第8話 RPG配信② #ド変態

【衛兵だかなんだか知らねぇが俺の邪魔をするならぶち殺してやる!!】


「ようやく敵役らしい言葉を聞けたな。短気は損気だぞ。大丈夫? カルシウム取ってる?」


ーー

『露骨な煽りw』

『短気は損気とかお前に言われたくねー』

『なんでカルシウムw』

『カルシウムにはイライラを鎮める効果があるんやで』

ーー


 本当かどうか知らんけどな。


「イライラ鎮めるって言うけどさ。怒ってる時に牛乳でも手渡せば良いのか? 『はい! これ飲んで落ち着いて!』って。煽り超えて普通に馬鹿にしてるだろ、それ」


ーー

『草』

『そうはならんやろw』

ーー


 一回やってみたいな。

 人が激怒してる瞬間って、当事者じゃなければ面白くない? わー、あの人血管ピキピキいってるー、みたいな? さすがに性格悪いか。いや、面白いのは確かだけど。


「お、戦闘システムに移行かな」


 相変わらず猥褻物を陳列してる衛兵が表示され、続いて屈強な姿をした冒険者が前方に映し出された。

 RPGらしくターン制の戦闘システムで、初めてでも分かりやすい。


ーー

『戦闘キチャ!』

『すっげぇ衛兵に負けてほしい。そんで捕まってもろて』

『頑張れ冒険者ぁ!!』

ーー


「お前ら、応援する奴間違ってんだよ。正直俺もさっさとお縄についてほしいな、と思ってるが」


ーー

『お前、そっち側だろ』

『衛兵捕まるならお前も捕まるだろ』

ーー


「はぁ?? この清廉潔白な俺を変態扱いとは酷いじゃないか、下僕くんよぉ……」


ーー

『清廉潔白とかwww』

『どの口で言ってんの』

『生まれ直してこい』

ーー


「お前ら……俺が衛兵と同じ罪で捕まってもいいのか……? 翌日のニュースに載るぞ?」


ーー

『ド変態じゃねぇか』

『堂々と脅すなよ』

『見たい!!』

『欲望に正直で草』

ーー


 下僕らも変態じゃねぇか。人のこと言えないだろ。


「見せんわ。とりあえずゲームだ、ゲーム」


【たたかう】

【とくぎ】

【どうぐ】

【にげる】


「普通のコマンドっぽいな。このゲームにしてはなんと珍しいことか。選択肢の中に相手の服を脱がせる、とかありそうなのに」


ーー

『さすがにwww』

『あり得そうなのが腹立つな』

『あ、思い出した! このゲーム、男性の権利と尊厳を著しく踏み躙る、とかで4年前に販売停止してるやつじゃん! どうやって手に入れた!?』

『ま!?』

『なんか一時期ニュースでやってたような……?』

ーー


 え、本当に?

 知らなかったんだけど。


「マジでか。これ、オススメしてくれた下僕から貰ったやつなんだよな。なぜか配信許可はあるし安心してプレイしてたんだけど。というかこんなフザけたゲームなら停止するのもそりゃそうだ」


ーー

『どうりで知らないわけだよ』

『まあ、モザイクかかってるとはいえねwww』

ーー


「まあ、そのくだんの男性とやらがプレイしてるわけだし問題ないだろ!! まさか開発者も男がやるとは思ってないだろうな」 


 男がゲームをやることはほとんどないというのに規制される。ということは、思ったより男尊女卑が進んでいる世界のようだ。過剰ともいえるが、よくこれで世界が成り立ってるもんだよ。

 

 

ーー

『その想定はあり得ないだろうなw』

『本当に男ならなw』

『フザけた内容にしてはグラフィックとか、システムは正常だしクソゲーではない』

ーー


「いや、これ、むしろ神ゲーだろ。くっそ配信者向けのゲームだろ。これは感謝したいね、うん。もしどっかで開発者にあったら指先くらいは触ることを許可してもいいな!」


ーー

『何様だよw』 

『ドケチで草』

『めっちゃ上からやんけw』

ーー


 握手くらいはしたいと思ってるけどな。普通に面白い。そしてこの下ネタ加減とくだらなさが絶妙に俺のツボを刺激してる。


「じゃ、このゲームが神ゲーだってことも分かったし、戦闘すっぞおら!!」


 俺はとりあえず、コマンドの【とくぎ】を押した。こういうのは最初から持ってる初期スキルでゴリ押しするのに限る。


「とくぎ!!」


【ポーズを決める】

【股間強調】

終末輝力ラグナロク・シャインパワー

【服を着る】


「服を着る!!!!」


ーー

『即答かよ』

『一つだけ明らかに序盤に出たらいけない特技あったぞw』

『ラ グ ナ ロ ク シ ャ イ ン パ ワ ー』

『wwwwww』

『最早草しか生えん』

『服を着る、がとくぎなのか……』

『常識と教養とモラルを特技に変換する衛兵』

『ある意味最強だろ』

ーー


【消費MPが足りません!!】


「なんでや!!」


ーー

『ふぁwwwwww』

『消費MPあるんかい!w』

『たかが服を着るだけなのにw』

ーー


「お前の服は最終兵器か何かか? 着ろよ、マジで着ろよ!!」


 頑なに全裸でいる圧がすごい。これ服着たら逆に世界滅ぶとかないよな。もしくはクリア目標が衛兵に服を着せること? 本当に世も末で草。


「くっそ、これしかねぇじゃねぇか。くっ、ラグナロクシャインパワー!!!!!」


 押せた。


「これはMP足りるのかよ。どうなってんだ世界観」


 ゲーム画面が光りだす。もちろん、光の発生源は衛兵だ。大層な技名らしいエフェクトだな。


「これは期待っ!! いっけえええええ!!!」


 俺の掛け声と合わせて衛兵のキャラ絵が動き出す。

 段々と光が収束していき、さらに輝きを強めた光は衛兵と股間部分へと……あ、察し。


【ラグナロクううぅぅ!!シャインパワーあああああぁぁあぁぁぁ!!!!】


「あああぁぁぁぁ!!!! やっぱりポーズ取るだけかい!!!!」



 ドット絵のくせにやけにリアルなフロントダブルバイセップスだった。



ーー

『やっぱりwww』

『くっそ、予想通りなのに笑ってしまう』

『光が!!ああ、これぞ我を救う神……』 

『なんかやべぇ奴生み出されたけど大丈夫か?』

ーー


「南無」


ーー

『諦めんなw』

『草』

ーー


「救いようのない人間は放って置くに限る」


ーー

『限るな』

『諦めんなよ』

『諦めたらそこで……試合終了やぞ』

ーー


「最初から試合終了してる人間にブザー鳴らしても意味ねぇだろ」


ーー

『なんか響くw』

ーー


 なんでだよ。


「お、良い時間だな。とりあえずセーブして、続きは他のゲームの箸休めの時だな。毎回やるのは精神力がもたんわ」


 叫びすぎて喉が痛い。面白い代わりに集中力と体力を著しく消費するんだが。


ーー

『たしかに』

『地味に続き気になるけど次回を楽しみにしておく!!』

ーー


「おうよ、そんじゃ下僕乙!!」


ーー

『乙!!』

『最後の方、同接4000人いってたぞwww』

ーー



 は?






☆☆☆



「冒険者の村……? これって、学生時代に私が作ったやつだよね……? 配信者でやってくれる人いるんだ」


 黒歴史を抉られた気分で、少し苦笑する。

 それと同時に、あの頃痛烈に批判されたあの作品が今どんな扱いを受けているのか。興味と恐怖が半々だった。


「すっごい、炎上したんだよね。多分クソゲーとか言われてるんだろうなぁ……」


 あの出来事がきっかけでゲームを作ることを辞めた私だ。自ら傷口に塩を塗ることもないのに、私はいつの間にかその動画を開いていた。



『大して関わりないご近所さんに話しかけられたら気まずいよな。はい、どうも。黒樹ハルです』


「わっ、イケボ。え、男ってどういうこと……? ネタ? えへへ、でもこんなイケボの人があのゲームをプレイするんだ……へぇ……ちょっと興奮するかも」


 あ、いけない。悪い癖が出ちゃった。大学ではムッツリを隠してるんだから、家でもボロが出ることは避けなきゃ。



 三十分後。



「ひぐっ……ぐすっ、うえええん……」


 ただ嬉しかった。

 内容はくだらなくても、確かな情熱で挑んだゲーム制作。私は人気者を夢見て創作した。

 でも、結果は炎上して。そこそこ売れた代わりに、販売停止と罵詈雑言が身に纏うことになった。


 涙が止まらない。


 私のゲームを笑ってプレイしてくれて。それにリスナーが一喜一憂して。


 神ゲーだって言ってくれた。

 私が一番欲しかった言葉をやっと聞けたんだ。



「黒樹……ハル……様」


 私は画面に映る全てがキラキラ輝いているように見えた。


 光だ。ハル様は私の光だ。

 いつまで経っても晴れることのなかった心の闇を払ってくれた光の如き存在だ。



 私は思わず心の丈をコメントしてしまった。……だけど、まあ後悔はない、うん。ハル様が光なんだって分かったし。



「開発者は指先を触ってもいい。言質取ったからね、ハル様♪」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る