第30話 謎の教団と配信鑑賞
「まじかるおてぃんてぃん教団?」
「そうよ。私の家に一回勧誘が来たんだけど訳が分からなかったわ。男と繋がりを持つための非合法組織みたいだけど、あんたに勘づいてるみたいだし」
シスター・アリアが降臨した翌日の昼、例の変態、神連から電話がかかってきた。
開口一番不穏で草。
というか、俺に勘づくってなんのこっちゃ。
「なんで俺の存在知れ渡ってんの? 個人情報は守ってるはずだが」
「いや、あんたVtuberやってるでしょ。トレンド入ってたから調べたらあんたの声だって一発で分かったし、あんなに目立ってたら狙われるのも無理ないわよ」
「まじか。まあ、今更隠すつもりはないから良いけどな。不特定多数に言い触らす気は勿論ないが」
「あんたのそういう謎の楽観的な考えはどこから出てくるのよ……」
てぃんてぃんから?
それは冗談……でもないけど、楽観的って自分ではそんなに自覚が無い。これでも、情報リテラシーとか色々気をつけてるつもりだ。
「で、その教団は何を目的にしてんの? やっぱり男を襲う感じ?」
「恐らくそうね。詳しいことはまだハッキリ分かっていないけれど、私と会った時みたいに外に出ない方がいいわよ」
「だろうな。もう懲り懲りだ。……ずっと家の中に引き籠もってると健康に悪いんだけどなぁ……」
「そこは室内で運動しなさい」
「一人でするのもあれだなぁ……」
筋トレならまだしも、健康のための運動を一人で黙々とするのは飽きそうだしなんか虚しい。わざわざそのためだけに仲嶺を呼び出すわけにもいかないし。
さすがにプライベートを過度に侵害するのは良くない。……あれ、でもあいつ趣味無いとか言ってたな。やっぱり巻き込むか?
「じゃあ、今流行りの……えぇっと、スクウェアフィットアドベンチャー? あれを配信でやればいいじゃない」
「それだ! 見直したぞ。たまには良いこと言うじゃないか」
「教団の注意喚起は良いことに入ってないのね、そう」
ズーンと沈み込むような声音だったが、この際無視しておく。
それよりも、神連からの提案は渡りに船だった。
スクウェアフィットアドベンチャー。
体を動かしながらゲームをすることができる。リアクションも取りやすいし、体を動かすこともできる。一石二鳥だ。
「……とりあえず気をつけた方が良いわよ。ここだってセキュリティ抜群なわけじゃないんだから」
「はいよ。まあ、お前にそれを心配されるのも面白い話だな」
「その話を持ち出すのは勘弁して欲しいわね」
無理。一生覚えてる。
根には持ってないが、確かにこの世界の重要な出来事として脳内メモリに保存してある。早々忘れられるような事じゃないし。
「ところで、俺の配信はどれくらい見た?」
「全部見たわ。あぁ、あれが素ならこうなるか、って納得した」
「どういう意味だ、コラ」
☆☆☆
ふと気づいたが、この世界に来てから前の世界の推したちの配信を見ていなかった。
自分のことで精一杯だったのもあるが、推しがこの世界
の影響を受けてどう変わっているのか。その変化が少し恐ろしかったという理由もある。
や、だって同じか同じじゃないか、とか次元変わったら水掛け論じゃん。
答え出ないし、あんまりそういうところを見たくないなー、と思ってるうちにもう一ヶ月近く経っている。
「いや、待てよ。こんなに濃い出来事があったのにまだ一ヶ月も経ってねぇのかよ。ラノベあるあるの時飛ばし使いてぇー」
そうして半年が経った。とか使いたいわ。
この調子で過ごして、残りの人生大丈夫か? 俺。
「シスター・アリアの性根は全く変わってなかったし、見てみるか。アーカイブの……と」
検索して調べると、運がいいことに丁度配信をしていた。
「ラッキー」
タイトルは【悲しきあの御方に救済を】となっていた。大抵シスターのタイトルは真逆の意味を持つか、突拍子もないことなので初心者リスナーは注意が必要である。
そんなわけでクリック。
『──ですから、たまたまはお二つなのです』
「なんの話してんだよ、マジで」
最初から聞けばよかった。普通に気になる。
どうやら、今の時間は雑談のようだ。
シスターが雑談とは珍しい。エロ漫画の紹介ばっかやってんのに。
『それにしても、事務所から怒られたのは痛いですねぇ……。コラボはこの際お前だから良いけど、運営側として少し準備させろ、と言われましたし』
ーー
『良いのかよ()』
『あぁ……オワタ』
『やべぇ気体発生する化学反応だろ』
『黒樹と汚点を混ぜたらヤバいって』
『ある意味見逃せねぇわ』
ーー
「コラボするのは良いのか……楽しみだな」
というかなんてタイムリー。
俺が入った瞬間、その話を始めるとは運がいい。
俺なんかがコラボして良いのかは疑問だがな。
汚点だの変態だの言われているが、何だかんだこの世界でも人気のあるVtuberだ。それは数字が証明している。
対して俺は、男だからという理由で最近数字を伸ばしているだけのペーペーVtuber。影響力もスキルも雲泥の差なのだ。
「もっと先へ進化しないと駄目だな。火はいずれ消える。経験値という薪を焚べねば」
その時に、胸を張ってVtuberを名乗ることができる。
……なんて立派なことを言える柄じゃないけど。
『黒樹様なら事務所所属も手堅いでしょうに、このまま個人勢を続けるのでしょうか。いっそのことさんじかいに入っていただければコラボがしやすくなるのですが』
「いや、あんな大手無理だろ」
ーー
『汚点が増えるだけだろ()』
『運営の胃が死ぬからやめてもろて』
『人気と注目の代わりに尊厳が消えるぞw』
黒樹ハル『自由に破茶滅茶やりたいから個人で』
『所属できてもすぐクビになる未来が見えるwww』
『え、黒樹!?』
『本物おるやんけ』
ーー
思わずコメントしてしまった。
すると、シスターは3D越しでも分かるほどの満面の笑みで体を揺らした。
『あら! いらしてくれたのですね! 自由に破茶滅茶……そうですね、さんじかいはともかく、他の事務所は制限が厳しいですから……。悲しい限りです。もっと自由に輪を広げられれば楽しくなりますよね』
ーー
黒樹ハル『それな』
『駄目だろw』
『他企業コラボは色んな意味で炎上リスクがあるからなぁw』
『ほら、肯定しちゃったよ』
『逆に黒樹をこのまま個人勢のままのさばらせた方が危険なのでは??』
『確かにw』
ーー
『ですよね。あ、コラボの件なのですが、私は本気なので是非ともご一考のほどよろしくお願いします♪』
ーー
黒樹ハル『一考どころか即答でオッケー』
『日本終わったな』
『下ネタカーニバルの開催か』
ーー
下ネタカーニバル? なにそれ天国じゃん。
俺としても本気でコラボはしたかったから、シスター側がそれを明言してくれたのは有り難い話で、嬉しかった。
推しとして画面越しで眺めているだけの存在だったシスターと、まさかコラボができる時が来るなんて。
実に楽しみである。
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