽりゅーしょん。
数々の伝説をその技術力で創り出しただけあるな。
ポンポン小気味よく進む会話は配信者を彷彿させるものだった。
「話変わるけどなんか配信みたいのやってる?」
開発者はきょとん、と呆けた表情をした。
美人がやるとあざとくも可愛いな。なんか負けた気がする。
「配信、ですか? そういうはやったことないですねぇ。そもそもずっと機械弄りかプログラム組んでたのでやる暇が無かったというか。今は結構状況的に落ち着いてますが。どうしたんですか、いきなり」
「いや、ポンポン気持ちよく会話進むからな。なにかやってんのかと思ったんだよ。多分、配信者の才能あるぞ」
「本当ですか? ……ハル様はお世辞とか言わなそうなので、多分本当ですね」
「その通りだけど、まるで俺が現代社会に溶け込めてない嫌な奴みたいじゃねぇか」
「あっははー、男性の時点で社会に溶け込むもクソもないじゃないですかぁ〜」
「確かに」
愉快に爆笑しながら言ってるけど、俺にとっては結構死活問題なんだぞ。仕事したいんだよこちとら。
ニートはあかん。この世界の俺の最終学歴気になるんだけど、まさか幼卒とかないよな。
さすがに家の中でも教育受けて高認試験くらいは突破してる……? やべ、心配になってきた。
「んー、まあ、ハル様が社会進出考えてるなら私も微力ながら協力はしますけど……」
「いずれの話だな。今はある程度の構想しかない。まずはてぃんてぃんを布教しねぇと」
「ですよね!」
すっごい良い笑顔。
洗脳成功してるな! 開発者ゲットだぜ!
「というか、あんまり疑いたくないんだけど開発者って本当に隣住んでんの? パンツも偶然?」
「あ、本当に偶然です。ぶっちゃけハッキングして住所登録の日時を誤魔化したり色々偽装はできますけど偶然ですよ」
「俺に疑えって言ってんの? バリバリの犯罪者やんけ」
「まだやってないんで大丈夫です」
その言葉は大丈夫じゃないんだよ。
まだ、とか不安になるワード付けんな。
「こんな世界ですし疑うのは当然ですよ。というか私だから良かったものの、友だちにすごい性欲強い変態がいるんですけど、そいつと会ったら犯されますよ」
「まじか。やっぱりそういう奴多いんだな」
「あと……ふへへ、私もそれなりに欲求は強い方なんで変に隙見せたらヤバいことになりますからね」
「自分で言うのか。斬新なスタイルだな」
「ほら、無許可宣言無しでやるよりは、宣言有りで、私はあくまで注意しましたよー、って体があった方が自身の罪悪感の減少と保身に走れるじゃないですか」
「思いっきりヤるつもりだな貴様。厚顔無恥で俺はビビったよ。というか、それ罪の意識の内包で終わるじゃん。外聞取り繕ってないんだから法律的にはアウトだろ。意味あんのか」
あれか、出すぞ、って言うか言わないかの違いね。何がとは言わんけど。お好きに解釈どうぞ。
開発者は楽しそうにニコニコと笑顔で俺と会話しているが、その瞳は猛禽類のように鋭く力強い。虎視眈々と隙を狙っているのは間違いないだろう。
その隙の基準が分からないが。
ちなみに、この会話は玄関口で行っていて、その会話中ずっと俺はパンツを握り締めている状況である。
イッツカオス。
「結局男性を襲ったって事実は変わりませんし、犯罪であることは間違いないのでもしヤッちゃった場合は開き直るだけです」
「メンタル強っ」
「ハル様を見習った結果なんですけどね……。この間まで私、心身ともに衰弱してたので」
「全然想像できねー」
「ならハル様のお陰ですね♪」
俺が何をしたのか定かでないが、結果的に開発者を救えたらしい。それは嬉しいことで、自分の行動が回り回って人に影響を与えることは、俺にとっての夢に通ずる。
……ま、良いか。
「とりあえず玄関で話すのもあれだし入れよ」
「良いんですか?」
口元がニヤけていることに気づいた俺は先に釘を刺す。
「何かしようとした場合は俺の懐に携帯してある熊撃退スプレーとスタンガン、メリケンサックが火を吹くぜ」
「なんで最後だけ肉弾戦する気満々なんですか」
男なら〜拳で語ろう〜おてぃんてぃん。
男女平等パンチを舐めるなよ。正当防衛が余裕で働くからな。
「俺に隙は無いぜ。お前を信頼してるからな」
ニカッ、と笑ってリビングに向けて歩みを進めた。
すると、後ろ手にボソッとかろうじて聴こえる声が耳朶を打つ。
「一番重い鎖ですよ、それは──
表情を見ることは叶わないが、きっと苦笑していることは間違いないだろう。
──というかいつまで私のパンツ持ってるんですか? 欲しいならあげますけど!」
「あ、普通に忘れてた……」
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