第35話 仲嶺は可愛いんだよ(半ギレ)&教団の動き
「配信以外マジでやることないのな」
BANオチ、という運営にツッコミを入れられる事態にまで発展したシスターとのコラボは、大きな波紋を残していった。
事前に炎上は防ぐことはできたが、もしこれが全員に愛されるVtuberだった場合を考えるとゾッとする話だ。
ボヤ騒ぎはしょっちゅう起こるものだが、BANともなればさすがに香ばしいでは済まない事態だ。
……これはある意味酷い扱いを受けた甲斐があったのか? いや、それは本末転倒だろ。
そんなわけで、粗方後処理を終えた俺は非常に暇をしていた。
「ただ寝っ転がって怠惰な日々を過ごすのもなぁ。人生無駄にしてる感じが半端ない」
俺の人生は無駄しかないけど、配信を初めてからは有意義に過ごせているんじゃないかと勝手に思っている。それこそ前の世界なんて、バイトで稼いだお金を飲んで消費するだけの悪のスパイラルに陥ってたからな。
そう考えるとすげぇな俺。
スマホさえあれば良かったから生活必需品以外買ってない気がする。
それに趣味はてぃんてぃんです、と素面で言えるくらい厚顔無恥だったし。
今でも言えるけどね。むしろ言い触らしてるがな!
「あー、
保護官を呼びつけて暇を潰すとか職務妨害してる気になる。いや、立派な職務の一つなんだが、国家公務員の時間を無下に扱っていいものなのか。
まあ良いか!
『はい、仲嶺です』
「あ、もしもし? 暇? 暇だよな。来て」
『決めつけないでくださいよ。暇ですけど。ご要件はなんですか?』
「ん? 暇。そっちも書類仕事で辟易してるだろうしリフレッシュと思って来てくれ」
『はぁ……分かりました』
日々を重ねる毎に、仲嶺の反応が雑になってきている。
これは……絆を深めた、ってことだよな、よし。
自分の都合の良いように出来事を変換する俺の脳は、今日も絶好調のようである。
☆☆☆
十分ほど経つと、ピンポーンとインターホンが鳴る。
前の失敗を踏まえて、しっかりとドア越しに姿を確認すると、桃髪ツインテール無愛想ロリを視認できた。
ドアを開けると、どことなく不機嫌な仲嶺が現れた。
「ほい、ちゃちゃっと入ってー」
「失礼します」
スタスタと俺の後ろを歩く仲嶺にソファを勧めると、ドカッと腰掛け腕を組み黙った。
……いや、あのフランクになるのは構わないんだけどさすがにその反応は傷つくぜ??
「俺、なにかしたっけ」
「……ソーシャルゲームのガチャ配信、見ました」
そーしゃるげーむのがちゃはいしん……はいしん……配信!?
俺は立ち上がって天を見上げた。
「まさか見られていたとは……」
「むしろなんで気づかれないと思ったんですか。普通に話題になっていましたし、声を聞けば普通に分かりますよ」
仲嶺だけには見てほしくなかった……。
別に疚しいことをしてるつもりは一切ないんだが、前にも言った通り仲嶺のロリ姿と下ネタを掛け合わせるのは倫理的にアウトじゃねぇか、と勝手に思ってるわけで。
所詮、その考えが一人歩きしてるだけだったが。
「そ、それで下ネタを言う俺に呆れた、とか?」
もしそうなら洗n……素晴らしさを教える必要がある。苦肉の策だがな。
しかし、仲嶺は小さく首を傾げて否定した。
「いえ、それはどうでも良いんですけど、配信中に私のことを話題に出しましたよね?」
「あー、そういえば。仲嶺が強さだけ、とか思われてそうだからカチンと来てな」
どうでもいいんかい。思い切り杞憂だったわ、ちくしょう。
「……構いません。保護官は結局、総合的な強さしかありませんから。そこに性格とか容姿は介在しませんし、私はこの姿形ですから。無理に春樹様の価値を落としてまで私を庇う必要はありません」
幼い顔に陰を落として、仲嶺は吐き捨てるように言った。
本当にこいつは自己評価が低すぎる……。
というか俺の価値? 下がりきってるから上がることは無いが??
そんなことを思いながら、俺は徐ろに仲嶺の髪をくしゃっと撫でる。
「ばーか。お前は保護官である前に年下なんだよ。腕っぷしは負けても精神性は負けるつもりはないぜ? それに、総合的な強さの中に容姿が入ってても別に良いじゃん。可愛さ余って強さ倍増、ってな」
「なんですかその理論は……。例え容姿が評価基準に入っていても私では──」
仲嶺は乱暴に撫でられた髪を整えながら再び自虐した。
だから俺は立ち上がって吠える。
「お前は可愛いんじゃボケぇ!!」
「なんでキレてるんです!? それに、貶してるか褒めてるのかどっちですか!!」
「褒めてるよ!! 愛らしさもあるけど、たまに見せる大人っぽい表情は正直性的にクるわ!!」
「〜〜っ!?」
やべ、なんて口走った俺。
半ギレした結果やべぇことを言った気がする。
当の仲嶺は顔を真っ赤にして混乱している。
「とにかく、誰がなんて言おうとお前はすごいっての。俺のリスナーで保護官なら分かるだろ? 心の中にぶっとい芯を持つんだよ。お前はまだそれが細いだけだ。さっさと客観的に自分の評価を見直して大きくしやがれ」
ふぅ、落ち着いた。
俺はロリコンじゃないぞ。……何か言われる前に言っておくが。ただ、あぁこいつも大人なんだな、って分かる表情に驚いているだけだ。
いや、さすがに幾ら見た目がロリでも大人扱いしないのは駄目だろ。今回口走った自爆発言はそれが原因なんだよ。
以下言い訳終了。
仲嶺は未だ赤い顔のまま上目遣いで俺を見た。
「私、すごいんですか?」
その瞳には微かな不安と、それを大きく上回る期待にあふれていた。
「あぁ、すごいすごい」
「なんだか投げ槍な気がするのですが」
「自分の価値を他人に丸投げするほど馬鹿な話は無いだろ。自分はすげぇ、って思い込んでりゃいいの」
「難しいことを随分簡単なことのように語るんですね」
「今までずっとそうして生きてきたからな」
胸を張って宣言すると、仲嶺はクスッと笑って顔を背けた。
そして勢いよく振り返った。
「え、私を性の対象にしてるんですか!?!?」
「あぁ、話変わったから気にしてないのかなと思ったら、ただ単に物事を咀嚼できてなかっただけなのね」
論点がシャッフルしてて草。
「答えてください」
仲嶺が圧をかけるように一歩ずつ近づく。心なしか嬉しそうな気がする。おぉ、おぉ、だいぶ表情が豊かになったこと。
だから俺はたった一言だけ叫んだ。
「お前、俺の性癖舐めんなよ?」
☆☆☆
「自ら墓穴を掘るとは俺らしくもない。仲嶺だから安心だけど、あんまり絆されすぎんのもよくねぇな」
特に神連とか神連とか神連とかは、隙を見せればどんな行動を取るか恐ろしいったらありゃしない。
色々信頼してる面はあるが、性関係において信頼できるところは欠片もないのだ。事が事だからな。
一先ず、なぜか納得した表情を浮かべた仲嶺を帰らせて、俺はため息をつく。
どうにもこうにも、この世界に来てから行動全てが裏目に出ているような気がしてならない。気の所為だと思いたい。俺はしっかりと危機感を持っている……はず? やべぇ、ついに自分でも肯定できなくなったぞ。
「大人しく次回の配信ネタでも考えるかぁ」
BAN期間中にゲームを注文しておくのも良いかもしれない。
ここで再びインターホンが鳴った。
来客の予定は無いのだが、仲嶺だろうか。
「なにか忘れ物でもしたか?」
念の為確認すると、そこにいたのは仲嶺ではなかった。
「黒のローブに白い仮面。手にはなぜかスケッチブック。……ふむ、事件の香りがするぜ」
すると、目の前で怪しい人物がスケッチブックに何かを書き、それを掲げた。まずもって、俺が見ていると言わんばかりの反応だ。
『あ、どもっす。まじかるおてぃんてぃん教団のものです。ちょっと、うちのボスがクソしょうもねぇことでキレたので、協力してほしいんですよね』
5秒後ペラリとページがめくられる。
『もちろん出なくていいっすよ。ドア越しで会話できますかね。ちなみにウチはてぃんてぃん大好きっす』
「やあ、元気?」
『あ、マジで出るんですね。元気ですよ。身体的には』
インターホンで俺は即座に出た。
相手の声も聴こえるようになったので、謎の人物はスケッチブックを下ろしてどこか呆れるように言う。
『ウチが言うのもなんですけど、もうちょっと危機感持った方がいいんじゃないです?』
「てぃんてぃんが好きなやつに悪いやつはいねぇ」
『断言するんですね。草』
口調軽いなおい。
声を聞く限り若い女性っぽい。
神連から聞いた例の教団だが、あまり危険な雰囲気は感じない。
「それよりよくその格好でここまで来れたな。職質とかされなかった?」
『あ、この格好はインターホン押す直前っすよ。さすがにあんなヤバい格好で出ませんって』
「自覚あるならデザインの変更を訴えれば?」
『いやぁ、ボスがこの格好の方が怪しい教団っぽいって言うもんですから』
「遊び半分でやってね?」
随分俗っぽいね、君ら。
そんな小学生のごっこ遊びのノリで宗教組織立ち上げてんの? おもろ。
『まあ、そろそろ時間も迫ってるんで、単刀直入に言いますけど、ボスが『あんな下品な男が云々かんぬん』騒いでまして。前からボスの行動は目に余っていたのでこうして密告した次第です。住所はボスがどこからか手に入れたみたいですから、早いとこ何とかした方がいいですよ』
「そっちの問題に俺を巻き込まないでほしいんだけど」
『耳が痛い話っすけど、ボス、めっちゃ権力持ってるんで反抗できないんですよ』
個人情報が塵芥と化してるんだけど。
どうすんのよ、これ。引っ越した方がよくない?
「で、ボスって誰なの? 対応の仕様がないんだが」
『表立って反抗はできないっすけど、不正の証拠は幾ら持ってるんで渡します。それで、ボスは【──】っす』
「ほーん……おけまる。片付けるわ」
『助かりまーす。色々入ったUSB、ポストの中に置いておくんでよろしくです』
ポストに何かを置いて、ノリの軽い人物はそそくさと去っていった。
「うーん、どうしよ」
ピンチ……なのか、これ。
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