クラスの推しに勉強を教えていたらいつの間にか付き合うことになった
色海灯油
今回は1話完結です
――――推し、と聞くとアイドルやアニメ、ゲームなどの好きなキャラを想像するだろうか。清楚系やツンデレ、黒髪に金髪、お姉さんかロリか、様々な要素がある中趣味趣向も人それぞれで、同じキャラを推していたらさぞかし盛り上がるだろう。
そんな推しだが、何もアイドルやアニメに限ったことではないはずだ。ようするにクラスの女子で誰が可愛いとか、付き合うなら誰が良いとか、そんな話だ。
そのような会話を友人とする事は少なく無いため、話すたびに盛り上がる。新学期になってからその第1回目が始まろうとしていた。
「それじゃあ、遠足お疲れ様でした! かんぱーい」
「「「「「かんぱーい」」」」」
今日は1学期中間テスト明けの学校行事、遠足があった。高校生にもなって遠足かよと思うなかれ。小学生のように山などに登るわけではなく、俺達3年生は遊園地へ行くというものだ。2年生は水族館。1年生は山登りだが。
その遠足終わり、一緒に遊園地を回ったグループ6人で夕ご飯を食べに来ていた。バイキング形式のお店だ。食べ放題だが高校生にも手が出せるぐらいのお手頃価格でクラスの打ち上げにも利用されている。
今日も誰がともなく行こうと言い出して現在に至る。
「いやあ結構遊べたな」
「だなー。待ち時間が楽しかったってのもあるな」
「確かにな。立ちながらでもトランプって出来るもんなんだな」
待ち時間、俺達は雑談しながら持参したトランプで遊んでいた。ババ抜きや王様ゲームぐらいしか出来なかったが。他にもあと何分でアトラクションに乗れるかの計算勝負したり、待ち時間が1番充実していたかも。
「ってそうだよ、後藤。お前白鯨の計算勝負最下位だろ、俺まだジュース貰ってねー」
「へいへい、明日な」
乾杯してから遊園地での思い出話に華が咲いていた頃、1人が爆弾を投下した。
「そう言えば俺帰り際に野田さんと写真撮れたぜ」
「はぁ!? 中野お前それマジ?」
「はい、これ」
中野はその時の写真を皆に見せ、羨望の眼差しを向けられていた。
「いつ撮ったんだ?」
「お前らがトイレ行ってるとき。後藤に撮って貰ったんだ。いいだろ」
「おい言えよ後藤」
非難を受けた後藤だが、さも当然といった感じで返答した。
「いや、これは俺から言うことじゃないだろ」
「確かに」
「それにしても野田さんかー。可愛いよなー」
誰かの呟きに皆うなずいていた。
野田さんは少し背が小さく、全体的に愛くるしいためマスコットみたいな人だ。
「
唐突にこちらに振られた。そうだな、と考え1人のクラスメイトを挙げた。
「俺は桜井さんだな」
「ああー。桜井さんも可愛いよなー」
桜井さんこと
「はぁ……彼女欲しいな」
「また唐突だな、どうした後藤」
本当に唐突だ。まあ分からなくはない。もう高校最後の年になったというのに未だに彼女がいない。いたこともない。欲しいと思うのには共感だ。
それは他の皆も同じようなもので、今度は彼女が欲しい、どうやって作るか、誰と付き合うかみたいな話になる。そうやってまた巡り巡ってクラスの女子と付き合うなら誰が良いとかそういう話になる。
結局この日はバイキングの終了時間が来るまでこれらの話題で盛り上がった。仮に付き合えても受験で忙しくなるから今のうちに、みたいな感じだろう。
********
1月程して、期末テストの時期がやってきた。普段から受験勉強をしているからさほど勉強量が変わると言うわけではないが対策すべき所は増える。受験に関係ない科目などが良い例だ。そこら辺は友達に聞いたりして対策している。
今日も教室に残って勉強している。周りではカリカリとペンを走らせる音、問題をどうやって解くか議論する声、解き方を教えている声などが聞こえる。すると前のドアから人影が2つほど入ってきて俺の机の前で止まった。
「成田君、この問題教えて欲しいんだけど、今大丈夫?」
顔を上げると桜井さんと野田さんだった。なぜここに? なぜ俺? とは思ったが問題を見ると俺でも教えられそうだったので、取り敢えず了承する。問題は数Bのベクトルだった。
「えっと、この問題のどの辺りから分からない?」
「AとBの座標から長さを出すところまでは出来たんだけど……」
「求めたいのはCの座標だから、まずはOCを求めようか。CもA、Bと同じ平面上ってあるから、sとかtの適当な文字使って仮で式を作る。求めた長さとか他の条件からsとtを算出して最初の式に代入すると」
「OCが分かった!! じゃあこれで座標Cも分かるね。どうもありがとう」
「どういたしまして」
比較的解きやすい問題で良かった。説明もしやすかったし。友達から教えてくれと言われることは何度もあったが女子からはそうそうない。分かりやすく説明できたか少し不安だったが満足してくれたようだ。
「また分からないところあったら聞きに来てもいい?」
「もちろん、いいよ」
「ありがとう、またね」
なんと臨時教師に任命されてしまった。これまで接点がなかったが、こんな役得な仕事を得ても良いのだろうか。というか、ほとんど桜井さんがメインで野田さんは付き添いみたいな感じだったな。
また相談に来てくれるかもしれないなんて期待したが、その後は何事もなく勉強をして終わった。帰り際友達からさっきのは何だったんだと軽くやっかみを受けたぐらいでそれ以外はいつも通りだった。なんだ、やっぱり桜井さんの気まぐれか。
そう思って帰宅すると、Lineにメッセージがあることに気が付いた。
桜井さんからだ。
『この問題教えて貰えませんか』
まさかこっちで来るとは思ってもいなかった。しかも追加登録されてだ。……どうやったかって? クラスのグループから検索したのだろう。直接交換しなくても友達追加できるなんて便利な時代になったものだ。
制服から着替えるのも忘れてその問題を解き始める。今度は三角関数だ。それからどう教えるか吟味し、返信した。
しばらくしてありがとうと返信が来た。その後も何度か問題を教えていた頃、
『ありがとう。私ばっかり教えて貰って申し訳ないね』
と着信が来た。別にこれぐらいは何でもない。むしろ自分の勉強にもなると思えた。
『全然良いよ。これぐらい友達にも教えているし』
『でもなにかお返しはしないと』
お返し、か。それじゃあご飯一緒に食べに行きませんか、なんて頭に浮かんだがすぐに追い払った。問題教えただけでそれは図々しいと言うか、見え見えだ。
せっかくなので悩んでいた英語の長文について質問してみることにした。
『これはね、2つ前の文章から言い方を変えてあるんだよ』
本当だ。確かに2つ前の文章にそれらしいことが書かれている。これを言い換えたのか。悩んでいたことがあっという間に片付いた。さすがは文系だ。ちなみに俺は理系でクラスには文系と理系が入り交じっている。
それからもお互いにそれぞれ分からないところを教えあった。桜井さんは数学を、俺は英語と国語を質問していた。そのおかげで今回のテストでは文系科目もそれなりに良い点をとることが出来た。
『成田君ありがとう。数ⅡB両方とも過去一良い点取れた』
『俺も英語と国語良かったよ。桜井さんのおかげだね』
『ねね、テストも終わったしせっかくだから次の週末に映画見に行かない?』
「!?!?」
映画のお誘い、だと!! それってもしかしてデー……いやいや待て待てさすがに違うだろ。そうお礼だ、成績が上がったから。多分。
驚きはしたが、勿論返事は決まっている。
『いいね、何にしようか』
出来るだけ自然に返信したつもりだ。何だろう、急に楽しくなってきた。クラスの可愛い女子と一緒に出かけられるなんて、これから不幸でも起こるのだろうか。
あれよあれよいう間に詳しい日程が決まっていく。当日の服何にしようか。
そしてあっという間にデート――俺が勝手にそう思っている――当日がやってきた。
結論から言うと、滅茶苦茶楽しかった。何より桜井さんが可愛い。彼女の私服姿も初めて見た。白のトップスに黒のロングスカートといったシンプルだが爽やかな出で立ちで待ち合わせ場所に来たときは一瞬心臓が止まったかと錯覚したほどだ。
それにクールだと思っていた彼女は以外とノリが良く、活発だということも知れた。映画を見るまで、そして見た後も会話が途切れないほどずって話していられた。存外気が合うのかも知れない。話しているときもずっと笑顔で、あの笑みはずっと忘れられないだろう。
どれもこれも教室で見るだけでは知り得なかったことだらけだ。本当に誘って貰えて良かったと桜井さんに感謝する。
さらに帰り際、また次も遊びに行こうと誘われてしまった。また桜井さんの可愛い姿を拝めるのか。
それからも定期的に休日に会うようになった。さすがに受験生ということもあって毎回遊びには行けないので大体は駅近くのファミレスに集まって勉強会をしていた。
そこでも当然問題は教えあう。おかげで小テストの点も上がってきた。このままいけば次の模試でベストスコアが出せるかもしれない。
7月中旬になった。もうすぐ夏休みだ。受験生の夏休みは天王山とも呼ばれるほど大切な時期だ。ここでどれだけ力を付けられるかが今後のモチベーションにもつながり、進路がみえてくる。
遊んでいるひまはない。ただ、一緒に勉強するぐらいなら赦されても良いだろうか。
「なぁ成田、おまえ最近どうした? やけにウキウキしているが。もしかしなくても桜井さん関連か?」
昼休憩中、後藤にそんなことを聞かれた。言うかどうか悩んだがどうせばれると思って洗いざらいこれまでのことを吐いた。
問題を教えることがきっかけで連絡を取り合うようになったこと。何度か一緒に出掛けたり勉強していること。
「そんなわけで夏休みも一緒に勉強できるんじゃないかと期待してる」
「何その羨ま展開。俺も女子に問題教えればそんなことになるのかねぇ」
「わかんねぇや」
「はぁ、でも俺人に教えられるほど頭良くなかったわ」
「…………」
「無言やめい」
「すまん」
あんなこと言っているが後藤の成績は俺とそう大差ない。自己評価が低いのか。……それとも俺が自惚れているだけか?
そこでふと、気が付いてしまった。このクラスにも俺より頭が良いやつは居る。教え方が上手いやつも。女子と仲が良く、訪ねやすいやつも。
どうして俺だったんだ? 俺よりも適任はいた気がする。ただあの時その人たちがいなくて繰り下がってきて俺に尋ねただけか?
なぜ桜井さんが俺の所に来たか、そんなこと本人にしか分からないんだから直接聞くのが1番だろう。聞こう、今度。
夏休みに入った。結局あれから今日まで桜井さんに疑問をぶつけることは出来なかった。今もまた例のごとくファミレスで勉強会の最中だ。2人とも英語の長文を解いている。
自動販売機の歴史を英文で知るなんてな。しかも結構古いんだな。古代エジプトとか何千年前だよ。
「ん? 2200年位前じゃない? ほらここ、215BCってあるから」
「な、なるほど。さすがは
「ふふ、何言ってるの? 前から思ってたけど成田君天然だよね?」
こんなことで桜井さんの笑顔が見られるなら幾らでも天然ボケしてやる。……狙ってやったことはないけど。
この日は昼前から夜まで勉強した。時々休憩を挟みながらだったが、充実した1日だったと思えた。外はもう完全に暗闇に包まれている。
「そろそろ帰ろうか。もう8時だよ」
「んー、そうだね。明日もここでやる?」
「うん、やろう」
教科書やノートをしまって店を出る。夜道を2人並んで駅へ向けて歩き出す。大通りから道を1本逸れると、そこには静寂が広がっていた。この静けさなら、あのこと聞けるかな。
「今日も疲れたねー。これじゃあっという間に2学期どころか卒業まで行っちゃうよ」
「そうだね、年々時間が早く感じるよ」
「私たちの最後の高校生活が~」
「ねえ桜井さん、1つ聞いても良いかな?」
「なぁに?」
「期末の時、どうして俺のとこに来たの? もっと頭良いやつとかいるのに」
「……もしかして迷惑だった?」
しゅんとする桜井さんも可愛いなんて頭をよぎるが、振り払って否定する。
「そんなことない! 頼られて嬉しかったし今もこうして一緒に居られるのだって凄く楽しい。迷惑だなんて思ったことは1度もないよ」
「っ!?」
「単純に疑問なんだ。今まであまり接点とか無かったから」
何かを逡巡した後、桜井さんは意を決したようにゆっくりと赤面しながら口を開いた。
「私が成田君に尋ねたのはね……成田君と!! お近づきになりたかったからです!!」
オチカヅキニナリタカッタカラ。お近づきになりたかったから、か? 誰が誰に? 桜井さんが俺に、だ。
確かにそう言った。えっ!? もしかして桜井さんって俺のこと……
「ほんとは、もっと後に言うか成田君から言ってくれるのを待ってたけど。もういいや!!」
そのままの勢いで、桜井さんは続きを言い放った。
「私、桜井紅葉は成田光君のことが好きです!! もしよろしければ私と付き合ってください!!」
まごうことなき堂々とした告白だった。
その告白を受けた本人、つまり俺は何が起きたか理解できずにいた。桜井さんが俺に告白? 今し方もしやと思ったがいざ正面から叩きつけられると衝撃が物凄い。
かろうじで発した言葉が自分の耳にも届く。
「俺なんかで良ければ、喜んで」
……あれ? オッケーしてる。
「やったぁ、ありがとう。これからもよろしくね、成田君」
「こちらこそ、よろしく」
こうして、よく分からないままにクラスの女子、しかも桜井紅葉さんとお付き合いをすることになった。ずっと可愛い可愛いと思っていた、いわば推しみたいな存在だったのにそれが今日から彼女だなんて。
……俺の桜井さんへの感情って恋愛的な物なのか? それとも……
次の日から甘い甘い桃色生活が始まる……訳もなく、今日も今日とてファミレスで勉強会だ。お付き合いできたのにすることが勉強会とは。受験生、恐るべし。ただ今までと違うのは、いつもは対面で座っていたのが今は隣同士で座っていることだ。
クラスメイトから彼女へと関係が変わったその少女を盗み見てみる。綺麗な瞳に端整な顔立ち。ピンと伸びた背筋には彼女の長い黒髪が掛かっている。横に来たから分かったのか、今まで意識していなかったのか、ふわりといい匂いがした。心が安らぐようで心地良い。
じっと見ていたのに気が付いたのか、桜井さんがこちらを向いた。
「ん? どうしたの?」
「い、いや何でもない」
慌てて目をそらして問題に取り組む。だが全然集中できない。気を紛らわそうと水を飲むが、大して変わらなかった。
いつも通り、いつも通りにするんだと自分に言い聞かせてひたすらに問題集とにらめっこしていた。
桜井さんにドキリとし出してから数週間たち、今日はお盆明けの登校日だ。と言ってもお盆前まで夏期講習を受けに定期的に登校していたためそこまで久しくは感じない。
「ようお前ら、久しぶり」
「つっても1週間ぶりだけどな」
「皆日焼けしてないのな」
夏の恒例と言っても過言ではない、日焼け率の高さ。それが今年は非常に低い。受験生ともなればクーラーの効いた部屋や図書館で勉強をしていたのだろう。かくいう俺も学校かファミレスか家にしかいなかった。
「それで、成田は桜井さんとはどうなったんだ?」
「え? なに、何の話?」
後藤の呟きによって男子連中が集まってきた。もしかしたらここでまた全部洗いざらい吐かされるかもしれない。そう覚悟した。
案の定これまでのことをほぼすべて白状した。嫉妬羨望感嘆その他諸々の感情を男子連中からぶつけられたが、せっかくなので最近の悩みも告白する。
「それでちょっと相談なんだが」
案外みんなしっかりと聞く体勢を取ってくれたことに安堵する。
「実は俺、桜井さんのことを好きかどうかよくわからないんだ。可愛いと思うし、一緒にいて楽しいし退屈しない。むしろもっと一緒にいたいとすら思う。桜井さんが彼女で凄い幸せだとは思う、けどな」
「なぁみんな、1回こいつプールの底に沈めないか」
「賛成」
「水部の後輩から鍵借りとくわ」
「完全に惚気じゃねーかよ」
物騒な感想ありがとうございます。けどまだ続きがあるのでもう少しお付き合いください。
「けど、それって恋人に対する感情なのかが分からなくてな。友達に対するものなのか、推しに対するものなのか。こんな気持ちのままで付き合っていてもいいのか悩んでてな。俺はどうするのがいいと思う?」
「それもう好きでいいんじゃね」
「答え出てる気がするけどな」
皆各々の所見を口にする中、後藤が総括してくれた。
「まあその、なんだ。そこまで真剣に考えることが出来てるならそれは好きってことでいい気はするな。友達相手にそこまで気は遣わないだろうし。後はお前の気持ち次第とかか。桜井さんとどうなりたいか、成田自身の気持ちな」
「皆……そうか、俺が桜井さんとどうなりたいか、か」
このままずっと一緒にいたい、それが俺の願いだと思う。それならそうなれるように努力するだけか。
「ありがとな、こんな相談聞いてくれて」
どうしてこうなったんだと困ったような表情を浮かべながら、彼らは口々に礼を受け取ってくれた。
「うん、ほんとな。なんで俺らは受験生の夏休みにダチの人生相談受けているんだろうな」
「俺もそんな人生相談してみてーよ」
「人生相談の前に進路相談だよな」
「明後日模試だしすぐ進路相談できるだろ」
悩みが解決したことで、ここ最近感じていたモヤモヤが無くなった。これでより一層桜井さんとも勉強とも向き合える。
その日の帰り道、桜井さんと駅へ向かっている時のこと。空は日が沈み、街頭だけが辺りを照らしている。
「ねえ成田君。今日学校で男子たちに話してたことなんだけど……」
「あー、もしかして聞こえてた? …………ごめん!! 今まで桜井さんへの気持ちに自信が持てなかったんだ。告白してくれた時も上の空で、あまりよく覚えていなかったんだ」
「それじゃあ私のこと……」
今まで桜井さんときちんと向き合えていなかったことは申し訳ないし桜井さんにも失礼だ。現に今も桜井さんは俺が彼女のことを好きではないんじゃないかと心配している。だから今日気が付いたこと、俺がやりたいことを今全部伝えようと思った。
「でも今は違う。桜井さんと一緒に過ごして、楽しいことたくさんあったし意外な一面も知れた。もっと色んな事を知りたいと思ったし桜井さんの事をもっと好きになりたい」
「っ!?」
「これからも勉強を教えあって、大学に進学してからも色んな所に遊びに行って思い出を増やしたい。手も繋ぎたいしハグもしたい。キ、キスもしたいし。何でもないことで笑いあいたいし楽しい事も共有したい。もう今でもこれ以上ないぐらいに大好きです」
途中から桜井さんの顔がドンドン赤くなるのが暗がりでもよく分かった。それにつられてか俺の顔も熱くなっていた。それでも構わず最後まで続ける。
「これからもずっと一緒にいてください‼ さ……も、紅葉さん!!」
「はい、喜んで。光君」
紅葉さんは涙ぐみながら返事をして、俺の胸に飛び込んできた。まさかもういきなりハグが出来るとは思わなかった。
彼女の細く柔らかい体を受け止め、優しく包み込む。
この日この時この瞬間、本当の意味でのお付き合いを始められた気がした。
「こんなので涙ぐむなんて案外涙腺弱いんだね」
「うるさい、こんなのじゃないもん。私にとってはプロプーズだもん」
「急に重くなった。けどそうかぁ、プロプーズか。それもいいかも」
「……『これからもずっと一緒にいてください、紅葉さん』、だっけ?」
急にさっきのセリフを反芻された。恥ずかしい以外の何物でもない。生涯にわたる黒歴史になりそうなセリフだ。自分で言っておいてなんだが痛すぎる。
「ちょっ!? 恥ずかしいから忘れて」
「無理でーす。忘れられませーん」
お互いに笑いあい、体を離してまた並んで歩きだす。駅まではまだ少し距離があり、急がないと電車に乗り遅れてしまう。駅までの道中、2人の間には会話がなかった。先程の出来事が気恥ずかしかったのもあるかもしれない。
改札を通ったところで、電車が来てしまった。まだ階段を上ってホームに出ないといけない。
「光君、ほら」
紅葉さんが、こちらに手を伸ばしてきた。繋ごう、と言いたいのか。
「ずっと一緒に、でしょ?」
「なるほどね、でも1つだけ。今!?」
「ほら、早くー」
差し出された手を取り、離れないよう指に絡める。すると同じように握り返された。
幸せを胸いっぱいに感じながら、2人一緒に階段を駆け上がった。
クラスの推しに勉強を教えていたらいつの間にか付き合うことになった 色海灯油 @touyuS08
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