第36話 計画準備

 俺が下品なんて今更すぎない?

 というか、教団名が【まじかるおてぃんてぃん教団】な時点でなぁ……。


 人のこと言えないよな。


 下品だろ。まじかるの部分が。


「どうしようかねぇ。早いところ動きたいんだけど」


 後手に回るのは勘弁したい。

 何かあってからでは遅いし、それなりの人数を抱え込んでいる宗教団体に仲嶺一人をぶつけるのも忍びない。

 全員なぎ倒してくれそうだけど銃火器とか持ってたら、さすがの仲嶺でも対応できない……よね?

 いや、できても怪我させたくないわ。 

 保護官させてる時点であれだが。


「俺一人じゃ何もできないし、本人にコンタクト取るったって難しいし」


 んー、ダメ元で人脈が広いらしい神連に聞いてみるか。

 大学も終わった頃だろうし、下衆な考えだが俺の言うことには逆らえないからな。嫌がることはさせないけどね? 本当だよ? 精々衆人観衆の中で下ネタ叫ばせるくらいだぜ?

 コロンのせいで俺にまた変な性癖が生えた……。


 全責任をコロンに押し付け、俺は神連に電話をかけた。


「もすもすー?」


『もしもし。いったいどうしたの? 私、眠いんだけど』


 不機嫌ではないようだが、電話越しに聴こえる神連の声はトロンとした眠気を帯びていた。

 若干幼く聴こえるのもグッドです。


「いやー、ちょっと聞きたいことあってさ。神連、人脈広いって言ってたし」


『……まあ、広い方ではあるわね』


 歯切れ悪く苦々しいように言った神連。

 人脈は広ければ広い程良いと思うけど、何かその過程で不本意なことでもあったのか。や、考えすぎか。


「それで【──】とどうにかコンタクト取ることってできない?」


『【──】? ……少し時間があればできるわ』


「できるのかよ、すげぇな」


 それ、人脈の広さえげつないな。

 ダメ元だったのに、まさかできるとは思わなかった。

 

 なんだこのラノベ主人公あるあるの都合の良さは。


 いや、今まで行動が裏目に出ていた俺にようやく幸運の女神が微笑んでくれたということだろう。


『でも、いったいなんの用なの?』


「まあ、そこは企業秘密ってことで」


『また危ない橋を渡ってるのね……』


 神連の声には呆れと諦めが混じっていた。

 こいつには何言っても無駄か、と思われているらしい。ひでぇや。


「石橋叩いて渡るから大丈夫」


『あんたの橋は今にも崩れ落ちそうな木製のやつでしょ。前科多すぎて信じられるわけないでしょう』


「無駄に具体的に否定してきたな。危機感のなさは多分きっとメイビー自覚してるから」


『曖昧すぎるわよ。もっとしっかり自分の立ち位置を理解しなさいよ』


「地球の民、全員俺のリスナーにできたら安全なんだが」


『ふっ、机上の空論』


「はっ倒すぞ」


 なんだこいつは。

 いつにも増して調子乗ってるな。

 落ち着きがないな。てぃんてぃんが足りてないのか?


『まあ、私に任せておきなさい。あんたは明日、保護官連れて車で移動してくれれば良いわ』


「うっす、頼む」


 かなり神連頼りになるし、ここは素直に感謝するか。癪だが。非常に癪だが。

 ……やっぱ癪だな。


「お前後で罰ゲームね」


『なんで!?!?』



☆☆☆



 その日の夜。


 俺は家のリビングで正座していた。

 フローリングだから膝が痛い。しかし泣き言も言えない。


「言いましたよね。危機感のなさを見直してくださいと。危険に自ら突っ込むことはやめてくださいと」


「いや、後者は聞いていn──」


「なにか?」


「イエ、ナンデモナイデス」


 俺はロリに説教されている。

 何だかイケナイ場面に聞こえるが、至って本人は真面目である。というか、成人しているとはいえ年下に説教される俺……情けなくない?


「春樹様が動かれる必要があるんですか? 警察に通報、ではい終わりにできないんですか?」


「い、いや、ちょっと個人的にやりたいことあって」


 ロリこと仲嶺はげんなりした表情を浮かべた。

 どことなく神連を既視させる表情だ。今回ばかりは呆れ100%のようだが。


「まあ……話を聞くに危険は少ないようですし、余程のことがない限り私が手間取ることは無いと思いますが、それでも何が起こるか分からないのが現実です。ゲームと違うんですよ? ……私を当てにしてくれたのは嬉しいですが」


 最後にボソッと仲嶺が何かを呟いた。

 ここで聞こえない振りをするのが鈍感系主人公だが、生憎と俺は主人公なんて柄じゃないからしっかり聞こえている。

 ……まあ、ツッコむのも野暮か。


「分かってるけど、これはある意味チャンスなんだよ。俺の目的のための第一歩だ。だから危険を犯す必要がある……とは仲嶺に守られている以上口が裂けても言えないけどな」


 曖昧に笑って言うと、仲嶺は頭を押さえてため息を吐いた。


「さすがに職務の範疇を超えています。……なので、仕事ではなく、大切な方だから守ります」


 仲嶺は頬を染めることもなく、凛然と言った。

 可愛い……じゃない。俺は仲嶺の保護官としての誇りを垣間見た。

 仕事ですので、を言わせないことを目標にしていたけど、計らずとも叶えられたな。


「助かる。それと、この騒動が片付いたら何でも一個言うこと叶えてやるよ。いや、叶えたい、だな」


 上から目線すぎる。

 さすがにこんな大事まで任せておいて褒美の一つもなければ割りに合わない。というか俺のできることが割に合うかもわからないが、無いよりはマシ、という配慮だ。


「なんでも……。分かりました」


 心なしか仲嶺のやる気が漲っている気がするけど、今更になって願い事の内容が不安になってきた。

 仲嶺だし無茶振りはないと思うが。






☆☆☆


「お前も同行するんかい」


「当たり前でしょ。私が顔を繋いでるんだから」


 翌日、用意された車の中にはすでに神連が乗車していた。

 奴は運転席に。俺と仲嶺は後部座席に座っている。

 お前が運転するんかい。


「あの後、神連様と話し合った結果こうなりました。変に厳重体制で行くのも目立つので、迅速かつ忍んで行くとなるとこれがベストかと」


 どうやら俺が仲嶺に護衛を頼んだ後、二人で連絡を取り合っていたようだ。どうやって連絡先を入手したかは知らんけど、神連は変なこと話してないだろうな。

 俺と出会った経緯とか。終わるぞ、お前がな。


「それにしても、久しぶりにあんたに会ったけど配信見てるせいか全然興奮しないわね」


「久しぶりに会った奴に言うこと欠いてそれかよ、貴様」


 すると、神連は答えることなくふっ、と笑った。

 いちいち腹立つやつだな。


「まあ、興奮したら私が擦り切るので当然ですね」


「お前はお前で怖いこと言うなよ。車の中、血塗れにするつもりか」


 え、なに。

 あの時に仲嶺が来るの間に合っていたら、神連は今頃擦り切られてるってこと? うわぁ……バイオレンスな殺人現場見ることにならなくて良かったぁ……。


「シリアスとかサクッと終わらせたいからパパっと行こうぜ。わしゃあてぃんてぃんが足りん」


「あんたに足りてないのはストッパーでしょ」


「言えますね」


「お前ら俺を罵倒するために来たの?」


 日に日に扱いが雑になるのは今更だが、雑超えて罵倒だぞ。仲嶺は唐突にデレるからまだしも、神連は前科あるし何も言えないだろ。

 多分口説いたら一発で墜ちるくらいチョロいぞ? 絶対やらないけど。


「行くぞ。もうここまで来たら一蓮托生だ。どのみち計画が成功すれば嫌でもお前ら巻き込むし」


「私、大学生なんだけど」


「今年卒業だろ」


「私、仕事が」


「仕事だろ。未来進行形で」 


 俺は変わらず配信をやれれば良いんだ。

 崇高な目的の裏には必ずてぃんてぃんがある。


 俺は変わらない。周りは変わらせる。



「さあ、何気に存在感薄い【夜旗よるはたかおる】に会いに行くか」


 竜胆大学法学教授。男性理論の権威者。

 俺が転移した当日のテレビに出てきた蛙おばさん。


 裏の顔は【まじかるおてぃんてぃん教団】のボス。


 こいつ、どこで人生ミスったらこんなフザけた教団立上げんだよ、マジで。


 






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