第18話 自作物語朗読配信(てぃん子) #童話(大嘘)
コロンと会う日取りが決まった。
明日です。何事も早くが肝心、と言いたいところだけど、ただ意外に住んでる地域が近かったというだけ。
もちろん、俺が外に出た場合、仲嶺による無双が始まるから俺の家に呼んだ。こう……なんか前の世界からだと考えられないな。女性を家に呼ぶということが。
「度胸良し、器量良し、か。結構会うのが楽しみになってきた」
ここまでやるのか、という純粋な驚きもあるが何が何でも目的を叶えようとする執念は敬意に値する。
あの後、コロンの配信を見てみたが、本当に下ネタが嫌いなようだった。毛嫌いしていると言っても良い。
そんな奴が自分のポリシーを曲げてまで立証に図ることがどれだけすごいか。
「うーん、面白い。とりあえず今日の配信を終えてからだな」
そんなわけで、今日も今日とて配信をするとしようか。
☆☆☆
「はい、どうも。学校にテロリストが入ってくる妄想をしていた下僕どもよ。俺だ。黒樹ハルだ」
ーー
『ぐわぁぁぁ!!!!』
『傷口が、傷口がぁぁぁ!!!』
『黒歴史抉るなぁぁ!!』
ーー
草。
クリティカルヒットしてるじゃん。
「そんな黒歴史を抱えている愚かな下僕どもよ。安心しろ。今日の配信で、俺はまだまともだったんだ、と思わせてやろう」
ーー
『愚かはお前じゃ』
『開幕早々傷口を抉りやがって』
『なにするんや』
『嫌な予感』
ーー
「ふっ、俺は今日の配信の準備のために徹夜した。9時間しか寝てない」
ーー
『健康体で草』
『徹夜舐めとんのか』
『本当の社畜にそれ言うとか喧嘩売ってんの?』
ーー
「頑張って社会回してもろて。俺は寝る」
ーー
『寝るなw』
『容赦ないw』
『社畜ネキは休んでもろて』
ーー
就職する前にこの世界に飛んだから、今一就活の苦しみと仕事の辛さがわからないという社会を舐め腐っているのが俺だ。どのみち配信くらいしか出来ないし、これはこれで良いんだけどな。
「今日はな。俺が自作した物語を朗読していこうと思う」
ーー
『察した』
『閃いた』
『てぃんてぃんだろ』
『定期』
ーー
「てぃんてぃんが出てくるのは常識だろ? 何を言ってるんだ」
ーー
『何を言ってるんだ(迫真)』
『そのままそっくり返したいw』
『だからどこの常識だよw』
ーー
「まあ、とにかく徹夜で考えた物語を読んでいこうということだ」
ーー
『まあ、期待しておく』
『うん、まあ……』
ーー
なんだよその微妙な反応は。
「いくどー!」
画面に2秒で描いた絵を表示させる。
【てぃん子】
ーー
『最早察した』
『予想通りすぎて草』
ーー
【むかし、むかし、あるところに。おじいさんとおばあさんがいました】
【おじいさんは、山へてぃんてぃんに。おばあさんは、川へてぃんてぃんしに行きました】
ーー
『てぃんてぃんが固有名詞化してるw』
『てか、役割普通逆のやつだろw』
ーー
あ、そうか。こっちでは芝刈りに行くのはおばあさんなのか。違和感しかねぇ。
【ある日、おばあさんがてぃんてぃんをしていた時、川の上流からてぃんぷらこ、てぃんぷらこ、とでっかいてぃんてぃんが流れてきました】
ーー
『て ぃ ん ぷ ら こ』
『www』
『てぃんてぃん流れんなやwww』
ーー
【おばあさんは一、二もなく川へダイブし、オリンピック選手並みのクロールで泳ぎ、でっかいてぃんてぃんをその手に掴み取りました。その時ばかりは腰の痛みを忘れていたそうです】
ーー
『何やっとんw』
『労れよwww』
ーー
【おばあさんは獲得したてぃんてぃんを手に悩みました。おじいさんもてぃんてぃんが大好きです。このままでは自分の分の取り分が少なくなると考えたのです。そこでおばあさんは、てぃんてぃんを真っ二つにすることにしました】
ーー
『なんでwww』
『それはおかしい。おかしいよな(真顔)』
『おじいさんもてぃんてぃん好きなのかよw』
『登場人物、全員黒樹ハルだろw』
ーー
それは言えてる。
【一つのモノを二つにする。それは革新的な考えでしたが、そこで誤算が起きました。いざ、家に持ち寄り包丁を手にした時、てぃんてぃんが大きく震え始めたのです。そして、切るまでもなくてぃんてぃんが真っ二つになり、中から赤子が出てきたのです。奇しくも赤子の最初の言葉は「てぃんてぃん……しゅきぃ」だったそうです】
ーー
『やめろw』
『謎でしかない』
『てぃんてぃん……しゅきぃ……じゃねぇんだよwww』
『赤ちゃんがそんなハッキリ喋るか!!w』
ーー
【その言葉を聞いたおばあさんはハッ、としました。きっとこの子はてぃんてぃんの化身に違いない、と。思わずそれを口に出した時、いつの間にか帰ってきたおじいさんが「この子を育てよう」と言いました。おばあさんは「は?あたしが持って帰ってきたんだから、それを決める権利はあたしにあるんだけど、何勘違いしてんの、きっしょ」と言いました】
ーー
『ひでぇwww』
『おばあさん、言葉若すぎだろw』
『今じゃ考えられんw』
ーー
【おじいさんは無言で脱ぎました】
ーー
『なんでw』
『どうしてwww』
ーー
【おばあさんは、おじいさんのふるふるてぃんてぃんを見て溜飲を下げたようで「一緒に育てましょうか」と言いました】
ーー
『なんこれw』
『てぃんてぃんを見て溜飲を下げるのかw』
ーー
え、誰だってそうなるだろ。
【それから赤子、改めてぃん子はいっぱい食べ、寝て、健やかに育ちました。彼女は普通の人よりも遥かに成長が早く、わずか6年ほどで立派な成人女性に育ちました。彼女はまた正義感が強く、悪は見逃せませんでした。そんな彼女はある日、悪さをしている鬼という存在を発見し、私こそが退治すべきだと思いおばあさんとおじいさんに言いました】
ーー
『まあ、これはよくある流れ』
『物語として定番な』
ーー
【「てぃんてぃんがしたいんです……!!」と】
ーー
『おっと……?w』
『謎が深まったw』
ーー
【実はおじいさんとおばあさんは、日夜悪い鬼を殺す仕事……てぃんてぃんをしていたのです】
ーー
『意味がいきなり変わってきたw』
『どっちのてぃんてぃんなんだ……』
『てぃんてぃんがてぃんてぃんでてぃんてぃんの……(困惑)』
ーー
【「心のてぃんてぃんは?」とおじいさんが言いました。「この手の中に」とてぃん子は言いました。おばあさんは最早何を言うこともありません。分かっているなら良いと果敢せずの方針です】
ーー
『出たよ心のてぃんてぃんwww』
『お前好きだなw』
ーー
そびえ立つ(ry
【さて、旅に出たてぃん子ですが、おじいさんからはてぃんてぃんを。おばあさんからはてぃんてぃん団子を貰いました。そして旅に出ること数週間。彼女は犬、猿、雉の三匹の動物と出会いました。彼女はてぃんてぃん団子を道中で全て食べてしまったため、言葉で説得して仲間にするしかありません】
ーー
『食うなよw』
『キーアイテム消費していくスタイルかよw』
ーー
【しかし、なかなか説得は上手く行きません。彼女の心のてぃんてぃんが折れかけたその時、彼女はおじいさんの言葉を思い出しました。『いいか、てぃん子。世界は何でできていると思う? ……愛と勇気。そして……てぃんてぃんだ』】
ーー
『前半二つだけでええねん』
『最後だけいらねぇwww』
『一見シリアスな場面なのに、てぃんてぃんが全てを台無しにしている件w』
ーー
いや、スパイスだろ。むしろ、物語を引き立たせてるだろ。
【てぃん子はおじいさんから貰ったてぃんてぃんを掲げて「従え、下僕ども」と叫びました。3匹はやれやれ仕方ねぇなという雰囲気を出して従いました】
ーー
『おい』
『まさか3匹って』
『おいこらてめぇ』
『誰が畜生じゃごらぁぁ!!』
『ワイらかよwww』
ーー
よく気づいたな。
俺は少し笑いを堪えながら読み進めた。
【様々な苦難を乗り越え、てぃん子と下僕どもは遂に鬼の本拠地、鬼ヶ島へ辿り着きました。しかし、ここで誤算が起きました。鬼は一糸まとわぬ姿で生活していて、常に彼女が追い求めるてぃんてぃんが多く存在していたのです。それはまさしくユートピア】
ーー
『弱すぎだろw』
『欲望に正直w』
『鬼のてぃんてぃんにまで反応するのかw』
ーー
【しかしてぃん子は、悪を裁くという使命をこの身に宿しています。それはてぃんてぃんと比べたら……圧倒的にてぃんてぃんが勝ちます。彼女は持っていた武器を捨て叫びました。
「おてぃんてぃん!!!」
後に鬼ヶ島のてぃんてぃん姫、と呼ばれることになる、最低最悪の鬼が誕生した瞬間でした。
鬼は貴方の心のてぃんてぃんの中に存在しているのかもしれません……めでたしめでたし】
ーー
『なんこれw』
『理解できない何かを見た気分w』
『俺たちが理解できる次元にねぇだろw』
ーー
「まあ、こんな感じだけど、お前らにはまだ早かったな」
ーー
『時代が俺に追いついてないみたいな言い方やめろw』
『誰にとっても早いわ』
ーー
大作だと思うんだけどなぁ。
ハリウッドで映画化してもおかしくない出来事だったぞ? 桃太郎のオマージュだけど、ほら、最後の終わり方とか天才じゃね?
「フッ。やれやれ」
ーー
『何となく腹立つ』
『絶対こいつ変なこと考えてるわ』
ーー
「でも、これで黒歴史は抹消できただろ?」
ーー
『うん、酷いもん、お前』
『ワイらの黒歴史は……漂白剤のように真っ白だったよ』
『ひでぇ』
ーー
「なんか癪だわ。てぃんてぃんに謝れ」
ーー
『お前にじゃねぇのかw』
『優先事項が毎回おかしい件』
ーー
そろそろ良い時間だな。
読み終わったし終わるにはいい頃合だろう。
あと、告知しないと。
「最後に告知。例のコロンと明日バーチャル世界で対談するから絶対見てくれよな!!」
ーー
『ふぁ!?w』
『こいつマジかよw』
『馬鹿なのか本当に男なのかw』
『明日は歴史を目撃することになりそうだ』
ーー
じゃあ、てぃんてぃんれぽりゅーしょん、を流して切るか。
『てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪──』
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