第16話 お勉強配信+α #お歌

 次の日。

 春と夏の変わり目というものは風情を感じさせる。


「おてぃんてぃんにとって試練の年になりそうだ……」


 蒸れるんだよ。痒いんだよ。


「それにしても、ポロンについてどうしようか」


 殊更動く気は面倒だから無いんだけど、変なデマとか流布されたら困るんだよなぁ……。ポロンがどういう系統の暴露系なのかを調べる必要があるかもしれない。


「ちょっと見てみるか」


 yoitubeでポロン、と検索。


「あれ、出てこない」


 ポロン、暴露系、と検索。


「出てきた。あ、コロンか。なんだよ、紛らわしいな。◯ロンって来たらポロン以外あり得ねぇだろ」


 ほむほむ……チャンネル登録者56万人……え!? 多くね。暴露系ってそんなに増えるもんなの?

 例えば、前の世界だと、多少過激なことや炎上ばかりしていてもルックスだとかが良ければ登録者が多いというのはあった。全部が全部じゃないが『信者』が多数いたイメージだ。


 だがこの世界だと、配信者は全員女性。

 このコロンという者も、狐耳を生やした金髪巨乳のアバターで、例に漏れずっていった形。


 気になって複数の動画を調べてみると、何となくその理由が明白になった。


「あぁ……暴露系だけど、普通の配信もするのね。それが面白いと。なるほど。メンタル強いな!!」


 暴露系は必ずアンチが湧く。それが宿命だ。

 なのにコロンとやらは、そのアンチが湧く中で平然と配信をしているということになる。率直に言ってそのメンタルは見習いたい。


「んで、暴露系は……あー、全部事実で悪しか裁かんと」


 これまた厄介な……。

 今まで暴いてきた闇は、大概が犯罪に手を染めていたり現在進行系で良からぬことを仕出かした配信者たちなのだ。


「勧善懲悪、か。人気が出るのも分からんでもない」


 こういうのが好きな人も多いだろうな。


「はぁー、どうしよっかな。善意100%で行動してる人間が不幸になるのはあんまり見たくない」


 良くも悪くも、今までの暴露が全て正しいからこそ成り立っているのだ。それはある種、信頼と表現してもいい。だが、それは瓦解しやすく一つの出来事で失敗すればいつまでも尾を引くのだ。


「んー、まあ何とかなるべ!」


 とりあえず保留。

 その前に配信や!!





☆☆☆



「はい、どうも。給食のデザートじゃんけん、激化しがち。黒樹ハルでぇぇす!」


ーー

『わかる』

『最悪殴り合いに発展する』

『い つ も の』

『わかりみが深いw』

ーー


「だよなぁ。クラスの主張しない子ですらデザートの前では熱くなる。着火剤だね、マジで。それが原因で友達になったりとかあるらしい」


ーー

『着火剤て』

『友情への着火剤なのか、殴り合いへの着火剤なのか…』

ーー


「殴り合って友達さ」


ーー

『や さ し い せ か い』

『や さ い せ い か つ』

ーー


「そのネタ飽きたから続けんでええぞー」


 使い古されすぎてる。


「さて、今日はお勉強配信と、最後にちょっとサプライズあるから期待しといてなー」


ーー

『サプライズ!!』

『楽しみ!!!』

『どうせろくでもないことに決まってるwww』

『てぃんてぃん!!』

ーー


「てぃんてぃん!! まあ、それはラストでな。とりあえずお勉強やで。俺の学力チェックをやろうと思う」


ーー

『カスだろ(確信)』

『掛け算できなさそう』

『てぃんてぃん×てぃんてぃん=てぃんてぃん。みたいな計算しかできなさそう』

ーー


 これでも良い大学は出てるんだけどなぁ……。とは言っても学力と機転とか素の発想力は別なんだがな。だったら俺みたいな怪物はいない。

 それはそうと、


「アホか掛け算くらいできるは。つか、てぃんてぃん×てぃんてぃんはてぃんてぃんの二乗だろ。舐めとんのか」


ーー

『乗数……だと!?』

『お前……できたんか』

『なめ過ぎで草』

ーー


 いや、中学レベル……。


「これでも理系だぞ。そこそこ頭も良いんだからな!!」


ーー

『だろうな。ボキャ貧だもん』

『てぃんてぃん一辺倒の下ネタで文系とか無いと思ったけどw』

『てぃんてぃん専攻の大学はないぞ』

ーー


「てぃんてぃん専攻……いい響きだな。作るか。多額の寄付で作って。教授はもちろん俺な」


ーー

『やめろ』

『お前ならやりかねねぇ』

『ちょっと入学してみたいwww』

ーー


 もう大学作るか?

 おてぃんてぃん大学てぃんてぃん学部てぃんてぃん学科てぃんてぃん専攻。情緒狂いそう。


「やるならやるに決まってるだろ。有言実行。一意専心。一度決めたことをやり通すのは最高に格好いいだろう」


ーー

『物事によるんだよ!www』

『やっちゃいけないことをやり通すな!w』

『ただの頑固者に成り果てるだけw』

ーー

 

 やっちゃいけないことの分別くらいついている。ただそれが人とはズレてるだけで。あ、それ、分別って言わない? あ、はい。


「まったく。もっと洗脳……おっと、教える必要があるみたいだな」


ーー

『なに言いかけたお前』

『やっぱ洗脳してるんかーいwww』

『おてぃんてぃん!(洗脳済み)』

『あぁ、また犠牲者が』

ーー


「犠牲者言うな。光栄だろ。誇れよ。心のてぃんてぃんに誓えよ!!!!」


ーー

『急にどうした』

『耳痛いねん』

『心のてぃんてぃんってなにwww』

『心 の て ぃ ん て ぃ ん』

ーー


 みんなの心にてぃんてぃんは眠っているのさ。今はまだ覚醒していないけどな。

 ふざけまくってる配信生活だと若干自覚はしているけど、事が事だけに止まれないし止まるつもりがないんだよな。 


「心のてぃんてぃんはあれだよ。自らの心の内にそびえ立っている一本の芯のことだよ」


 今考えた。


ーー

『ちょっと良い風な感じにすんな』

『それをてぃんてぃんで表現しようとしたのが間違ってんだろw』

『そびえ立つな』

ーー


「ったく、やかましいぜ。良いから勉強するぞ」


 画面共有。

 数学とか国語だとか、そういう見ている人があんまり理解できない部類は配信に向いていないと思った。理科は論外。


 そんなわけで……映すは世界地図。


「地理です。国名じゃなくて、湖とか川とかの名前でやるわ」


 地理は受験でも使わんかったから、高校一年生の知識で止まっている。ヌルいテストだったから今まで勉強したことがない。ハンデとしては充分じゃなかろうか。


ーー

『自ら難易度上げてくスタイルかよw』

『うわー、いざ目にすると分からねぇな!』

『キツくね』

ーー


 まあ、予想通りの反応だ。

 確かに俺は地理を履修していないし勉強はしていない。


 だが、それは『教科』としての地理の話。



「ふっ、俺は世界遺産検定三級……あまり俺を舐めないことだなぁ」


ーー

『それすごいの?』

『三級てw』

『なにその資格w』

ーー


「は、三百個覚えなきゃいけないんだが??」


 これ、マジね。まあ、前の世界の話だけど、この世界も世界遺産とかの名前は変わってないし、多分世界遺産検定もある……はず。

 片手間で覚えたせいで合格ギリギリだったけどそれなりに覚えている自信がある」


ーー

『意外に大変だったw』

『それ何に使うんだよw』

ーー


 俺も何に使うかは知らねぇ。多分ツアー関係者じゃね?


「さて、レッツスタートだ!!」


 タップすると、問題のフリップが現れた。


【第一問 ヨーロッパを横断する山脈】


「アルプス山脈だろ」


【正解 アルプス山脈】


 さすがにこれは簡単だ。


ーー

『おー、すごいでちゅね〜』

『ワイでも分かるわw』

ーー


「めっちゃ腹立つ。ここは……てぃんてぃんてぃんてぃん!! よし、落ち着いた」


ーー

『怒りを鎮める方法がてぃんてぃんw』

『鎮静作用あるんかw』

ーー


「てぃんてぃんは万病に効くぞ」


ーー

『んなわけw』

『信仰しすぎだろw』

ーー


 崇拝してるが?


「次やな。もう少し難しい問題がほしいとこではある」


 俺の願いが通じたのか、次に現れた問題の難易度がえげつなかった。


【第二問 世界で二番目に広い島は?】


「二!? 一じゃなくて二!?」


ーー

『いきなり難易度跳ね上がってるしw』

『世界遺産関係ねぇし』

『待って、ワイも分かんねえw』

ーー


「一番目はグリーンランドだろ? 二番目……出てこねぇ……うーん、てぃんてぃんで」


【正解 ニューギニア島】


「あー、確かに広い」


ーー

『どこそこw』 

『オーストラリアって島ちゃうんか……』

ーー


「オーストラリアは大陸だろ。無知がバレまちゅね〜」


ーー

『ここぞとばかりに煽り返してきやがったw』

『根に持ってたのかよw』

『底の浅さがバレるぞw』

ーー


 俺の沸点はコップどころか平たい皿だぞ。底なんてあるわけないだろ。


「つ、次や」


【第三問 フランス人探検家であり博物学者のアンリ・ムーオが英国王立地理学会の援助を受け、1858年4月、タイのバンコクに向けて出港し、1859年後半にアンコールにやってきたが、その時に一緒に出港したアンリ・ムーオの愛犬の名前は何か】


「ティンティン」


ーー

『地理ちゃうやんけwww』

『いきなりなんなんw』

『お前当てる気ねぇだろw』

『んなわけw』

ーー






【正解 ティンティン】





ーー

『ふぁ!?www』

『嘘やろw』

『なんで知ってんのw』

ーー


「アホか下僕ども。俺がてぃんてぃんの情報収集を怠っていたとでも? とっくに暗記済みだわ」


 俺の検索履歴の8割はてぃんてぃんに関する情報だ。

 例えそれが部位を指すものでなくとも、俺は文字通り人生を掛けててぃんてぃんを調べてきた。その俺が答えられるわけないだろう。


 そしてこの問題の製作者、間違いなくリスナーだな。

 DMでもらったやつだけど……やるじゃねぇか。


ーー

『その情熱を別のところに向けろw』

『本当に知ってたのかよw』

『そこまでとは思ってなかった。舐めてたわw』

『本物だったw』

ーー


「やれやれ。俺の情熱を疑うとはな。俺はてぃんてぃんのためなら命と個人情報の流出以外なら何だってできるぞ」


ーー

『何でもできるわけじゃないのねwww』

ーー


「当たり前だろ。俺が死んだらもうてぃんてぃんって言えなくなるし、個人情報が流出しちゃったらおいそれと配信できなくなるから、結局お前ら下僕にてぃんてぃんを布教することが叶わなくなるだろ」


 まあ、この世界だったら流出したところでどうにでもなる気がするんだけどな。男性の持つ権力はやばいし。それを使いたいとは一ミリも思わないけど。


ーー

『結局てぃんてぃんw』

『お前……もう、すげぇわwww』

『何も言えないw』

『どれぐらいの回数言ってきたんだよw』

ーー



「お前は今まで見てきたてぃんてぃんの数を言えるか?」


ーー

『ゼロだよ!!』 

『現実直視させんな』

ーー


「あ、なんかごめん……」


 そうだった。例えが悪かった。


「ごほん。一杯ってことだよ」


 変な空気になった。

 エンディングにしよう。


「そ、そろそろ良い時間だからラストのサプライズを発表するぞ!」


ーー

『逃げたな』

『説明義務果たせ』

『それはそれとサプライズは気になるところ』

『ろくでもねぇってw』

ーー


 ろくでもないかどうかはそれを聞いてからにすることだな!

 このサプライズは俺にとってもサプライズだった。個人的には嬉しいけど、その、技術をもっと別のことに役立ててほしかった。


「えー、例の開発者さんが、俺が今まで言った言葉とかを繋ぎ合わせて歌を作ってくれたそうです。一部言ってない言葉もあるそうだけど、そこは合成したらしい。えぐすぎる」


 というわけだ。

 昨日、DMでこれ作ってみましたとファイルを送られて、まああの開発者さんだし、と開いてみたらびっくり。クオリティは高かった。



ーー

『ようやりよるわwww』

『またあの人かwww』

『なんでそんな技術力持ってんのにw』

ーー


 本当にな。


「それじゃあ下僕乙!! この曲をこれからエンディングとして流します! それではお聞きください【てぃんてぃんれぽりゅーしょん!】」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜一番〜


【可愛い女の子と出合いたぁぁぁぁぁぁいい!!!】


【てぃんてぃん!!】


【小悪魔俺の初配信】


【初めての男性Vtuber】


【バーチャルてぃんてぃん見せらんない】


【BANされちゃうからねー!】


【ミークラ配信騙されて】


【謝罪配信、謝罪しない】


【ち☆こが言えないもうたくさん!】


【清楚は卒業!下ネタです!】


〜サビ〜


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】


【世界を救う下ネタです】


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】

 

【包み隠さず言うんです】


【うおおおおおおお!!】


【ラグナロクシャインパワーぁぁぁぁ!!!!】


〜二番〜


【男の俺を崇めなさい】


【下僕どもの扱い酷すぎ!】


【特級呪物はぷらんぷらんだよ?】


【げぃ夢で見せてくー!】


【一万人を突破して】


【褒められたいのに、褒められない】


【てぃんてぃん言うのは大好きです!】


【下僕のみんな!はい熱唱!】


〜サビ〜


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】


【金玉作る、俺本気】


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】


【コロンもポロンになるんです】


【うおおおおおおお!!】


【躙り寄る不穏の影えええええええwwwwww】


〜ラスサビ〜


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】


【オタクだとか関係ない】


【てぃーんてぃんてぃん、てぃんてぃんてぃん♪】


【努力しての未来です】



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