第21話 何度だって良いじゃない。だって好きだもの #てぃんてぃん

「鬼ッスか!? 一回で良いって言ったじゃないスか!」


「一回で良いとは言ったが一回で良いとは言ってない」


「!?!?!?」


ーー

『いや、草ァ』

『地獄の始まりか……』

『え、まじどゆこと!?』

『分からん……』

ーー


「はい、もう一回」


「くっ……てぃ……んてぃん!」


「間が空いたからもう一回」


「てぃんてぃん!!」


「ナイスてぃんてぃん!! よーし! 来ました!! 優勝です!! いやぁ、良い記録ですねぇ。淀みのない素晴らしいてぃんてぃんコールでした」


 決まりましたわ。

 恥も外聞も捨てちまえ。残るのは自分の素だ。

 それはそうとして、人に言わせるのもなかなか……こう、クるものがありますねぇ……。


ーー

『ナイスじゃねぇよ』

『バッドだよ、同接7万人の前でよく言えるなw』

『世界よ見たか。これが黒樹ハルだ』

『もうボクワカラナイ』

『てぃん……てぃん??(大困惑)』

ーー


 完全に俺のリスナーとコロンのリスナーで二分化されている。下僕どもはこんなことで狼狽えるほど柔じゃないからな。てか、同接7万ってマ? ここまで来たならどうにでもなるが。


「はぁはぁ…………ふぅ。落ち着いたッス。自分はもう無敵ッスよ。何も恐れることはないッス」


「だろうな。すごい面白かったもん」


「黒樹さんが言わせたんじゃないスか……っ!!」


 罰なんだから良いじゃーん。むしろこの世界基準で考えるなら優しい方だと思うけど。


「というか罰じゃなくてご褒美では?」


「それはあんただけッス!!」


ーー

『お前と一緒にすんな』 

『罰超えて虐待w』 

『ナイスツッコミwww』

『清楚……どこ』

『キャラが180°変わってるんだが』

ーー


「まあ、そろそろ答え合わせと参りますか。頼むぞコロン」


「はいッス……。えー、リスナーの皆さんを困惑させてしまったことについては申し訳ないッスけど、これはあくまで不可抗力ッスから」


ーー

『でしょうねwww』

『巻き込まれたんだろw』

『巻き込まれても言う?w』

『黒樹ハルって奴に言わされたってこと?』

『くそヤバい奴じゃん、やっぱり』

ーー


 何をぅ。

 俺みたいな素晴らしい聖人君子のようで清廉潔白な人間はいないぞ。漂白剤を超える白さだぜ。


 コメント欄を見ながらほくそ笑んでいると、微かに覚悟を決めたような吐息がコロン側から聞こえてくる。

 ついにその瞬間がやってきたようだ。

 




「結論から言うッス。黒樹さんは本物の男でしたッス」





ーー

『は?』

『嘘だろ』

『いやいやいやいやいや、ないって』

『今なら冗談で間に合う』

『嘘乙www』

『さすがに無いけど……コロンが暴露系で嘘ついたことないしなぁ……』

『え、まじなん?』

『あり得ない。黒樹ハルだけは万が一にもあり得ない。下ネタ製造マシンガンが男だなんて……』

『本当だったら滾る』

『証拠をください!!!』

ーー


 コメント欄が追いきれない。

 凄まじい勢いで流れるコメントのほとんどは懐疑的だが、コロンを信じるリスナーもちらほら見受けられる。一笑に付されないことが、コロンの信頼性を表している。


「いえーい、男でぇぇす」


ーー

『一回貴様は黙れ』

『黙れ犯すぞ』

『いきなり欲望出すなよw』

『有り得んて』

『軽っw』

ーー


「証拠ッスね。もちろんあるッスよ。まずはこれッス」


 配信画面に一枚の写真が映し出される。

 顔を隠した俺の写真だ。そこまでVtuberとしての設定を遵守する必要のない俺だからこそできる荒業である。


 もちろん、住んでいる場所のヒントを与えぬように背景には気をつけた。

 フェイクじゃないと証明するため、持ったスマホには俺のTnitterのプロフが表示されている。


「解析班自由にするッス。多分ここにもいるッスよね? 編集の形跡も無いッスから確実な証拠の一つッス」


ーー

『実写マジ?』

『え、ガチ男やん。喉仏あるし骨格がもろ』

『コラ画像だろwww』

『いや、さすがに……でも、えぇ……?』

『解析班待ちか。にしてもガチっぽい』

ーー


「てぃんてぃん見せたらBANされるからごめんな」


ーー

『当たり前だわ』

『今真面目な話してるから黙ってくんね?』

『こんな下ネタフリーダムが男なの……?』

『黙れ』

ーー


 俺に対する扱い酷すぎぃ!

 え、てか当事者なんですが。なのに黙れってどういうことなんでしょうねぇ。


「まあ、これだけじゃ証拠は弱いッスからね。解析班待ちッス。あと、黒樹さんは一回黙ってほしいッス」


「あ? 言わせるぞ」


「すみませんもう勘弁してください」


 よし(ドヤ顔)


ーー

『ひでぇwww』

『コロンのッスが抜けるくらいトラウマ化してるやんけ』

『まだ許容できる下ネタで安心してるけど草』

『草ッス』

ーー


「き、気を取り直して次ッス。まさか後で調べてこんなにビビるとは思ってなかったッス。名字を聞いて、ん? とは思ったんスけどね……これを見てほしいッス」


 画面に現れたのは、まさかの仲嶺と俺のツーショットである。

 もちろん許可済み。というか若干喜んでた。


「うちの保護官の仲嶺詩緒里。俺は全く知らなかったんだけど、何やら有名人らしい」


「個人的にはそれを知らなかったことが一番驚きッスよ」


 まさか男だと証明できる最大の証拠が仲嶺だとは思ってもいなかった。俺的には一般人扱いしていたのだけれど、どうやら世間的にはそうでもないようで。


ーー

『え、仲嶺ってあの仲嶺家!?!?』

『データベースに登録されてる……本物じゃん』

『江戸時代から続く名家……』

『仲嶺家が護衛してるって、おま、どういうことなん』

『リアルジャパニーズNINJAさんじゃないすか』

ーー


 なにやら仲嶺は相当有名な家出身らしく、顔は知られてなくともその名前の威信は広く行き届いているそう。

 そんな有名な人がなんで俺の保護官なのか謎だったが、三女だったから適当な男性に配置されたらしい。納得。どうも適当な人です。


「めちゃくちゃ強かったもんなあ……。無双してた」


「これは間違いなく本当のことッス。というわけで、黒樹さんは本物の男ッス」



ーー

『やっば』

『ハル様〜!!』

『え、こいつが男性でも扱い変えたくねぇわ』

『それな』

『で?』

『証明されて、嘘じゃないってわかったけど、結局は黒樹ハルという個人の存在に回帰するwww』

ーー


 コロンリスナーはともかく、下僕どもは俺が男だと分かっても大した反響は無い。それどころか変わらず俺を馬鹿にしている。


「てめぇらよぉ……散々疑ってきたことに謝罪はないのか、謝罪は」


ーー

『ねぇよ』 

『黙れてぃんてぃん』

ーー


「愛されてるッスね」


「馬鹿にされてるに決まってんだろ、節穴か」


「意趣返しッス」


「なるほど、やめろ」


 ケラケラとコロンは笑う。

 まあー、変に変わられても困るし気持ち悪いからな。下僕は下僕のままか。


「ちなみに最初のてぃんてぃんコールは、疑ってかかったコロンへの罰ゲームな。わりとコロンの自業自得だから俺は悪くない。俺は悪くないんだ……!!」


「その通りッスけど鬼畜ッスよね。3回も言わせるのは酷いッス」


「一回言ったら何回でも一緒なんだよ。ほら、初めてカラオケに行く時って緊張するじゃん? でも、歌ったら慣れて楽しくなるだろ? あれと同じなんだよ、てぃんてぃんは。むしろ中毒性があるからカラオケよりも上」


「その出来事と同類に扱うのは私的に許せないッス」


ーー

『暴論すぎてwww』

『慣れねぇ人は慣れねぇよw』

『分かる例えと分からない言葉を持ち出すな』

『なんだこいつw』

ーー


「でも、コロンだって最後は言い切っただろ? そもそも下ネタが嫌いな理由ってなんだよ」

 

「私はあれッスよ。あれ。…………はしたない女だって男性に思われたくないじゃないッスか」


「もう無理で草」


「手遅れにしたのはあんたじゃないッスかあああぁぁぁぁ!!!!! うわぁぁぁ!! もうダメっす、リカバリー不可ッス。絶対切り抜かれて『コロン、まさかの下ネタ発言!』って取り上げられるんスよぉ……」


 随分具体的じゃん。有り得そうだけど。

 コロンの死にそうな声に、俺は笑いをなんとか堪える。


「大丈夫だって。俺ははしたないなんて思わないから」


「はしたない存在は黙ってほしいッス」


ーー

『www』

『は し た な い 存 在』

『ひでぇ扱いw』

『男への扱いとは思わねぇ』

『やべぇ、なんでだろ。まったく興奮しないw』

ーー


 しろよ、興奮。

 みんな男性に理想を求めすぎなんだよな。この世界の男性がどうかは直接見てないから分からないけど、どうも高圧的で傲慢らしいし理想を追い求めて砕け散るのは目に見えている。


「はしたないだと……? てぃんてぃん! そんなわけあるかよ!」


「前後の文脈を把握してほしいッス」


ーー

『言うなw』

『出てる出てるw』

ーー 


「でも、俺はようやくこれでもっとパワーアップできるということだな」


「どういうことッスか?」


 前から考えていたことだ。

 俺がボキャ貧に陥っていた理由はてぃんてぃんが好きだからというわけではない。


 九割は好きだから、なんだけど。


「これまでは男(?)だったわけだろ? その状態で俺が『性癖』を語れば違和感があるわけだ。だけど、男と分かった今、俺がどんな女性が好みなのか、という話をしても受け入れられるじゃん」


「なるほど。よく、分かんないッス」


ーー

『性癖てw』

『お前まだ進化するつもりかw』

『微妙に言いたいことは分かる』

『つまり、下ネタは世界を救うってことで良き?』

ーー


「そう。下ネタは世界を救うんだよ。お前らの理想幻想。全部俺が叩き割ってやるよ」


ーー

『傍迷惑www』

『無理だろw』

『お前、男のデフォルト知らねぇんだから幻想もくそもないだろうよw』

ーー


 言えてる。

 でも、俺はこの世界を変えたい。歪で欲望溢れるこの世界を変えたいと思っている。

 同じ男なら会うことは不可能ではないはず。


 身近な意識改革から始めることもできるかもしれない。


 だからこそ、ここからが始まりなのだ。




「まあ、どんなことになろうと、変わらずに配信するだけなんだがな」



 





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1章終了です!!

本編ですが、閑話扱いとして掲示版とその他の反応を何話か投稿します。


1章が終わったので、もし面白いと思っていただけたならば、☆☆☆評価とフォロー。応援コメントとレビュー待ってます!!




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