第33話 性癖コラボ配信② #まさかの結末
配信を通して、俺とシスターは真の意味で対等な存在へとなった。
きっと俺だけじゃない、シスターもそう思ってくれているはずだ。
そう。分かっただろう?
──下ネタは世界を救うのだ。
「では、気を取り直して続きに参りましょう。次は質問コーナーです。下僕の皆様と信徒の皆様、それぞれから寄せられた質問に答えていこうと思います」
「了解! 前回、一万人記念で質問コーナーやった時は、変な質問ばっかだったからな。今回こそはまともな質問が欲しいぜ」
ーー
『お前が言う??』
『まともとか一番お前に縁のない言葉だろwww』
『変態も黒樹ハルもまともとか使ったらいけないw』
『結構膨大な数の質問になりそう。ワイのが採用されてることを祈る』
ーー
本当にね。
質問箱は合計質問数を見ることができるのだが、寄せられた質問のあまりの多さに俺は二度見した。
……いや、だってまさか十万件を超えるとは思ってないじゃん……?
一人で何回か質問している人がいると想定しても、膨大で見慣れない数字だ。やはりシスターはすごいと思ったね。
それはそれとして俺はまともだ。
「最初の質問です!」
「おぉ、テンション高いな」
淡々と微笑んで進行するシスターにしては珍しい。それだけ気分が乗っているということならば嬉しさしかない。
そして画面に質問が表示される。
【謝罪配信を機に見始めました黒樹リスナーです。最終的な目標というか、未来のてぃん望……展望をお二人に聞きたいです】
「え、マジでまともな質問じゃん……」
「何年かぶりに見ました。こんなに純粋無垢な質問があったのですね……感無量です」
ーー
『なんだ、本当に黒樹リスナーか?』
『ちょっと洗脳されてるけどなwww』
『てぃん望は草』
『まだ正気を保ってるやつがいるとはな……』
ーー
「俺の発言でSAN値削られるみたいな言い方やめろ」
「神話生物扱い……黒樹様の御言はすでに神の域まで達しているということですね」
「なるほど」
ーー
『なるほどじゃなくて』
『拡大解釈しすぎワロタw』
『ツッコミはよwww』
『ダメだボケしかいねえ』
ーー
「それにしても未来の展望か。俺はもうハッキリ言えるね。配信を通して世界を変える。そしててぃんてぃんを布教する」
「世界を変える……黒樹様はこの世界にご不満が?」
「あぁ、ごまんとあるね。男性の社会進出。難しいのは分かってるけど、今のやり方じゃ絶対に上手くいかない。男が過ごしやすい環境整備は大事だが、一方が優遇されていると軋轢が生じる。俺はそんな世界見たくないね」
前の世界が良いというわけでもない。
この世界には特有の文化とか歴史がある。全てを踏み躙ろうなんて考えちゃいない。
ただ新しい風を差し込みたいだけなんだよ。男は男だ。それを何年でもかけて見せつけて、いつか必ず男女笑って話せる世界を作る。作り上げる。
……けどまずてぃんてぃん!!
「途方も無い夢。大言壮語。ですが、黒樹様ならできるのではないか。そんな期待をしてしまうのは私だけでしょうか。あぁ……素晴らしい。素晴らしすぎて体が疼きます……はぁはぁ」
シスターの声音に艶が増した。
わりとガチで疼いているらしい。良いね。
「だよな。俺も興奮する」
ーー
『いい話だなぁ……の後に来る落差』
『一周周ってギャップ萌えかもしれん』
『それはおかしいwww』
『なんでだろーなー。マジで黒樹ならやり遂げそうw』
『こういうカリスマ性は高いくせに何だって、そんな性方向に偏ってるんだ』
『黒樹にとっては正方向なんだろうよ』
『負だろw』
ーー
「配信を通して世界と繋がっている。私たちはそうして生を、性を感じるのです。……これは最早性行為と言っても過言ではないのでは?」
「もう完全にヤッてんね。全然過言じゃない」
ーー
『ちげぇよ』
『【速報】ワイら全員処女卒業していた』
『ワイらの初めては黒樹か。なんか嫌だ』
『いや、普通に嫌だwww』
『贅沢だろ、って思ったけどワイも嫌だわw』
『過言なんだよなぁ』
ーー
俺の扱いってVtuberのゲテモノ枠なん?
さすがに酷くねーか?
「ちなみにシスターの目標は?」
「そうですね。私も即答できます。世界のあらゆる性癖を網羅し、人それぞれに寄り添いながら性癖に合ったエロ漫画をオススメする……性のアドバイザーになることです」
かつてない真面目な声音だった。
ふざけてなどいない、本当に自分の目標なのだろう。
なら、俺はそれを肯定するだけだ。
「性癖を網羅か。険しい道になるぞ」
「覚悟の上です」
「そうか。俺も男性的目線から協力させてもらうよ」
「……本当ですか! ありがとうございます。貴重な意見です」
ーー
『性 の ア ド バ イ ザ ー』
『草しか生えんのだけど、本人至って真面目よねw』
『信徒的に言えば今更だし、オカズに助かってる節もあるから否定するつもりはないけどなw』
『黒樹とは別方向にぶっ飛んでるなw』
ーー
「ほら、肯定的な意見が多いぞ。やっぱり何だかんだ愛されてんだよ」
「えぇ……初心に帰れた気がします」
シスターの満足げな様子に俺は肩を下ろした。
この界隈とは言え、シスターの素晴らしい夢に反対する輩がいないとは限らなかった。今更アンチコメントに屈するシスターではないと思うが、夢を否定される苦しさはどんな強メンタルでも一時はしこりに残る。
「さて、次の質問に参りましょう」
【てぃんてぃん好き?】
「「大好き」」
ーー
『息ぴったり』
『仲良しやなぁw』
『そりゃそうだろうな』
『愚問だったぜ』
『洗脳済みが何人かいるの草』
ーー
【黒樹って、てぃんてぃんって言うけどさ。他の言い方じゃ駄目なの? それともなんか理由あんの?】
「これは私も少し気になっていた質問ですね。ち◯ことかち◯ちんとか、ち◯ぽとか陰茎とか色々言い方があるならで、そのワードをチョイスした理由を是非お聞かせ願いたいです」
「いい質問だな」
今までツッコミが無かったから話していなかったが、これには大事な理由がある。
俺の過去にまつわる話だ。
「俺が初めて覚えた言葉がな……てぃんてぃんだったんだ」
ーー
『生粋じゃん』
『いや、さすがにwww』
『草w』
『どうなってんのマジでw』
ーー
「忘れもしないぜ。初めは単なる聞き間違いだったんだよ。深々と降る雪、がって天気で言ってたんだが、キャスターの滑舌が悪くてな。てぃんてぃんと降る雪が、に聞こえたんだよ。……てぃんてぃんが降る? なにそれ最高」
ーー
『そんな言い間違えと聞き間違えある?www』
『てぃんてぃんと降る雪www』
『本音混ぜるな』
『最悪の間違いだろ』
ーー
「ごほん。それがまず印象に残ってた。そして、成長するにつれて下ネタを学んでいったんだが、どうもち◯ちんもち◯ぽもしっくりこなくてな。てぃんてぃんになったんだよ。言いやすいし頭に残るし」
「確かに黒樹様の配信を聞く前はおち◯ぽ様と呼んでいましたが、聞いた後はもうてぃんてぃんとしか言えなくなりました。……これは世紀の大発見ですよ」
「それな。ノーベル賞受賞してもいいと思う」
ーー
『名誉ある賞が汚れるわw』
『しっくりこないてwww』
『確かに洗脳されてるワイらがおるw』
『てぃんてぃんれぽりゅーしょん、聴いてからもうてぃんてぃんしか言えない体にされた』
『魔改造施されてんのウケるw』
ーー
いや、おち◯ぽ様にもツッコめよ。
崇めるのは大正解だが、自分にぷらりんちょと付いてるものを過度に崇めるのも自画自賛みたいで遺憾なのである。
「いやぁ、それにしても楽しいな、この配信」
「えぇ、私もです。コラボ回数は何故か少ないですから、貴重ですし、それにこんな話をできるとは夢にも思っていませんでした」
ーー
『何故か????』
『汚点だからだろ』
『汚点(チャンネル登録者数箱内ナンバー2)』
『シッ、それは言ったらだめでしょ』
ーー
俺も大概だけど、ボロクソ具合はシスターの方が上だな。リスナーからの愛が感じられるけど。
「コラボは二回目だけど、あの時は趣旨が違ったもんな」
「あぁ、コロンさんですね。黒樹様のコラボ童貞を奪った」
ーー
『人聞きの悪い言い方をするんじゃねぇw』
『コロン【遺憾ッス】』
『でしょうねwww』
『ポロン、絶対この配信見て頭抱えてるだろ』
『コラボ童貞は草』
ーー
「そうそう。結果的に仲良しになったし良いけどな」
「仲良くなった秘訣はやはり……」
「あぁ。てぃんてぃんだな」
ーー
『遺憾だろそれは』
『捏造されとるwww』
『本当にポロンになっとるやんけw』
ーー
いや、そうだろ。
てぃんてぃんって言わせた結果があれなんだから。
過程も、俺が男性だったらあんな下ネタを言うわけないって感じだったし? それもてぃんてぃんだ。
内訳としてはてぃんてぃん100%だな。
「次の質問ですね」
【てぃんてぃんれぽりゅーしょん、歌って!!】
「あの名曲をデュエットで歌えと」
「良いですね。全部覚えてますから私は可能ですよ」
おっと、まさかの肯定だ。
シスター、前の世界含めて歌を歌ったことないんだよな。声も透き通っているし絶対上手いと思うんだけど。
それがまさかのここで初解禁か。
ーー
『あれ、シスター乗り気?www』
『うせやろ、歌解禁があの歌なのかよ』
『てぃんてぃんれぽりゅーしょん、ってなんや。どうせやべぇことだろうと思ってるが』
『その解釈で間違いない』
『www』
ーー
少し時間を空けて音源その他諸々の準備をした。
やるからには全力だ。愛を叫んでやろうではないか。
「いっくぞおおおぉぉ!! 聞いてください!!」
「「てぃんてぃんれぽりゅーしょん」」
声が重なる。
パート分け? 知らん、フィーリングじゃ。
まずは俺から。
「可愛い女の子と出合いたあああぁぁぁい!!!」
そしてデュエット。
「「てぃんてぃん!!!」」
気合いと愛らしさの籠った素晴らしいコールだった。
すでに泣きそう。
ーー
『いや、草』
『序盤からやべぇ』
『狂気で狂喜で歌は狂鬼』
ーー
合図するでもなくシスターが歌い出す。
しかしここで、後に伝説の事件と語られる出来事が起きる。
「小悪魔俺の初配信♪
初めての男性Vtuber
バーチャルてぃんてぃん見せらんない
BANされちゃうから────」
シスターの可愛らしくよく響く素晴らしい歌声が聞こえたと同時に──
──ぶつ。
と配信が途切れた。
「え、は、ちょ、え?」
「BANされた」
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