第31話 ソシャゲガチャ配信 #あたおか
次の日。
俺のモーニングルーティンとは何か。
果てしなくどうでも良いと思うんだけど、俺は毎朝決まったことをしている。
「んん゛。あいうえおかきくけこさしすせそたちつてぃんてぃん!!!!」
よし。
何をしてるかって? 見たら分かるだろ、発声練習だよ。
配信は夜中だけど、基本家に一人だし黙々と話さずに何かをしていることが多い。何だか喉が鈍りそうで、朝昼夜と独り言を延々と話したり歌ったり、やべぇ奴と化す。
だか俺には配信という建前があるから、きっと一人で話していても許されるに違いない。まあ、前の世界の時から一人で叫んでたんですけどね!
それは置いておいて、いつもようにTnitterを開くと、DMアイコンが点滅していた。
性別バレするまではDMをフルオープンにしていたが、あまりの件数の多さに辟易した俺は、相互フォローだけDMを許可した。
今のところフォローしてるのは、何人かのVtuber(コロン、シスターなど)と開発者だけだ。
何だかんだ開発者もやべぇ奴と肩を並べるやべぇ奴だからな。
遺憾なく技術力を発揮してくれるのは有り難いが、その対象が俺で良いのかは本人しか分からぬ謎である。俺が言うのもなんだけど、もっと有意義なことに使いなさいよ。
「……ん? シスターから?」
DMを開くと、シスター・アリアからだった。
『おはようございます。事務所側から正式に許可が出ましたので、コラボの日取りをご相談しに参りました。私はいつでも構いません。例えどんな用事が入っていても空けるので。明日はどうですか? もう待ちきれません』
「……ある意味熱烈なラブコールだな」
俺は苦笑して言った。
ここで大事なのは、シスターは例え男だろうと自分を一切曲げずに貫くという点にある。
俺とコラボをしたがるのも、男だからという理由ではなく俺だから。自惚れではないはず。
……ハッ! ある意味体狙いなのでは!?
「よし、明日だな、うん。物事は性急に動かすに限る」
☆☆☆
「やぁ、本を開いたまま床に置くの処刑案件。黒樹ハルだ。元気してたか下僕ども」
ーー
『わかる』
『相も変わらずワイらの心に響くあるあるを言いやがって』
『信用して本を貸したら折り目ついて返ってきた時は殺意が湧いた』
『案外気にしてない人の方が多いのも結構腹立つ』
『黒樹、30万人おめ』
ーー
30万人? マジか。知らなかった。
「おー、三十万人? 感謝」
ーー
『軽っ』
『ガチで数字どうでも良い人じゃんw』
『黒樹は配信とてぃんてぃんがあれば満足するだろうからな』
ーー
「よく分かってるじゃないか。そう、俺にはてぃんてぃんと配信さえあればどうとでもなる。霞食ってでも生きてやるわ」
ーー
『並々ならぬ覚悟www』
『人生てぃんてぃんに捧げすぎやろw』
『アホだ』
ーー
息子に人生捧げるのは当たり前だよなぁ?
まったく。付いてる人間と付いてない人間には、ここまでの意識の差があるのか。如何とした事実だよ、これは。
「まず最初に告知。明日、シスター・アリアとのコラボが決まった。0時からで、配信ネタは雑談。質問も募集するからどしどし応募してこいよ」
ーー
『マジかよ』
『世界一誰も望まないコラボが決まった……』
『汚物×てぃんてぃんの狂宴』
『ツッコミ役はいないのかよ』
ーー
「ツッコミ役? いねぇよそんなもん。お前ら収拾つかないって騒いでるけど、俺だって真面目にやればタイムスケジュール道理にこなすこともできるんだからな? 見とけよ?」
これでもゼミの意見交換では、積極的に緩衝役を仕ってたんだ。対立していたグループがあったから、俺が華麗な交渉術で見事に中間管理職染みた働きをこなしたのだ。
ーー
『嫌な予感しかしない』
『もうコロン呼べよ。あいつ吹っ切れてたまに下ネタ言うしコンセプトてきにもありだろ』
『良いじゃん。コロン呼べよ』
ーー
「コロンな。連絡は取り合ってるけど、死ぬほど疲れるからコラボはしばらく遠慮したいッスって言われてんだよな」
ーー
『あぁ……苦労人』
『哀れコロン』
『コロンもポロンになっちまったか……』
『黒樹被害者の会、会員ナンバー1』
ーー
「どっちかって言うと因果応報だろ。俺は返り討ちにして布教したに過ぎない」
ーー
『過ぎてんのよ()』
『サラッと布教すんなwww』
『復讐の仕方が特殊すぎるw』
ーー
「復讐とは失礼な。俺はコロンに悪感情なんて一ミリも持ってないぞ? むしろ好感を持ってる。トークスキルと、情報収集能力。それに土壇場でも尻込みしない胆力とかな」
認めてる部分は多い。
俺と同じ個人勢だが、全てが尊敬に値する。べた褒めと言っても良い。女性としての魅力? ……ははっ。
「さて、今回の配信だけど、黒猫プロジェクトのガチャを引いていこうと思う。目当てのキャラが出るまで課金します。プリペイドカードはとりあえず百万円分買った」
ーー
『こいつ。男の財力に頼りやがった』
『ちょうど八周年来てるのに。ワイ、ガチャ石ねぇよぉぉ!!』
『見損なったぞ黒樹。無課金でやれよ』
ーー
「良いかよく聞け。世の中金が全てだ」
ーー
『身も蓋もないwww』
『お目当てが誰か知らんけど当たらなくなる呪いかけてやる』
ーー
やめろ、そういう呪いってやけに効くから。
ちなみに黒猫プロジェクトは、ストーリーやイベントをこなしながら強くなる、まあありふれたソシャゲなのだが、なんと言ってもストーリーがとても面白く感動できる。
それに、今や大部分のソシャゲが男キャラばかりの萌えゲーと化してるこの世界において、唯一キャラの男女比が平等なゲームなのだ。
俺もそういう媚び媚びしいゲームじゃないからやりやすい。
「ある程度石は無課金で集めたから引くだけだ。ただその様子を見てもつまらんだろうから、雑談メインで行くど。ちなみにお目当てのキャラは、ソーセージの体をしている星2キャラ。想せぃ児だ」
ーー
『結局雑談w』
『おま、それてぃんてぃんwww』
『なんだよいつものじゃねぇか』
『狙ってそれ引こうとしてる奴初めて見たわw』
『星2だしすぐ出るだろ』
ーー
馬鹿野郎、想せぃ児くん、舐めんなよ。最大強化したらそれなりに使えんだぞ。前の世界から仕様は変わってないから、俺は必ず想せぃ児くんを使うんだ……!!
「じゃあ、早速引いていくぞ」
ゲーム画面と同期させ、早速十一連を引く。
キラキラ輝き始め、十人のシルエットが映し出された。
銀、銀、金、金、金、銀、虹、虹、金、金、虹。
「はぁー? ふざけんなよ。星2が目的なんだから金以上来んなよ」
ーー
『いやいやいや、めっちゃ引き良いじゃん』
『なんで文句言ってんのこいつ』
『ふざけんなよ』
ーー
星2は銀からしか出ない。星3は金から。星4は金か虹から。たまに銀から出るが。
こう考えれば星2の方が確率少ないのでは??
「えーと、出たのは……限定キャラが4体に想せぃ児くん以外のカスキャラだな。よし、次行こう」
限定? 望んでない限定を引き当ててもちょっと……。
ーー
『おい、誰かこいつを処刑しろ』
『たった一度の11連で八周年の限定4体当てやがった』
『ふざけんなw』
『もうそれで良いじゃん』
ーー
「何も良くない。俺が欲しいのはあの美的なフォルムをした想せぃ児くんただ一人のみ」
ーー
『美的なフォルム』
『どこがwww』
『何でもかんでもてぃんてぃんに結びつけんなw』
ーー
「サクサク引いていこう。ところで、お前らうちの保護官知ってるだろ?」
ーー
『まあ有名だからな』
『訓練校時代のVも見た』
『やっぱあたおか戦闘力だよな……』
ーー
「いや、戦闘力とかはどうでも良いんだけどさ。めっちゃ可愛くない? 容姿もそうだし、あいつからかうとめっちゃ照れるんだよな」
ーー
『え、嘘やん』
『訓練校時代、めっちゃクールでピリピリしてたぞ……? 性格変わったん?』
『多分、黒樹に染められたんだな……可哀想に』
『良い影響を与えたはずなのにボロクソ言われる黒樹』
『あの仲嶺家の人間をカワイイと言える人間がいるとは』
ーー
そうなの?
まあ、確かに初対面はクールだったけど、ものの何日かで素直な表情を見せるようになったから、てっきり素を出してくれたのかな、なんて思ってたけど。
「というかさァ……家柄のイメージ先行しすぎじゃない? どんな家に育てられようと個人でしかないわけだろ。お前らも俺のリスナーなら、そういう偏見で人を見るのやめろよな。本当のあいつは可愛くて素直で優しいんだから」
ーー
『くそ、正論すぎて何も返せない』
『出たよ黒樹のごく稀にしか出ないガチの名言』
『本当の人の性根を一番見てんのは黒樹かもな……』
『それはそう』
『正論は痛い』
ーー
「あっ、くそ。また限定かよ。かれこれ200連引いてんのに出ないんだが?」
ーー
『草』
『真面目な話からの落差』
『200連してモブキャラが出ないのは本当に草』
ーー
「モブじゃないわ。主人公級だろ」
職業がランサーなのもまた良い。
意味深じゃん。
ーー
『どこがw』
『あいつが主人公だったらゲームが色んな意味で終わるわw』
『草』
ーー
☆☆☆
一時間後。
「ふざけんなよ。1000連して出ないだと? 限定キャラは死ぬほど出てんのに」
ーー
『マジ草www』
『ここまで出ないことある?w』
『これが物欲センサーというやつか……』
ーー
「来いよ、てぃんてぃん!!」
ーー
『もう想せぃ児として認識してないじゃんw』
『ど直球に言うなよ。折角濁してたのにw』
ーー
「てぃんてぃんをてぃんてぃんと言って何が悪い。てぃんてぃんだからこそてぃんてぃんでありてぃんてぃんが……あー、もう!! ゲシュタルト崩壊するわ!! いや、待てよ。ゲシュタルト崩壊するほどいっぱいてぃんてぃんがあるということなのでは!?!? 天国!?」
なんか脳が狂ってる気がする。あまりのストレスに思考回路が仕事してない。
ーー
『何言ってんだお前w』
『ついに狂った』
『そろそろてぃんてぃんから離れろよw』
ーー
「安心しろォ……そろそろ俺の下ネタは次のステップに進化する」
ーー
『安心できる要素一つもないのよねw』
『やめろ』
『手遅れになるぞw』
『もう手遅れだろ』
『確かにw』
ーー
「こ、これがラストだ……頼むから来い」
俺は生唾を飲み込み、意を決してガチャを引く。
確定演出も何もない銀が8割を占めている最高の結果だ。
「これは俺にとっての確定演出と言っても過言ではない」
しかし、俺の希望は潰えた。
「くそがぁ!!」
ーー
『なぁ、黒樹。ちょっと調べたんだけど、想せぃ児、男性保護法の要職に就いてる竜胆大学の夜旗薫が『男性を性的搾取するな!!』って猛抗議したせいで消えたんだってよ』
ーー
「は??????」
名前覚えた。絶対許さねぇ。
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