第29話 オープンワールドゲーム配信 #闖入者
「本屋に行くとトイレしたくなる謎の現象あるよな。はい、どうも黒樹ハルでーす。元気してたか下僕ども」
ーー
『あの現象、確か名前ついてたはず……』
『バチバチに人物名に即した名称だったw』
『あれ本当になんなんw』
ーー
「んね。今日はオープンワールドゲームをやってくぞ。なんの目的もなくキャラを好き勝手動かせるゲームだな。アメリカで大人気らしいし通販で買ってみた」
前の世界にもそういうゲームは幾つか存在した。目的意識が強い人は好みじゃないが、自由にボーとプレイするにはちょうどいい。
雑談もしやすいから実に配信向きのゲームだと言える。
「はい、どん。Glory・Thief・Self。略してGTSでーす」
配信画面とゲームを接続させる。
タイトルと、屈強な女たちが表示された。前の世界だと屈強な男だったのだが、物の見事にそこは逆転している。
ーー
『おー!結構好き』
『特に女性向けなのによくやるなw』
『黒樹に性別とかないから、ほら、黒樹だし』
ーー
「俺を固有名詞化すんな。男だよ、立派な」
黒樹は黒樹って、良い言葉に聞こえて普通に馬鹿にしている。サラッとパワーワード生みだすのやめてほしい。配信者としての立つ瀬が無くなる。
「一応プレイはしたことあるからサクサク行くどー。やったことねぇ、分からねぇ、って下僕はフィリーリングで見てってくれ」
ーー
『適当かよ』
『フィーリングて』
『まあ、見てるだけなら理解の範疇だろうし大丈夫でしょ』
ーー
というわけで、スタート。
スタート位置は何もない荒野だった。
「嘘だろ。街スタートじゃねぇのかよ。何もないじゃん。空虚。下ネタを知る前の俺の心みたいだ」
ーー
『どうしてそういう例えをするんだwww』
『てぃんてぃんを知る前、僕は荒んだ荒地のような心持ちだった……www』
『草w』
ーー
「てぃんてぃんは種子。てぃんてぃんは水。そして花咲くはてぃんてぃん」
ーー
『オールてぃんてぃんじゃねぇか』
『一回マジで脳外科医行ってくれん?』
『役割担いすぎだろw』
ーー
「とりあえず先に進んでみるか。にしても本当に何もない」
こういうゲームって、少し進んだら街とありそうだけど、何分フィールドが広すぎてそんな配慮はなされていない。
「初期装備は拳銃だけか。満腹値とか無いからまだ良いな。サバイバルゲームじゃないはずなんだけど」
ーー
『絶対荒野のど真ん中に飛ばされたなwww』
『運がない』
『リセすりゃ良いのに』
ーー
「馬鹿! 人生にリセットは無いんだぜ」
ーー
『こいつ……!すでにゲーム内の主人公に自分を投影してやがる……!』
『深読みだろwww』
『ただの事実なんだけど、黒樹なら何周かしてそう』
ーー
最後のコメントにちょっとヒヤッとした。
転生とかそんな出来事は無いのだけれど、もしかしたらあの時酔って頭をぶつけて死んでいた可能性も無くはない。
転移なのか転生なのか。定かではないからこそ、こういうコメントを見ると過敏に反応してしまう。
「……ハッ、二週目ならもっと上手いことやってるわ。てぃんてぃんの布教速度は実際遅いからな」
ーー
『そこを上手くやらんでもええのよ』
『もっと別の事あるだろw』
ーー
「無い。……いや、性癖の布教をまだしていないな。下僕たちが理解できるか分からないから保留にしてるんだけどなぁ……。然るべき時にやりたい」
そこの性差は大きい。
少しでも理解してもらわないと、ただ自分語りしてる変態に成り下がる。それは如何としたことだ。
ーー
『どんな闇が飛び出すか戦々恐々しとるわ』
『然るべき時とは()』
『黒樹の性癖はブラックボックスw』
『こわっw』
ーー
なんだ、楽しみにしてんのか。
理解してきたわ。下僕たちのツンデレ具合。
「お、街が見えてきた。てか、荒野からいきなり街って、落差すごくない? なんでそこに街建てた? どこから水とか補給してんだよ」
ーー
『ゲームにそこまでのリアルを求めるなw』
『謎ではあるけど』
ーー
「いやー、どうもリアリティに寄ってるゲームだとこういう細かいところが気になっちゃうんだよな。さて、街に入るか」
三人称視点で操作しているから、マイキャラの屈強さが分かる。
このゲームは色んな団体に配慮した結果、男がいないらしい。でも、見てる限りゴリゴリマッチョの男って雰囲気だし……あからさまにルールの隙間突いてるだろ。
「ま、ず、は〜♪ 車を奪って、と」
止まっていた車から人を引きずり出し、強引に奪う。
相手から英語で罵声を浴びせられたが、拳銃の持ち手で一回ぶん殴ることで黙らせる。
うーん、なんて鮮やかでスマート。
ーー
『初手犯罪で草』
『普通にひでぇw』
『まずは、じゃねぇよ』
『黒樹にもともな手段とか言っても無駄だよな、そうだよな……』
『思いっきりぶん殴ったぞw』
『これ以上罪を重ねるんじゃない!』
ーー
「もう殴っちまったんだよ……俺はァ! 止まらねぇぞ! ひゃっはぁぁぁ!! 行くぞ、てぃんてぃん号!」
ーー
『ひっでぇ名前www』
『止まれw』
『リアルにいたら絶対目が逝っちゃってるだろ』
ーー
「かわすかわすかわす!! 警察から逃げる! 国家権力バイバイ!!」
逆走しながら向かってくる車を避ける。
次第に聞こえた特徴的なサイレンから遠ざかるように爆走した。
ーー
『見た限り6人くらい轢いてたな』
『意外に上手い!w』
『めちゃくちゃ煽ってるやん』
『ハンドル握ると性格変わるタイプかな?』
ーー
「失敬な。轢いたんじゃなくて犠牲になっただけだ。お前らのことは忘れない……あ、そもそも容姿思い出せねぇわ。ハハハ!!」
ーー
『クズだw』
『ハイになってるしw』
『轢いたも犠牲も同じだろうよw』
ーー
「ふぅ、なんとか警察から逃げ切れたな。つか、この街でかい」
あんなに走り回ったのに、再び荒野に出戻ることはなかった。
「よし。無事故」
ーー
『嘘つけ』
『なかったことにするなwww』
『速攻で忘れてて草』
『逃げるなーー!!責任から逃げるなぁー!!』
ーー
「騒ぐなよお前ら。てぃんてぃんでも思い浮かべて気分を落ち着かせろ」
すぅーーー……よし、落ち着いた。
ーー
『おけ、冷静になった』
『どこまで行ったっけ?』
『世界はこんなにも美しい……』
『冷静通り越して賢者で草』
『てぃんてぃんには鎮静効果があったのか(白目)』
ーー
「だから万病に効くって言ったろ? 暴動と化した人間に会っても、てぃんてぃん見せれば一発よ」
ーー
『却って暴動起こるだろ』
『逆効果で草』
ーー
あれぇー?
そこは肯定するところだろ。
「まあいい。これからどうしようか。それなりに動いたしちょっと雑談に集中するか」
と、コメント欄を見た時に、思わず全力で噴いてしまった。
ーー
シスター・アリア『あら、それなら私と少しお話しませんか?』
ーー
「ぶふっ!! は? え、は? シスター・アリア? 本物?」
ーー
『おい、嘘だろ』
『場がカオスになるって』
『絶対合わせちゃいけない奴らだろ……!!』
『信徒たちは何やってんだ!!!』
シスター・アリア『まあ、私のことをご存知でしたか。ありがとうございます』
『すまねぇ、止められなかった……』
ーー
まじか……本物だ。
俺はある種動揺と歓喜に包まれていた。
シスター・アリアと言えば、前の世界でも活動していた大人気Vtuberだ。
さんじかい、と呼ばれる超大手事務所に所属し、女性でありながら大のエロ漫画好きというインパクトある趣味の上、歯に衣着せぬ下ネタが特に男性から人気を博した。
修道服を身に纏った銀髪長髪巨乳アバターだったはずだ。アイコンを見る限りそれも前の世界とは変わっていない。
登録者数が300万人を超える超大物だが、この世界での登録者数は……245万人か。凄まじい。
あまり普及していないVtuber文化の中で、ここまでの登録者を集めるのは至難の業だ。
ちなみに俺はファンである。
「知ってるというか大ファン。まさかこんな木っ端Vtuberの配信に来て頂けるとは」
ーー
『お前が木っ端だったら何だよ』
『ファン?あー、だろうね(諦め)』
『だから混ぜちゃいけないんだ……!!』
シスター・アリア『とても嬉しいです。私もアーカイブを見て黒樹様のファンになりました。素晴らしい信条を抱えていらっしゃるようで』
『くそ、間に合わなかったか』
ーー
「マジで!? 嬉しすぎるんだけど。やべぇ、てぃんてぃんがまろびでそう」
ーー
『なぜw』
『まろびでるな』
『意気投合すんな。収集つかなくなるだろ』
シスター・アリア『私からご質問があります。もしよろしければ、ヌキヌキされているエロ漫画のタイトルをご教授願いたいのですが……』
『ひっでぇ』
ーー
おっと、いつも通り。
前の世界と変わらないようだな。この世界では5回くらいしかBANされてないみたいだけど。
前の世界では30回BANされてた。伝説だよ、ありゃ。
それにしてもオカズか。
実はな〜……
「女性向けしかないから途中で見るのやめた。なんか、しっくり来なくてなぁ……」
それに、昔から性欲コントロールは得意だ。月3回の精子提供以外は下ネタを言うことで発散してる。
これぞ昇華よ。
ーー
『おっと切実』
『男性にも一応性欲あるもんな……黒樹は人並み以上ありそうだけど』
『なんでだろう。男性の性事情なのに全く興奮しない』
『黒樹だからだろ』
『納得すぎてw』
シスター・アリア『それは残念です……。あ、事務所から何勝手な行動してるんだ、と怒られました……。もっとお話をs』
『切れたw』
『また説教コースかよ』
ーー
「嵐みたいだったな。いつかコラボしてみたいなぁ」
ーー
『やめろ』
『ぜったいやめろ』
『ツッコミ役いないと絶対収集つかない』
『やめろ』
『カオスになるからやめろ』
ーー
えー、なんで反対するんだよ。
ちょっと秘密裏に進めてみるか。
本当にコラボしたいし。
「じゃあ、続きをやってくぞー──」
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