第32話 性癖コラボ配信① #ツッコミ不在
「やあ、俺だ。黒樹ハルだ。下僕の馬鹿どもは置いておいて、シスターの信徒たちは初めましてだな」
「というわけで、今回のゲストは今、巷を賑わせている世界で初めての男性Vtuber、黒樹ハルさんです」
上半身のみの3Dアバターが映し出される。
黒髪着物イケメンの俺と、銀髪修道服美少女のシスター・アリア。なんてジャンル違い。
ーー
『ついに始まってしまったか……』
『誰が馬鹿だこの野郎』
『黒樹さんには是非とも変態の緩衝役に……あ、はい無理ですね』
『速攻で諦めるの草』
ーー
同接は11万人を越している。前の世界でもあり得ないほどの数値だ。これはパンピーも見てる説。
「とても楽しみにしていましたっ。改めて今日はどうかよろしくお願いします」
「いやいやこちらこそ。まさか推しと話せるなんて思ってみなかったから結構心臓バクバク」
「あら! 推しだなんて……」
ーー
『おや。朗らかな空気』
『嵐の前の静けさとはまさにこのこと……』
『黒樹の推しが変態って、解釈一致すぎワロタ』
『てぃんてぃんはまだか?』
ーー
「ちなみに事前打ち合わせはほぼしていないから、何を話すかも分からないという異例の事態だぞ」
「そこはカバーしますし、黒樹様なら大丈夫でしょう。なにせ、私達が話す内容なんて決められていますから」
「だよな。これを話さないで何だって言うんだ」
「ええ、ですからまずは軽い質問をしてもよろしいですか?」
「もちろん」
質疑応答形式か。打ち合わせ無しならそれが一番やりやすいな。
もう少しトークスキルが俺にあればアドリブで回すこともできるのに、まだそこまでの技量は俺にない。コラボ回数も少ないしな。
ここは後輩らしく先輩の胸を借りる気持ちでいこう。
「黒樹様の性癖を……是非ともご教授願いたいのです」
ーー
『ジャブにしては重くねーか?w』
『軽めの質問とはいったいw』
『さすが黒樹族。もしくはシスター族だな。どっちが上か。この対談で明らかになりそうだ』
『ならんでええわw』
『同類は同類なんだよなぁ』
ーー
「性癖か」
数多ある。
趣味嗜好というのは人の内面が一番表面に出るものだと思う。その中で取り分け性癖が性格を表す。だが、ここで偽るのは俺じゃない。
「それは俺が女性のどういうところに興奮するか、という解釈で良いのか?」
「ええ。男性にこんなことを聞ける機会はありませんし、よしんば聞けても突っぱねられるか刑務所行きですので」
確かに。
この世界の男性の一般的価値観を聞くに、答えてくれるわけがないだろう。
なんて悲しいことだ。性癖を語り合えないなんて、
「そうだな。やはり……オーソドックスに胸の話をしようか」
「胸……こんな脂肪の塊が性癖となり得るのですか!?」
ーー
『え、邪魔なだけの物かと思った』
『黒樹だけじゃね』
『男のピーチクに興奮することはあっても、女の胸に興奮するのか……』
ーー
「まあまず聞け。とある界隈には巨乳派と貧乳派。絶対数は少ないが美乳派もいてな。言葉の通り、大きさや形が興奮材料となり得る」
「なるほど……興味深いです。黒樹様はどの派閥に属されているのですか?」
「俺は……全てだ。等しく俺はパイパイを愛してる」
「素晴らしいです……!!」
ーー
『どこの界隈なんだよ。お前一人で完結させんな』
『なんこれ』
『なにこの会話w』
『会話チョイスが最低だw』
ーー
前の世界では全てなんて邪教徒だ、と罵りを受けていたが全てを愛して何が悪い。
一回も触れることは叶わなかったが、それでも俺の脳内には幾つもの種類の胸が今でも浮かび上がる。
いや……触れなかったからこそ神聖だったのかもな……。
「ふぅ……まあ、俺の性癖については賛否あるだろう。世の中の男は枯れてるしな。あくまでモデルケースだと思ってくれ」
「そうですね。悲しいことに男性は性に積極的ではありませんから。……黒樹様みたいなお方が何人もいたら、と考えてしまうのは詮無きことですね」
ーー
『黒樹が何人もいたら?考えたくねぇわ』
『世界破滅RTAのタイムを稼ぐのやめてもろて』
『性に積極的になるのは大歓迎だが黒樹が増えるのは勘弁』
ーー
「俺は唯一無二だからな」
ーー
『良いことのように捉えるなよ』
『罵倒してんだよワイらは』
『ポジティブかよ』
ーー
(↓読まなくても良いです。脇フェチ、手フェチについて話してます)
「私の性癖も幾つかありますが、やはり注目すべきは男性の脇、ですね。ただでさえ少ない男性の写真を拡大、そして解像度を上げる作業をするのは至難の業でした。脇は素晴らしいです。手を伸ばしてチラリと見えた脇のシワとか隠された部分が明らかになったような、まるで宝箱を明けた達成感に捕われます。そこにフェチを感じます。脇が甘いという言葉はありますが、あまりの脇への甘美さに男性の脇は本当に甘いのでは??? と最近思っていますね。
あとは手ですかね。力は私たち女性に遥かに劣るのに手は大きい。まるで、女性を包み込むために産まれてきた形状は特に心に訴えかけてきます。その中でも私は手に浮かぶ血管が好きですね。とある伝手を使って、男性の手だけに着目した写真を獲得したのですが、それを見た時の興奮と言うともう!! 何ていうんでしょうね……しっかりと息づいている。生きている。存在しているのだと分かるような雄々しさを血管の筋から感じるのです。男性を生で見る機会など一生に一度あれば良い方ですから、所詮空想上でしか物語を広げられないわけで。それを写真で見ることでようやく、あぁ、男性はこの世界に存在していると分かって、嬉しさと興奮を感じるのです。こうして振り返ると、多角的なフェチですね。単なる脇フェチと手フェチとは言い難いです。これもやはり発見ですね。性癖とは発見の連続です。自分を大きく掘り下げることができます。そうして新たな自分が根を張って成長していくんです。これぞ趣味嗜好。性癖の醍醐味です。こう考えると次は足に着目するのも良いかもしれませんね。あぁ……インスピレーションが湧いてきました。足……筋肉でしょうか。いいえ、それは内部ですね。あくまで見た目上から感じるフェチが重要でしょうか。そうなると太ももふくらはぎの2つがあります。素晴らしい!! 二つもフェチを感じる部分があるなんて! 明日以降の課題としましょう!!
……おっと、長々と失礼しました」
ーー
『出たぞ変態の長文語り』
『コラボ相手にやったのは初めてじゃね?www』
『これはさすがに黒樹も引くだろwww』
『黒樹黙ってるしw』
ーー
「……ぐすっ、ズビビビ……」
「え……?」
ーー
『え?』
『泣い、てる?』
『あの黒樹が……泣いてるwwwwwwwww』
『何があった。何がお前の涙腺を崩壊させたんだw』
ーー
俺は感動していた。
涙と鼻水か止まらない。この止めどなくあふれる涙を止めたいとは思わない。
思えばこの世界でまともに人と性癖を語り合ったのは初めてかもしれない。心細かった。今、それを自覚した。
シスターの語りは前の世界で聴いていても感涙モノだったに違いない。
だが、この世界だからこそ一段と響いた。見せかけじゃない、本当に好きだと分かるからこそ俺は泣いた。
「素晴らしい、シスター。俺はまだ侮っていたらしい。こんな熱量を感じたのは久しぶりだったよ。俺なんか……まだまだ同じ土俵に立てるほどじゃなかったよ。……今の語りを聴けただけで俺は人生の生きる意味があったと言えるだろう。……ありがとう。ちなみに俺は大腿四頭筋にフェチを感じるぜ」
ーー
『シリアスな声音で何言ってんだお前』
『感動してたのかよ()』
『あれを聴いて感動できる人類がいたとは……』
『草』
『最後にいらん情報を流すなwww』
『生きる意味てw』
ーー
「黒樹様……私も初めてです。こんなにも真面目に。泣くほど私の言葉に耳を傾げてくれた人は。やはりコラボしてよかったと思えました。まだ始まったばかりです。もっと話しましょう」
「もちろん!!!」
ーー
『んー……いい感じにまとまった……の?』
『いや、違うだろw』
『おーい、ツッコミ役ぅ!!』
『なに見せられてんだワイら』
ーー
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