第5話 筋肉は愛を語らない

 昔々、ある所にサワガニの親子がおりました。



「父様、クラムボンが笑ってるよ!!」


「坊、そんな事より筋トレだ!」


 父蟹は息子に筋トレをさせ、後々自分の様なフォーパック4個に割れた腹、更にはその上のシックスパック6個に割れた腹にするべく厳しい筋トレを課していました。


 そんな折、1粒の種が川上から流れて来て親子の前で沈んだのです。



「これは柿の種だ!良質なプロテインではないが実がなれば腹が膨れる!」


 父蟹は種を拾い上げると近くに植え、親子で筋トレの合間に一生懸命世話をしました。


 植えた種は直ぐに芽を出し、それはそれは立派なマッチョな形をした木に成長しました。


 その木は直ぐ実を付け、もう少しで食べられる状態になると1匹の猿がその実に目を付けました。



「父様!もう食べられるかな?」


「柿は赤くなったら食べ頃だ!それまでは筋トレだ!」


 親子はそのまま厳しい筋トレをし、柿が赤くなった時に衝撃を覚えました。



「柿の実が、取れない…だと!?」


 そりゃあ、蟹ですから仕方ありません。そんな困っている所に1匹の猿がやって来たのです。



「お困りの様ですね?あっしが取りましょうか?」


 猿の申し出に親子は感激しました。


 頼まれた猿はスルスルと登るとその実をむしゃむしゃ。

 親子には1個もくれません。



「そろそろ我らにもくれんかな?」


 父蟹は猿に再度頼むと猿は「ほらよッ」と、青く硬い実を父蟹に向けて投げつけたのです。



 父蟹は硬い実の直撃でそのまま昇天し、猿はお腹いっぱいになったので、そのまま帰って行きました。



 残された坊が訳も分からず立ち尽くしていると、どこからともなく声が聞こえて来たではありませんか。



「坊、その青い実を食べなさい。そして、父親の復讐をするのです」


 それはマッチョな木の精からの言葉でした。

 坊はその言葉に従い実を食べると、不思議な事に坊の身体はマッソーになったのです。


 マッソーになった坊は父親の復讐の為に猿の家へと向かいました。



 猿は家の中で寝ています。坊は鋏で家を切り刻みます。

 すると家は全壊し、どっしーんと盛大な音を立て崩れました。


 焦った猿がゴソゴソと這い出すと、坊は焼けたイガグリを投げ、トドメに臼を頭上から投げたのです。



 頭上から降ってきた臼に対して猿は拳を高く掲げました。

 臼は猿の拳に拠って2つに割れ猿の周囲へと散っていきます。



「我が生涯、いっぺんに台無し」


 それが猿の辞世の句でした。

 坊はその後も柿の木を一生懸命にお世話しましたとさ。




めでたしめでたし。

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