第5話 私を妻として受け入れてくれていない様です

食堂に向かい、グリム様がやって来るのを待つ。しばらく待っていると、グリム様がやって来た。早速食事スタートだ。


でも…

一切私の方を見ることなく、黙々と食事をしている。どうしよう、夫婦なのだから、何か話さないと!


「あの…今日は何をされていたのですか?」


意を決してグリム様に話しかけた。すると、鋭い視線で私を睨みつけている。これは、怒っていらっしゃるのかしら?


「今日はいつも通り騎士団で仕事をしていた」


「そうだったのですね。侯爵家の仕事だけでなく、騎士団長としての仕事までこなされているなんて、本当にすごいですわ」


「別に、大したことはない…」


そう言うと、また下を向いて食事を始めてしまったグリム様。もしかして、迷惑だったかしら?


何だろう…この何とも言えない空気。なんだか気まずい。結局その後は、無言のまま黙々と食事を済ませた。


一旦部屋に戻ると、湯あみを済ませる。そう、今日は初夜だ。でも、夫婦の寝室もあるのかないのか分からないし、一体どうやって初夜を済ませるのかしら?もしかしたら、グリム様が私の部屋を訪ねてきてくれるのかしら?うん、きっとそうよ。


「それでは奥様、どうぞゆっくりお休みください」


カリーナが部屋から出て行った。きっとこの後、グリム様がやって来るのね。緊張しながらベッドに腰かけながら、グリム様が来るのを待つ。でも…


全然来ないわ。一体どうなっているのかしら?


気になって部屋の外に出てみるが、廊下には誰もいない。再び部屋に戻り、グリム様を待つ。でも、いくら待ってもグリム様はやってこない。


気が付くと、夜中の2時を回っていた。もしかして、私は妻として認められていないのかしら…そう思ったら、なんだか悲しくなってきた。


それでももしかしたら、来てくださるかも!そんな思いから、その後も待ち続けた。でも、結局グリム様が私の部屋を訪ねてきてくれることはなかった。


やっぱり公衆の面前で婚約破棄をされる様な女、抱く気にもなれないのかもしれないわね。そう思ったら、瞳から涙が流れ出た。ダメよ、もうすぐカリーナがやって来るわ。カリーナに涙を見られたら、きっと心配する。


必死に涙をぬぐい、顔を洗った。一睡もしていないせいか、酷い顔だ。さすがにこんなひどい顔、グリム様には見せられない。


一旦布団に潜り込む。さて、どうしようかしら?う~ん。


「奥様、おはようございます」


考えがまとまらないうちに、カリーナが来てしまった。どうしよう、さすがにこんな酷い顔、見せられないわ。


「奥様?」


私が起きないからか、心配そうにこちらにやって来たカリーナ。


「ごめんなさい、昨日、ちょっと夜更かしをしてしまって…まだとても眠くて」


「まあ、そうだったのですね。わかりましたわ。では、ゆっくりお休みください」


そう言うと、部屋から出て行ったカリーナ。よかった、特に何も言われなかった。とにかくひと眠りしよう。そう思い、ゆっくりと瞳を閉じた。



次に目が覚めた時は、既に太陽が空高く昇っていた。さすがに寝すぎた!急いで飛び起き、着替えを済ませる。そして部屋の外に出ると、心配そうな顔のカリーナの姿が。


「奥様、お目覚めになられたのですね。よかったですわ。ずっと起きていらっしゃらなかったので、心配しておりましたの。まあ、お着替えでしたら、私に言って頂ければ行いましたのに」


「心配かけてごめんなさい。本当に昨日、夜更かしをしただけだから」


「それならよかったですわ。さあ、昼食にいたしましょう。すぐに準備いたしますね」


その後、遅めの昼食を頂いた。私が中々起きてこなかったから、他のメイドたちも心配してくれていた様だ。料理長に至っては、もしかしたら病気かもしれないと、食べやすい食事まで準備してくれた。


やっぱりここの使用人たちは、本当に親切だ。私がグリム様に妻と認められていなくても、親切にしてくれる。そもそもグリム様だって、いわくつきの私とわざわざ結婚してくださったのだ。たとえその感情が同情だったとしても、その優しさが嬉しい。


でも私は、皆の優しさに全く答えられていない…


食後、再び自室に戻ってきた。私が使用人やグリム様に喜んでもらえる事って、何かあるかしら。


早速自分に何かできる事がないか、考える。う~ん、夫人の仕事を完璧にこなす事なんだろうけれど…夫人の仕事って何なのかしら?


一番の仕事は、侯爵家の跡取りをもうける事だろう。でも、初夜さえ拒まれた私には、その仕事を務める事は出来ない。それならやっぱり、夫人として夫を陰から支える事よね。


という事は…


そうだわ!やっぱり完璧な夫人は、マナーやダンスはもちろん、教養も身につけていないとね。それから、貴族同士の絆を深めるためにも、他の夫人たちと仲良くならないと。その為にも、頻繁にお茶会に参加しないとダメよね。



お茶会か…

私は公衆の面前で婚約破棄をされた残念な令嬢だ。既にマイナスなイメージを持っている貴族も多い。きっと陰口を叩かれるんだろうな…て、ネガティブな感情を抱いていてはダメよ。


今までだって、陰口を叩かれながらも必死に夜会などに参加してきたのだから。そうよ、こんな事でへこたれていてはダメ。


とはいっても、きっと私をお茶会に誘ってくる物好きはいないわよね…


とりあえず、領地の勉強をして、そっち方面からグリム様の手助けを行おう。よし、そうと決まれば、やる事はただ1つ。頑張らないと!

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