第20話 初コラボ配信(言わせたい) #コロンがポロン
あの後、配信準備のためにコロンには帰ってもらった。
オフコラボは誤解を招く上に、仲嶺がいるといつも通りの配信ができなくなる可能性があるからな。
いつも通りの配信をする気は無いが。
すでに告知は各々済ませてあるし、後は時間を待つのみ。男性関連の話題だけあって、コロン側の告知のイイネは6万を超えている。
俺の登録者もこの間から増えに増えて4万人を突破していたし、宣伝効果は高いだろう。
……本当に何で増えてんだろ。
「もうすぐだな。歴史を変える日は近い。そこまで自惚れちゃあいないが」
豆腐メンタルの俺だ。
感じる緊張は凄まじい。しかし口は動く。自分のすべきことさえ把握していれば後はどうとでもなる。本番に強い(自称)からな!
「さて、始めようか」
☆☆☆
「なんでこんなことになったんスかね。まあ、自業自得ッスけど」
黒樹さんのご自宅から戻ってきた私は、自室のベッドに腰掛けながらため息を吐いた。後悔……ではなく、単に自分の馬鹿さ加減に自嘲しているのだ。
視野が狭い。物事を多角的に見るべく私が、それを誤った結果がこれだ。
「でも。腕が鳴るッスよね。今回ばかりは」
これでも自分の信頼は相当だと思う。
多数ネットニュースに挙げられている私の暴露動画は、裏取りの証拠とともに一面を飾っている。
報道界隈の信頼も厚い。だからこそ、この真実が真実であると信じてもらえる。
その時、いったい世界はどんな変革を遂げるのか。
────ゾクゾクする。
自分が世界を変える一助を担っているのだと、私は私で証明してみせる。
始まる。
ここから世界は始まる。
「さあ、始めるッス」
☆☆☆
「みなさんこんコロン!! 知らない情報をお届けする、バーチャルyoitubeのコロンッス!」
狐耳を生やした金髪巨乳美少女のアバターが映し出される。
コロンのVtuberとしての姿だ。
ーー
『こんコロン〜』
『楽しみにしてた〜』
『黒樹の野郎はまだか』
『あの馬鹿はよ』
『黒樹ハルって誰』
『自称男のVtuber』
『なる』
ーー
コメントの勢いが桁違いだ。
同接はすでに3万人を越し、追いきれないほどのコメントが画面を埋め尽くした。
ちらほらと下僕どもの姿が見受けられ、何となく安心してしまう俺がいる。くそ、あいつらに絆されるなんて……!
「今日はッスね〜、とある方に来てもらったッス。なんと、個人勢にしてチャンネル登録者数4万を超える、今最も勢いのあるVtuberの黒樹ハルさんッス〜!」
説明が重いわ。
パッ、と俺のアバターも映し出される。
覚悟決めるか。
「はい、どうもこんにちは。世界初の男性Vtuberの黒樹ハルです。はじめましての方もいると思うけど、よろしくね!」
ーー
『誰だ貴様』
『ワイらの知ってる黒樹ハルじゃない』
『おー、イケボ!』
『返せ』
『本当に男っぽいじゃん』
『すご』
『いつもの言葉はどうした、いつものは!』
ーー
ふっ、久しぶりの清楚モードはお嫌いかい?
コロンリスナーが多い中、俺がいの一番に存在感を発揮するわけにもいかねぇだろ。……というのは建前だけど。
「えー、今回はッスね。黒樹さん男性説の結果発表のためにお越し頂いたッス。そこで重大な事実が分かったッスから、今回は動画ではなく配信という形式にしたッスね」
ーー
『マジか』
『絶対嘘でしたで終わるだろwww』
『重大な事実って、有名人だったとか?』
『あり得る』
『あの黒樹ハルに重大な事実……?新たな下ネタ製造か?』
ーー
「下ネタ……? ちょっと何言ってるか分からないなぁ。コロンさん、そういう嫌いみたいだから僕のリスナーはそういうの控えてね」
「あ、別に大丈夫ッスよ。自分の配信の時は出さないッスけど、コラボはコラボ相手の気風に任せてるッスから」
なるほどね。臨機応変は利くのか。
だいぶ嫌ってる様子だけど、そこを我慢できるとなるとプロ根性意識が強い。
ーー
『やべぇ、くそ腹立つ』
『いい奴やん、黒樹ハル』
『自称男性はやべぇ奴かと思ったけど案外優しいw』
『本性出せ』
ーー
本性……?
「では、まあ、早速発表……といきたいところッスけど、いきなり事実だけを発表してもつらまないッスから、軽い会話を挟みながら進めていくッスよ〜。リスナーを焦らせるッス」
「はーい、頑張りまーす」
ーー
『暴露系とは思えないほのぼの』
『コロンにしては珍しい』
『普通のコラボじゃん、それw』
『新たな形式』
ーー
これは俺から望んだことだ。
熱というのは上がりやすく下がりやすい。
最初に熱しても効果的とは言えないだろうから、徐々にボルテージを上げていくことにした。
「黒樹さんは、どうしてVtuberをやろうと思ったんスか?」
「そうですね〜。まあ、ずっと家の中に籠もるのも暇で、時間の無駄遣いだなぁ、と思ったのが最初ですね。それから、Vtuberというコンテンツを知って、これなら顔を出さずに皆さんと楽しくお話できるかな、と思い志しました」
ーー
『へぇ〜、思い立ったが吉日みたいな感じなのか』
『よくぞVtuberを選んだ!!』
『嘘臭いな、絶対あれを話すためだろ』
『皮を被るな』
ーー
誰が包茎じゃごらぁ!!
あ、そういうことじゃない。はい。
「なるほど。黒樹さんは普段どんな配信をしてるんスか?」
「僕はゲーム配信が主ですね。リスナーの皆さんと楽しくお話しながら平和に配信してます」
ーー
『嘘つけ』
『へぇ、面白そうだなぁ』
『なかなか性格良き?』
『どこが平和www』
ーー
「素晴らしいッス。やっぱり平和が一番ッスよね。私も楽しく配信してるッスよ〜。ついてきてくれるリスナーには感謝しかないッスよ」
俺も色々感謝してるよ。色々ね。
ーー
『ワイも感謝してるぞおお!!』
『いつも楽しい配信ありがとおおお!!』
『コロン好きだぁぁ!!』
ーー
「愛されてますね。僕のリスナーは照れ屋さんなので、普段こういった率直な感想は言ってくれないんですよ。気持ちは十分に伝わってるから良いんですけどね」
「あぁ、通りで黒樹さんのリスナーと思わしき方が、色々言ってるんスね。あれはツンデレということで良いッスか?」
「はい」
ーー
『はい、じゃねぇよ誰がツンデレだ貴様』
『ツンしかないがwww』
『本当にツンデレじゃん』
『素直になれよ、黒樹リスナー』
『こいつ……良いように場の空気を使いやがった』
ーー
お前らがツンデレなのは本当のことだろ。照れるなよ。
「では、黒樹さんの格言、というか大事にしている言葉はあるッスか?」
ーー
『あれだろ』
『言葉って時点でアレしかねぇ』
『黒樹リスナーは知ってる感じか』
『察したw』
ーー
「そうですね……。心の中にそびえ立つ一本の芯を大事にする、ということですね」
ーー
『言ったw』
『隠すなw』
『誤魔化しやがったwww』
『安心した。いつもの黒樹ハルだ』
『どゆこと?』
『曖昧で草』
ーー
俺のリスナーからは納得という雰囲気を。コロンリスナーからは、予想通り困惑一色だった。
その場を察してコロンが聞いてくる。
「それはいったいどういうことッスか?」
「はい、自分の譲れない部分。まあ、アイデンティティというものを大事に心の中に持っておくということですね。それが折れることがないように、大きくでっかく想像しておくんです」
ーー
『大きく、でっかく(真顔)』
『匂わせんじゃねぇよw』
『なるほどなぁ〜、立派だ』
『分かる。自分の大切にしたい部分って守って育てるべきだよね』
『良いこと言うやん!!』
『こいつw』
ーー
「私もそれは持ってるッス。自分でも無意識ッスから、自覚してそびえ立つ一本の芯を形作ることが大切なんスね」
「そうです。誰もが持っているからこそ気づかない。当たり前を疑うことから始めると、正しい自分が見つかるかもしれませんね」
「いやぁ〜、良いこと聴いたッスね〜」
「いえいえ。生意気ですみません」
「「HAHAHA」」
茶番すぎて笑いがこみ上げてきた。
全く会話の内容について話していないのに、不思議と心が繋がる感触がした。これがコラボか。一人でやるのとまた違う。
ソロプレイは自己満足に終わりやすいからな。
ーー
『いいふんいき』
『なんか会話の目的忘れそう』
『もうこのままでええよ』
『なんだこいつ』
『黒樹よォ……』
ーー
さて、そろそろかますか。
「では、コロンさん。そろそろ」
「……っ、もう、ッスか」
これが合図だ。
あからさまにコロンの声音が固まった。さすがに抵抗があるのか、少しだけ沈黙が広がる。
ーー
『お、どうしたんか?』
『本題に入る系?』
『まだ続けても良かったのに』
『きっと黒樹リスナーはどことなく嫌な予感を感じてる希ガス』
『解釈一致』
ーー
「コロンさん」
「分かってるッス。……すううううぅぅぅぅ」
コロンは大きく息を吸って────
────言葉とともに吐く。
「てぃ、てぃんてぃん!!!!!!」
「言葉に詰まったからもう一回」
「い、嫌ッスううぅぅぅ!!!」
ーー
『だよな、知ってた』
『何となく察してた』
『さーて、やっと黒樹ハルの配信が見れる』
『??????』
『え、下ネタ?あのコロンが????』
『ふぁ!!??』
『ど、どうした!?!?』
ーー
けっへっへっへ、地獄のカーニバルの始まりだぜ!(ゲス顔)
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