第15話 ミークラ配信(おいなり) #コロン襲来
仲嶺が去った後、いつもの時間。いつもの配信だ。
「はい、どうも! 風で裏返った傘をそのままにして雨水を溜める系男子、小悪魔Vtuberの黒樹ハルでぇぇす!!」
ーー
『いや、分かるけどもwww』
『なんだ仲間かよ』
『ワクワクするのは理解できる』
『思考が小学生なんだよなぁ』
『そういう系統で言えば、風の日にはやけに興奮したり』
『分かるw』
ーー
あー、風の日な。分かるわかる。
子どもの頃、雨を伴わない暴風、って聞くと楽しみにしてた自分がいるし。
「風良いよな。どんな大声でてぃんてぃん!! って叫んでも風の音で誤魔化せるし」
ーー
『それはお前だけや』
『そゆことちゃうねんw』
『平常運転だなぁ……』
ーー
「ふっ、人に言われて変わるような人間じゃないからな、俺は」
自分から変わろうとしないと長続きしないのは本当のこと。変わった後にどんな化け物が生まれようと知らんがな。
ーー
『そこは変わろ?』
『人間としてまともに機能してほしいわ』
ーー
「まごうことなき人間だが?? いや、違う小悪魔だったわ。あー! あー、やばいな、人間界に染まってるなぁ!」
あっぶね、設定忘れてた。
当然そんなミスを下僕どもが見逃すわけなく。
ーー
『無理があるってwww』
『まだその設定生きてたのかw』
ーー
「うるせぇー! 良いから、今日はミークラやんぞ!! そしてプレイしながら雑談じゃい!」
ーー
『お、ミークラか』
『続き待ってた!!』
『お稲荷さん、作るんやっけ?』
ーー
「うん、金玉作る」
ーー
『いや、濁せよwwwwww』
『うん、じゃねぇw』
ーー
何を言っているんだこいつらは。
まったく、道理を分かっていない。
「金玉を金玉と言って何が悪い。それともタマタマ? ゴールデンボール?」
男の急所。二つで一つ。
男にとっての生命線なのだ、金玉は。
それを濁すなど、金玉様にとんでもない!
ーー
『こいつ……本気だ……っ!』
『今日も全力投球だな、こいつ』
ーー
「俺はいつでも全力投球だぜ。黒樹ハルは進化を重ねていく。下僕に面白いコンテンツを届けるためにな。言うなれば、今回作る金玉は進化素材みたいなもんよ」
ーー
『ゲームか!!w』
『進 化 素 材 w』
『糧にすんなやwww』
『言ってること真面目なのに最後で台無しw』
『いつものやんw』
『てぃんてぃんと金玉で一つだもんな。足りないピースを埋める的な』
ーー
俺は画面の前で一瞬固まる。
そうか……下僕といえど全てを理解しているわけではないのか。それが今分かった瞬間だった。
「お前ら馬鹿か? てぃんてぃんはてぃんてぃんだろ。個として独立してんだよ。常識だろ」
ーー
『どこの常識www』
『お前の世界の話だろ。巻き込むなよwww』
ーー
あれ、前の世界の常識だったか。危ない危ない。こういうすれ違いが誤解を産む結果になっては世話ない。
やはり変わっていることは悲しくもあるが、布教しがいがあるというもの。
いずれ全下僕にこの知識を浸透させねば……(使命感)
「んじゃ、ミークラやってくどー」
ゲームを起動させる。
見慣れたブロックの景色は、この荒れた世界で俺の唯一の清涼剤だ。ゲームには男と見るや襲いかかってくる野獣はいないからね。
こうして引き籠もりは増えていくのだ……!!
「んー、おいなりかぁ。どうせから金で作りたいな」
ーー
『言うと思ったwww』
『安直すぎやろw』
『でも逆に金以外あり得ないとも言えるw』
ーー
「良いじゃん、安直で。婉曲に言って伝わらないよりマシだろ? ほら、布団が吹っ飛んだとか定番のおや……お袋ギャグがあるじゃん? でも、たまに捻ってドスベリする奴。俺、ああいうのになりなくないわけ」
危ねぇ。ネットで調べたけど、この世界に親父という存在は少ないから、前の世界で言う親父ギャグはお袋ギャグという名前になっていた。
なんだろ、この奥歯に物を挟めた謎の感覚は。本能が拒否している……!!
ーー
『なるほど』
『別にええやんけw』
『髪の毛の生え際カミング!!』
ーー
「うわ、おもんな」
ーー
『無慈悲w』
『かわいそ』
『雷はもうたくサンダー』
『リモコンを取りに人りも来ん』
『風呂場で興奮している、欲情』
ーー
「おもんない、おもんない。下僕はギャグセンスないな。てか、風呂場で興奮している、欲情って、お前らどこでも興奮してるだろ。場所に限らずウェルカムカミングだろ」
ーー
『言えてるんだよなぁw』
『バッチコイよ。ワイらの準備はいつでも終えてる』
『少しは欲望を隠せよw』
ーー
これがあの変態どもを産むのか……。
というか、間違いなくこいつらも男を目前にしたら大興奮するんだろうな。幾ら下僕とは言え無理やり襲ってくるに違いない。
ネットだと多少マシなくせによぉ……。
「まあ、つまんない下僕たちよ。俺が手本を見せてやる……ごほん。金、賜いけり。値、金玉なり。どや」
これは大爆笑の渦だろう。
だが、コメ欄は違った。
ーー
『は?』
『まじでおもんなかった』
『これほどまでとは』
『人のこと言えなさ杉』
『草(無表情)』
『たまに捻ってドスベリする奴になってて草』
『早すぎるフラグ回収。ワイじゃなきゃ見逃しちゃうね』
ーー
なん……だと……?
嘘だろ。
「はっ、お前ら分かってねぇな。これ、俺の友達に話したら大爆笑だったぜ? お前らはこのギャグに込められたストーリー性だとかさ……そういう感受性がないねえ」
ーー
『お前に言われたくねぇwww』
『お前の友達、どうせ同レベルだろ』
『同じ思考回路の持ち主なんだから、そりゃ当然だわな』
ーー
「はぁー? 馬鹿にしてんの? てぃんてぃんで喜んだりしてる辺り下僕も同レベルだろ。なに自分だけ違うみたいな高みの見物かましてんだよ。認めろ」
ーー
『ひ、否定しづらい……』
『あっ……』
『てぃんてぃん!(洗脳済み)』
『てぃ、てぃてぃてぃん(抗っている)』
ーー
「抗うな。ありのままを受け入れろ」
ーー
『てぃんてぃん!!』
『てぃんてぃん!!』
『てぃんてぃん!!』
ーー
「あっはっは!! てぃんてぃん大賞賛だぜえええ!!」
ーー
『なんだこいつら』
『頭おかしすぎやろwww』
『怖い怖い。何が怖いってワイの手が勝手にてぃんてぃんてぃんてぃん!!』
『マジ洗脳じゃんwww』
ーー
どんどん同レベルが増えていく。さすが下僕だ。俺への理解が早い。
それにしても最近接し方というか配信への姿勢が、飲み友達がいるときのような感じになっている。
それは俺があの時のように最高に楽しんでいる証拠なのではないのだろうか。配信を楽しむ。趣味を仕事に変える。
今この場だけは男も女も何もかものしがらみは存在しない。
配信者とリスナー。その関係性はただ心地よかった。
だが、上手く行き続けることがないのが人生なのだ。
「それじゃあ、気を取り直して金ブロックを────」
ーー
コロン『黒樹ハル。ロック・オンっす♪』
『いけぇ!!』
『金ブロックが果たして見つかるのか』
『は!?コロンおるやん!!やばいって!!』
ーー
「え、誰? ぽろん?」
ーー
『お前一回黙れよ』
『シリアスな空気霧散させるな』
『あれだよ。暴露系ってやつ。今まで色んなVtuberの闇を暴いて引退に追い込んでる』
ーー
「え、それの何が楽しいの」
ーー
『一定層には受けてんだとよ』
『間違いなく黒樹ハル男性説の検証だろうな』
『知りたい自分と荒らされたくないワイがいる』
『それな』
ーー
ポロンだかコロンだか知らないが、ロックオンってことは俺を標的にしたということで間違いはないようだ。
闇を暴いて引退。
つまりは俺の男性説の間違いを立証することで追い込もうという魂胆か。
え、待って。
これ、暴かれても何も文句無くない?
人生上手く続いてね? 俺の時代来たり?
とりあえず叫んどくか。
「あー、これはあれか? 躙り寄る不穏の影ええええええぇぇぇぇ!!!!!! ってやつ?」
ーー
『お前情緒だいじょぶ?www』
『やめろ、折角シリアスだったのに笑わせんなw』
『ニュアンス的に、躙り寄る不穏な影えええええええぇぇwwwwwwwww』
『草www』
『お前なら大丈夫だな、間違いなく』
『コロンに負けるな!!』
ーー
「ポロン、とてぃんてぃん」
ーー
『馬鹿にしてんじゃねぇかwww』
『お前は隙あらば下ネタを言うんだから……』
ーー
「まあ、かかってくるなら来いよ。俺は秘密なんて一切ないオープンで配信してるからな。包み隠さず、俺は下ネタもゲームもしてる」
ーー
『隠せよ』
『い つ も の』
『今回だけは応援してやるから頑張れ』
ーー
「毎回応援しろよ!! ツンデレも大概にしろよ? 今時流行んねぇぞ」
心なしか優しいコメントが多い。常時それでいいぞ。俺の精神衛生的に。
「じゃあ、今度こそ気を取り直して金玉作るぞ」
まあ、なんとかなるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます