第4話 使用人たちはとてもいい人だけれど…

その場から動けず、ただグリム様が出て行った扉を見つめていた。すると、1人のメイドが話しかけて来た。


「奥様、そろそろお部屋に参りましょう」


確かにこんなところでボーっと座っていても仕方がないわね。気を取り直して、メイドに付いて行く。


「こちらでございます」


メイドがドアを開けてくれると、そこにはとても立派な部屋が広がっていた。白を基調としたシンプルな部屋だが、それでもカーテンにレースが付いていたりして、とても可愛らしい。


それに何より、部屋がとても広い。こんなにも立派な部屋を、私が使ってもいいのかしら?そう思うくらい、広いのだ。さらにバスルームには、アロマオイルをはじめ、保湿クリームなどがこれでもかというくらい並んでいた。


実は私、アロマオイルが好きで集めているのだ。一応実家からも持ってきたけれど、まさか侯爵家でも準備してくれているなんて思わなかったわ。


「他にも、奥様がお好きだと聞いておりますお茶を、多数取り寄せておりますので、遠慮なく言ってくださいね」


側に控えていたメイドが、にっこり笑ってそう伝えてくれた。


「ありがとう。こんなに素晴らしいお部屋を準備してもらえるなんて、思わなかったわ」


「これは全て旦那様がご準備されたのですよ。奥様が少しでも過ごしやすい様にと」


「まあ、グリム様が?」


やっぱりグリム様はとてもお優しい方なのね。私の為に、ここまでして下さるなんて。なんだか心が温かいもので包まれた。


「申し遅れました。私、奥様の専属メイドを務めさせていただきます、カリーナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


改めて挨拶してくれたカリーナは、茶色い髪を1つにまとめた、可愛らしい女性だ。私と同じ歳くらいかしら?


「私はマリアンヌよ。これからよろしくね」


早速カリーナに手伝ってもらい、荷物をほどいていく。ふと部屋を見渡すと、夫婦の寝室に繋がる扉が見当たらない。確かお母様が夫婦の寝室に繋がる扉があると言っていたのだけれど…


「ねえ、カリーナ。この部屋から夫婦の寝室には、どうやって行くのかしら?」


ふと気になった事をカリーナに聞いてみた。すると、なぜかとても気まずそうな顔をして


「…えっと…申し訳ございません。私には分かりかねまして…その…」


シドロモドロで答えるカリーナ。


「カリーナ、もういいわ。ごめんなさい、分からないならそれでいいのよ」


必死にカリーナに訴えた。私のせいで、カリーナに気を遣わせてしまったのね。でも…夫婦の寝室の存在を隠しているなんて、グリム様は私の事を、妻として受け入れて下さっていないのかもしれない…


もしかしたら、嫁の貰い手がない私が可哀そうで、形だけ引き取ってくれたのかしら?もしそうなら、なんだか申し訳ない事をしてしまったな…


「奥様、もしよろしければ、屋敷内を見て回りませんか?この屋敷にずっと住むのですから。さあ、参りましょう」


早速部屋の外に連れ出してくれたカリーナ。一通り屋敷を案内してくれた。他の使用人たちもとても親切で、色々と教えてくれた。


中庭に出た時は、庭師が私の好きな花を聞いてくれたりもした。でも…使用人たちに優しくされればされるほど、なんだか申し訳ない気持ちになるのはなぜだろう…


一通り屋敷を案内してもらい、昼食を食べた後は、本を読んだり刺繍をしたりして過ごす。


「奥様、お茶はいかがですか?」


私に声を掛けてきてくれたのは、カリーナだ。目の前には数十種類のお茶が並んでいる。こんなにもたくさんのお茶を準備してくれたなんて。


「まあ、こんなにたくさん!それじゃあ、カモミールティを頂けるかしら?」


「はい、かしこまりました。他にもたくさんありますので、遠慮なくおっしゃってくださいね」


そう言って、お茶を入れてくれた。本当に良くしてくれる。でも私は、使用人たちの期待に応える事は出来るのかしら?ディファーソン侯爵夫人として…そんな不安がよぎる。


悶々とした気分で過ごしているうちに、気が付くと夕方になっていた。


「奥様、旦那様がお帰りになりました」


「わかったわ。すぐに行くわね」


急いで玄関に向かうと、既にグリム様の姿が。


「おかえりなさいませ。お出迎えが遅くなり、申し訳ございません」


急いで頭を下げた。


「ああ、気にしなくてもいい」


そう言うと、さっさと自室に戻ってしまった。私の顔を一切見ずに…


呆然と立ち尽くす私に、カリーナが声を掛けてくれる。


「奥様、そろそろ晩御飯の時間です。どうぞ食堂に」


「わかったわ。ありがとう。早速食堂に向かうわね」


初めてグリム様と一緒に食事を摂るのだ。気合を入れ直し、食堂へと向かったのであった。

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