第11話 彼女の考えがよくわからない~グリム視点~

もしも彼女が俺を待っていてくれたのなら、申し訳ない事をした。やっぱりこういう場合、謝った方がいいのか?でも、もしかしたら何か別の理由で夜更かしをしてしまっただけかもしれないし…


結局悶々とした気持ちのまま、家路についた。


玄関に入ると、彼女が出迎えてくれた。それはそれは美しい笑顔で。こんな美しい女性が、俺を受け入れようとしていてくれただって…


いいや、やっぱり考えられない。


動揺する俺に、彼女は朝の事を詫びて来た。別に詫びられることはしていない、だから気にすることはないという意味を込めて


「問題ない」


そう伝えたのだが…


「旦那様、なんですか、奥様への態度は!奥様が可哀そうでしょう。体調を気遣うとかできないのですか?」


そうクリスに怒られてしまった。確かに、少し言い方がきつかったかもしれない。そう思い、食事の時、体調について聞いた。


すると、一瞬大きく目を見開いたかと思うと、急に立ち上がり、頭を下げたのだ。別に謝る必要は無いと伝えると、そのまま席に着いた。でもその時、とても嬉しそうに微笑んだのだ。


なんだ、その顔は。可愛すぎるだろう!


一気に鼓動が早くなる。それと同時に、戸惑いも生まれた。どうして俺の前で、そんなにも嬉しそうに笑うんだ?俺を嫌いではないのか?


俺の頭は完全にパニックになる。その後は正直食べたか飲んだか分からないまま、自室へと向かった。一体彼女は何を考えているのだろう。


さらに翌日、また俺を混乱させる事態が起こった。

なんとマリアンヌ嬢が、再びマナーやダンス、さらに領地の事まで勉強し始めたと報告を受けたのだ。


「一体どういう事だ?なぜ彼女はそんな事を始めたんだ?」


「メイドの話しですと、少しでも旦那様の役に立ちたいとおっしゃられたみたいで。それにしても、奥様は本当に賢いお方です。私が教えた事を、どんどん吸収していくのですよ。この分だと、旦那様の代わりに、奥様が領地経営を行ってくださるかもしれませんね」


嬉しそうにそう言ったクリス。


「ふざけるな!俺はただ、彼女にこの家で快適に暮らして欲しいだけなんだ。それなのに、どうしてお前と2人きりで領地の勉強をさせないといけないんだ。とにかく、一刻も早くやめさせろ!それからお茶会の招待状が来ても、全部断るんだ。いいな」


「旦那様、醜い嫉妬はおよしください!いいですか?奥様はあなた様の為に、一生懸命勉強をされているのです。それを無下になさるおつもりですか?そもそも、あなた方は夫婦なのです。いつまでも奥様を避けていないで、いい加減奥様と向き合ってはいかがですか?本当に、いつからそんなに男らしくない方に成り下がったのですか?情けない」


クソ、クリスの奴、好き勝手言いやがって。でも、こいつの言っている事は間違っていない。


「俺はこの通り、目つきが悪く、令嬢を怯えさせてしまう。だから、マリアンヌ嬢には出来るだけ…」


「その発想が情けないと言っているのです。そもそも奥様は、旦那様に怯えたり恐怖を感じたりしている素振りは見られません。それどころか…いいえ、何でもありません。とにかく、奥様のやる気を削ぐ様な事は慎んでください。もちろん、私は明日からも奥様にしっかり領地についてマンツーマンで教えるつもりですので。ただ、お茶会の招待状に関しては、断りを入れておきましょう。それでは失礼いたします」



そう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。あいつ、言いたい放題言いやがって。確かに今まで、騎士団長の仕事を優先するあまり、領地経営の仕事がおろそかになってしまっていた。この機会にもっとしっかり領地経営について、俺も学ばないとな。


翌日、いつもの様に彼女と一緒に朝食を食べる。ふと彼女の方を見ると、リラックスした表情で食事をしていた。


昨日クリスが彼女は俺を怯えている様な素振りを見せていないと言っていたな。それなら、少しくらい話しかけても大丈夫だろうか?そんな思いから、俺は彼女に話しかけた。



「君は…その、昨日からマナーやダンスのレッスンや、領地経営について学んでいる様だが…」


「はい、せっかく旦那様の元に嫁いできたのに、私は妻として全く役に立っておりません。ですので、少しでも旦那様のお役に立ちたいと思いまして…あの、もしかして迷惑ですか?」


不安そうな顔でこちらを見つめているマリアンヌ嬢。


「イヤ…別に迷惑ではない。ただ、あまり無理をする必要は無い。別に君に何かを期待している訳ではないから。特に茶会などには、参加する必要は無い!こちらから断っておくから」


しまった。また感じの悪い事を言ってしまった。きっとマリアンヌ嬢を傷つけてしまった。そう思ったのだが…


「ありがとうございます。でも、私も旦那様の妻として、出来る事は何でもしたいのです。私のような者をお嫁さんにして下さった旦那様に、少しでも恩返しが出来たらと思っております」


頬を赤らめながらそう言ったマリアンヌ嬢。その美しい微笑に、釘付けになる。


「お…俺は君のような女性は、俺にはもったいないと思っている。だから…その“私の様な者”と、自分を卑下するようなことは、言わないでほしい。それでは、俺はこれで」


急に恥ずかしくなって、食堂を後にする。俺は一体何を言っているんだ。ただ、1つわかったことがある。それは、マリアンヌ嬢は、俺が彼女を妻として迎えた事を、感謝しているという事だ。


もしかして、彼女は俺の事を…

さすがにそれはないか。ただ、俺に負の感情は抱いていないという事は確かな様だ。


そしてそれと同時に、彼女はやはり婚約破棄されたことで、相当心に深い傷を負っているという事もわかった。とにかく、これ以上彼女が傷つかない様、動いていかないとな。でも、一体どうすればいいのだろう…

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