第12話 友人たちが訪ねて来てくれました

侯爵家にやって来てから、早2週間。相変わらず旦那様とはほとんど会話をする事はないが、それなりに楽しくやっている。


そしてこの2週間で、クリスに領地について色々と教えてもらった。クリスからも


“旦那様の代わりに、奥様が領地を取り仕切ってもらえたら私も嬉しいです”


なんて嬉しい言葉を貰った。でも、さすがに侯爵でもある旦那様を差し置いて、そんな事は出来ない。


今日も午前中のレッスンを終え、いつもの様にクリスと領地について勉強を始めようとした時だった。


「奥様、お客様がいらしております」


「えっ?私に?」


私にお客様だなんて、一体誰かしら?


疑問に思いつつ、急いで客間へと向かう。すると


「マリアンヌ、久しぶり。元気そうね」


「まあ、あなた達、来てくれたの!」


客間で私を待っていてくれたのは、親友のアナスタシア・シャリー・ルアンナだったのだ。2週間しか経っていないのに、なんだか懐かしい。嬉しくて、つい頬が緩む。


「わざわざ私の為に来てくれたのね。嬉しいわ。早速お茶にしましょう」


すかさずカリーナがお茶を出してくれた。


「それで、新婚生活はどう?侯爵様とはうまく行っているの?」


「それが…旦那様は私の事があまりお好きではない様で…初夜もなかったし、私とは極力話さない様にしているみたいなの。やっぱり、公衆の面前で婚約破棄される様な女、嫌悪感しかわかないわよね…」


今まで溜め込んでいた思いを、一気に友人たちにぶつける。そんな私を見て、それぞれが顔を見合わせて固まっている。


「ねえ、マリアンヌ。本当に侯爵様はあなたを嫌っているのかしら?」


「そりゃそうよ。だって初夜もなかったし、ほとんど私とは目も合わさないのよ。確かに使用人たちはとても親切にしてくれるし、旦那様も私に良くしてくださっている事は理解しているわ。でも、本心は私の事をお好きではないのよ。きっと誰とも結婚できない可哀そうな私に、同情して結婚してくれたのよ。だからね、少しでも旦那様の役に立ちたくて、マナーやダンス、領地の事も勉強しているの」


確かに皆が私の為に親切にしてくれているのは理解している。旦那様の優しさも知っている。でも、旦那様には妻として受け入れてもらえていない。それだけは、はっきりと言える。


「今日私たちがここに来たのはね。侯爵様に頼まれたからなの。“マリアンヌが寂しい思いをしているから、来てやってほしい”て。それで私たち、ここに来たのよ。本当は直接頼みに行くのが筋だろうけれど、自分の見た目のせいで私たちを怖がらせては大変だからって、わざわざ直筆の手紙をくれたの。もしあなたに嫌悪感を抱いているのなら、そんな事をするかしら?」


「それは…きっと私に同情して…」


「そうかしら?ディファーソン侯爵と言えば、珍しい黒髪と、鋭い目つきのせいで、令嬢から怯えられているじゃない。もしかしたら、あなたの事も怖がらせないために、わざと目を合わせないのではなくって?そもそもディファーソン侯爵が、あなたを同情で助ける理由って何かある?あなたを嫁にするメリットは?」


「それは…」


「そもそも、ディファーソン侯爵は、そんなにお優しい方じゃないわ。鬼より怖い騎士団長と恐れられているのよ。それに、結婚の打診は侯爵からあったのでしょう?」


「それはそうだけれど…」


確かに彼女たちの言う通り、旦那様より身分が低い伯爵令嬢の私と結婚しても、何のメリットもない。それじゃあ、なぜ私と結婚してくださったのかしら?


「マリアンヌ、あなたは1年前の婚約破棄のせいで、自己評価が驚くほど低くなってしまったみたいだけれど、あなたは今でもとても美しくて可憐よ。もっと自信を持って」


「そうよ。ねえ、勇気をもって話しかけてみたら?」


「でも…迷惑じゃないかしら?」


「あのね!あなたは侯爵様の妻なのよ。そもそも、妻に話しかけられて迷惑だって思うなら、最初から結婚なんてするなって話よ!それにマリアンヌ、あなたはこのままでいいの?せっかく好きな人と結婚できたのでしょう?自分をアピールできる絶好のチャンスじゃない!」


確かに、皆の言う通りよね。


「ありがとう、皆!私、頑張ってみるわ!」


「そうよ、その意気よ。そういえば、午後って何かあるの?手紙で、“できるだけ午後に訪問して欲しい”って書いてあったのよ」


「午後か…午後はいつも、旦那様の専属執事のクリスと一緒に、領地の勉強をしているのだけれど。もしかして、私が領地の勉強をするのが嫌なのかしら?」


全く気が付かなかったが、もしかしたら旦那様は、妻の分際で領地の事まで入り込んできたことに、いい印象を抱いていないのかもしれない。


「あなたが領地の勉強をすることが嫌なのかは分からないけれど、とりあえずその件も含め、一度きちんと侯爵様と話しをしてみるべきね」


「ええ、そうするわ。ありがとう」


その後、たわいもない話しをして、3人は帰って行った。また近々遊びに来てくれると言う約束も取り付けた。


それまでに、きちんと旦那様と話しをすると言う約束もした。


とにかく、一度旦那様としっかり話しをしよう。

そう心に誓ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る