第22話 彼女と夜の方を行いたい~グリム視点~

両親が領地に帰った翌日、久しぶりに騎士団に向かう。


「よう、グリム。やっと来たか。2週間も休むから、仕事が山積みだぞ。それで、ご両親とマリアンヌちゃんはどうだったんだ?」


「馴れ馴れしく俺の妻の名前を口にするな。図々しい奴だ!彼女と母上は、なぜか意気投合して、毎日楽しそうに過ごしていた。それでだな、お前に相談があるんだ」


「なんだよ、嫌な予感しかしないんだけれど…」


ものすごく嫌そうな顔をするデービッド。こいつ、無駄に勘がいいからな。


「実は彼女が、領地に行きたいと言っていてな。今すぐにでも連れて行ってやりたいんだ。それで、1ヶ月ほど…」


「ダメだ!そもそもお前、2週間も休んだばかりだろう。それなのに、また1ヶ月も休みたいだなんて、図々しいぞ」


やっぱり駄目か…


「そんな事はわかっている。でも俺は、今までほとんど休みなく働いてきた。それに、何より彼女が喜ぶことは、何でもしてやりたいんだ」


「は~、鬼の騎士団長が、ここまで腑抜けになるなんてな…女って、ある意味怖いな…わかったよ、ただし、半年後だ。半年間死ぬ気で働け。そもそもお前は騎士団長だ。お前が2週間休んだだけで、この仕事量だぞ。これ以上俺に迷惑を掛けるな。それじゃあ、俺はもう行くから」


そう言って、デービッドは出て行った。あいつの言う通り、2週間休んだ後に、1ヶ月間追加で休みたいだなんて、さすがに無理だよな…


仕方ない、彼女にはその旨を素直に伝えよう。


そうと決まれば、とにかく今目の前にある仕事を片付けないと!


その日は昼飯もとらずに、ひたすら仕事をこなした。いつもより少し遅くなってしまったが、それでも夕食の時間までには何とか仕事を終わらせ、屋敷に帰る事が出来た。


屋敷に着くと


「おかえりなさいませ、旦那様」


満面の笑みを浮かべる彼女の姿が。あぁ、癒される…

彼女の顔を見るだけで、1日の疲れが一気に吹き飛ぶのだ。彼女が屋敷にいてくれるだけで、俺は何だって出来る。


早速彼女に、半年後しか領地に行けなくなったことを伝えた。すると


「お忙しいのに、調整して頂いたのですね。私の為に、ありがとうございます。半年あれば、きっと色々と準備が出来ますね」


そう言ってほほ笑んでくれたのだ。なんだ、この女神の様な女性は…これからも彼女の笑顔を、何が何でも守りたい。俺はこの時、強くそう思った。


その日もいつもの様に、食後2人で過ごす。いつの間にか2人で過ごす時間も増えた。毎日の出来事を嬉しそうに話す彼女を見ているだけで、俺は幸せな気持ちになる。それに、俺の手を握る彼女の温もりが、妙に心地いい…


このままずっと、こんな日々が続けばいいのに…そう願わずにはいられない。そういえば母上が来た時、子供の話しが出たな。そろそろ、夜の方も…て、俺は何を考えているのだ。


彼女の優しさにつけ込んで、夜の方を行おうだなんて。でも、彼女も子供を欲しがっている様だったし…


でも今更どうやって誘えばいいんだ!クソ!


そうだ、明日デービッドに聞いてみよう。あいつは妻も子供もいるのだから。


翌日

「デービッド、夜の方はどうやって誘えばいいんだ?」


単刀直入に聞いてみた。すると


「お前、ついに頭をぶつけておかしくなったのか?昼間っからそんな話をするな」


は~とため息をつきながら、そう言ったデービッド。


「俺は真剣だ。そもそも俺は侯爵だ。世継ぎの事もあるし、何より彼女が子供を欲しがっているみたいなんだ」


そうだ、彼女の為にも、夜の方を行うべきなんだ。


「お前、マリアンヌちゃんの為みたいな言い方をしているが、自分が抱きたいだけなんだろう?本当に、スケベな奴だな」


「だ…誰がスケベだ!俺たちは夫婦なんだぞ。確かに初夜は逃してしまったが…今は随分と夫婦の仲も深まってきている。だから…その…」


「まあ、確かにお前たちは夫婦だ。このまま何もしないという訳にもいかないもんな。それなら、夜マリアンヌちゃんの部屋を訪ねればいいだろう」


「部屋を、訪ねるか」


なるほど、確かに俺が彼女の部屋を訪ねればいいのか。


「わかった、お前の言う通り、やってみよう」


その日の夜、いつもの様に彼女とお茶を楽しみ、領地の勉強をする。


「それでは旦那様、おやすみなさい」


いつもの様に、自分の部屋に戻る彼女を見送った。一旦自室に戻り、湯あみを済ますと、早速彼女の部屋へと向かう。でも…


ダメだ!どうしてもノックをする勇気が出ない。もしかしたら、もう彼女は眠ってしまっているかもしれない。俺が訪ねた事で、起こしてしまっては気の毒だ。今日は止めておこう。


その日は結局部屋を訪ねる事が出来なかった。そして翌日も、その翌日も、部屋の前までは来るのだが、どうしてもノックをする勇気が出ない。


クソ、俺はどこまで意気地がないんだ。そもそも、夜急に部屋を訪ねるなんて、紳士的ではないよな。


ちょっと彼女と仲良くなったからと言って、今すぐ夜の方をと言うのも、よくないのかもしれない。よし、もう少し彼女と仲良くなってからにしよう。そうだ、そうしよう。


結局3日目にして、彼女の部屋を訪ねる事は諦めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る