第9話 イヤァァァァァ!!たべられちゃうっ!

「増えすぎじゃね? 何があった」


 ラグナロクシャインパワー(笑)を繰り出した後、コメントで同接4000超えとの報告があった。

 400と見間違えたんじゃ、と思ったがチャンネル登録者数が3663人を越していたから恐らく事実。


 配信中に2000人以上増えてるんだけど本当に何があったんだよ。あー、胃が痛い。そんなに大勢の人が見ていたのだと分かると、緊張でありとあらゆる部位が痛む。


「一週間でその速度はあり得んて。俺なんてただ下ネタ言いながら笑ってただけだぞ? 確かに男ってアピールポイントはあるけど、信じてない人がほとんどだしさぁ」

 

 いや、待てよ。

 これはやはり下ネタのお陰なのでは?


 万国共通で盛り上がれる話題なんてそうそうあるものじゃない。食べ物だって地域ごとに違うし、趣味なんて火種そのものだ。


 だが下ネタは違う。

 全員が笑って楽しむことのできる一大コンテンツだ。下ネタというには下らなすぎることしか言ってないような気もするが、それでもコメントで盛り上がっているのは間違いではない。



「そうか。やはり下ネタは世界を救うんだな……。ありがとう下ネタ。これからもずっと俺に付いてきてくれ」


 よしっ! 増えた原因究明は完璧。

 次回は性癖の話でもしようかな。ちょっと踏み込みたい。でも、それは戦争になりそうだな。俺は俺で性別違うし。




☆☆☆



 次の日。

 今日も夜中から配信することは変わらないのだけれど、良い加減引きこもりにも飽きてきた。というか体が鈍る。この世界の男性どうしてんの? 全員体重大丈夫?


「不健康すぎやろ。なんか家の規模的にトレーニングルームみたいのがありそうだけどな。でも、ほら雰囲気ってもんがあるじゃん。家の中でランニングマシンに乗るより、外に出て散歩した方が気分的にも良いし」


 そもそも話す人がいなさすぎて独り言が最近激しくなってきた。配信の影響もあると思うけど、さすがにずっと一人も寂しい。


「出るか……! 外へ……!」


 もう男性保護官と同伴どかどうでも良いから外に出たい。俺は外に出たいんだ!!!!!!


 というわけで、外に出る方法を検索。


「ほむほむ。男性保護官に連絡するだけで良いのか。え、どうやって連絡すんの」


 RINEには無かったから……メールか?

 アプリをポチポチイジっていると、全く見たことのない名前がメールに登録されていた。

 恐らくこれが男性保護官なのだろう。


「『仲嶺なかみね詩緒里しおり』さんかぁ……」


 女性だよな、間違いなく。当たり前か。

 ということは? 男性保護官と言えど女性は女性。デートと判断しても良き?? 良いよな! 前世でデート経験皆無だからこじつけて言ってるわけじゃないからな!


「ごくり……。ええい、メールだ!!」


 俺は気分転換に外出したい旨をメールに送った。あっちも仕事だから仕事先に送るような堅っ苦しい文面になっちゃったけど、それが正解だと思いたい。


 返事はものの5分ほどで返ってきた。


『かしこまりました。三十分後にお出迎えにあがります』


「簡素だなぁ……。完全仕事って感じ。つか、男性守るってことは相当な力があるってことだよな。……めっちゃムキムキマッチョ説。安心はできるけどリラックスは確実にできない件」


 勘弁してくれよ、リフレッシュの意味がないだろ。

 別にマッチョがダメってわけじゃなくて、仰々しく守れるのが嫌なだけ。

 前世の価値観的に男が守られるってのも地味にプライドを刺激するし。んなもんゼロに近しいが。



「さて、準備しますか!!」


 外出用の服は……ほぼ無くなってる!!

 でも、お気に入りのはなぜかあったからそれを着ていこう。





☆☆☆



 男の準備は早い。

 十分でやることが終わったからダラダラとゲームをしていたら、『ぴんぽーん』とベルの音が聞こえた。


「はーい」


 鍵を開けて扉も開けると、そこには女性がいたのだが……なぜか驚いた顔で固まっていた。


 鮮やかな赤色の髪をポニーテールにしてまとめた、近所のお姉さん、という雰囲気を感じるスタイルの良い美人だ。


「え、男……なんで。あ、隣と間違えた……。でも、これってチャンス……?」


 なんかブツブツ言ってんだけど、この人。顔が怖い。何が怖いって、美人なんだけど獲物に狙われてるような。


「ね、ねぇ、君。男が不用心だよ? ここら辺は警備が厳しいけど確実に安全ってわけじゃないんだからさ」


「は、はぁ……」


 この人男性保護官じゃないのか? さっき間違ったって聞いたし部屋をミスったのね。それで不用心に出た俺を諭してくれていると。


 なんと優しい!


「だからね。君はもっと女性の恐ろしさを知るべきなんだよ。ハァハァ……」


「そ、そうですか。ありがとうございます」


「……っ!? 男が感謝を……!?」


 なんか段々息が荒くなってるんだけど、風邪でも引いてるのだろうか。

 それにしても全くの正論だよ。ここで会ったのが優しいお姉さんじゃなきゃ俺は危なかったかもしれない。一歩外に出ただけでこれなんだから、前世と価値観が違うことを改めて把握しなきゃな。


「私が教えてあげるよ。女性のことを、ね?」


「え、ちょっ!?」


 女性が俺の肩を掴んで、家に押し戻そうとしてきた。間違いなく俺ごと家に入るつもりだ。というか押し入るつもりか。

 舐めてた。様子がおかしいのは全部興奮してたからか。


 ふざけんな!! 無惨にチェリーを食べられてなるものか!


「うおおぉぉ!!」


「っ! 男のくせに力強い! でも、今私、男と合法的に触れ合ってる!! すごい!!」


「ちょ、おい、変なとこ触んな!! この変態っ!!」


「女はね! 男を触るためならどんな変態にも成り下がるのよ……!!」


「そんな覚悟捨てろ!!!」


 やはりこの世界では女性の方が力が強いらしく、前世と変わらないパワーを出しているはずなのに、力を抜けば今すぐにでも押されてしまう。なんて肉食! なんて執念! 女の恐ろしさを知ったわ! 今!


「牢屋に入る覚悟なら今さっきしたわ。どうせ保護官来るんだからその前にちょっとイタズラしたっていいじゃん!」

 

「イタズラじゃ済まないから抵抗してんだろが……!! 今引き下がったら見逃してやるから手を離せぃ!!」


「嫌よ……っ!! そんな言葉に惑わされるほど私の覚悟は甘くないのよ! 貴方に分かる!? たまに出回る男の写真が癒やし!! 右も左も女しかいない! 結婚できるのは上級階級の人間だけ。だから私達平民層の女は犯罪を犯すくらいでしか男に会えないのよ……!!」


 くっそ複雑な世界線だな、おい!!

 思ったより濃すぎてビビったわ!!


 確かにこの女性も、欲が最初とはいえ様々な葛藤と不満を抱えて生きてきたのだろう。

 そんな矢先にひょっこりと現れた俺。そりゃ覚悟もガンギマリするわな。


「だが関係ないわい! 俺を巻き込むんじゃありません! この世界は男に有利にできてるかもしれん。だけど、その男だって不満を多かれ少なかれ抱えてるだろ!! 肉食すぎる女性!! 横行する性犯罪!! 無いとは言わせんぞ!」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」


 めっちゃ唸ってる。心当たりしかないんだろう。

 俺の存在のせいで性犯罪者が現れるのも寝覚めが悪い。


 人とは話していたいし、些か不安要素しかないけどやるしかあるまい。


「ここで条件だ、名もなき女性よ。今ここでナニかをすることに成功してもすぐに捕まるだろう。だけど、引くくらいなら犯罪した方がマシだって言うんだろう?」


「そりゃそうよ! それだけ私たちの想いは重いのよ」


「ちょっと上手いこと言うなよ。……ごほん。だからこその条件だ。今ここで引けば、俺の連絡先を教えよう。遠隔なら話すことも構わん。監視付きで良いなら話すこともできる。どうだ?」


「なっ……!?」


 そう。俺の提案はこの世界の常識に沿うとあり得ないものだろう。今しがた犯罪を犯そうとしたのに破格な待遇だろう。

 だけど、俺は話し相手とこの世界の常識だとか歴史を知りたかった。

 スマホで検索するより実際に生きてる人に聞いたほうが情報は正しいし、個人的にリスナーと同じ雰囲気を感じるこの人を犯罪者にするのは惜しい。内面はそれなりに性格良さそうだし。


「そ、そんなこと貴方が守る保証はない!! そうやって騙して私を捕まえる気でしょ!!」


「証拠はないけどな。……俺が普通の男に見えるか?」


「っ、確かに聞いていた話とも全然違うし、私を恐れてるわけでもないけど。貴方になんの特があるのよ」


「うーん、単純に話し相手が欲しいってのもあるんだよ。一人は寂しい」


「つくづく変わってる……」


「約束は守るから手、離してくれない?」


 笑いかけると、女性は微かに頬を染めて惜しむように『ニギッ』と手を握った後に離した。そして、俺が逃げないと分かるや否やため息を吐いた。


「謝って済むことじゃないけど、ごめんなさい」


「いいよ、別に。ほい、これ連絡先」


 ササッと紙に書いた連絡先を渡すと、女性は目を丸くしておずおずと受け取った。


「まさか本当にくれるとはね……。嬉しいやら拍子抜けやら罪悪感やら。色んな感情がゴチャ混ぜね」


「ま、それは後々話そう。俺はこれから予定あるし。じゃあな」


「ええ、ありがとう」


 そう言って扉を閉めると、女性が何かを言ったような気がした。……まあ、気のせいだろう。

 

 それにしても疲れたな。時計見たらまだ十分くらいあったし、本当に不用心だったわ。 

 ちなみにこれ以上連絡先を渡すつもりはないけどな。お眼鏡に適うと言えば上から目線だが、安心はできないけど接することの出来る人があの女性だ。最終的には冷静になったし制御はできるようだからな。


 それはともかくお出掛けじゃい!






☆☆☆




「でもね、私諦めるつもりはないから」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回、お出掛けです。 

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